п»ї 「暴走」タクシーに肝を冷やす『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第9回 | ニュース屋台村

「暴走」タクシーに肝を冷やす
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第9回

1月 30日 2015年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

◆圧倒された20年ぶりのバンコクの変貌

娘家族がラオスに暮らしており、毎年2回ほど東南アジアに旅行するようになった。妻と一緒に孫に会いに行くための旅行である。

今回はその途上、昨年暮れにバンコクとホアヒンに数日ずつ滞在する機会を得た。バンコクのすさまじい変わりようには驚いた。思えば20年ほど前に出張で2日間滞在したのが最後であった。以前に見たバンコクとはまったく異次元ともいえる大都会に変貌(へんぼう)していた。

ここ数年のタイは経済成長停滞が続き、格差拡大などを背景とした政情不安を生んでいると聞くが、上面(うわつら)だけを見る旅行者の私には何もわからなかった。

街は新年ということもあってか、繁華街を通る高架鉄道駅間の空中道路を歩く外国人を含む人波の混雑は、まさに芋を洗うがごとく激しいものだった。高層ビルも多く、中心部のショッピングセンターはどこも新しく、洗練され、買い物客でごった返していた。街の活気と若さと新しさ、それに車の多さに圧倒された。

◆堂々の「ながら運転」、時速はずっと100キロ超

12月29日にバンコクからホアヒンにタクシーで移動したが、その折にかなり肝を冷やした。ホアヒンはバンコクの南西約200キロに位置し、王室の保養地としても知られる海浜リゾート地である。比較的道路はよいものの、運転のスピードが半端でない。時速100キロを常時下回ることがなかった。

そして驚いたことに、携帯とかスマホを操作しながらの運転なのである。マイク付きのヘッドセットを使ってずっと話しており、当初はタクシー会社の無線で道路情報でも入手していたのでは、と好意的に推し量った。

しかし、始終やむことなく、言葉は全く分からないものの話しぶりから、ほとんどが友人らとの世間話をしていたであろうと今は推察している。私はシートベルトがない後部座席で片手で脇のストラップを握りしめ、通じないと知りながらホアヒンに着くまでの約3時間、”Easy”“Easy”と必死の手振りで安全運転を促すほかなかった。

◆多い?少ない?年末年始のタイの交通事故

そんな怖い思いをしながらホアヒンのホテルで元日の朝、目にしたのが以下のタイの英字紙Bangkok Postの年末からの車の事故に関する記事である。内容を下記にまとめる。

新年を挟む1週間の交通安全キャンペーンが12月30日にスタートした。しかしその初日に、年間(筆者注=おそらく前年実績)の総事故件数の3分の1にあたる508件が発生し、58人の命が失われ、負傷者は517人にのぼった。

これら事故件数のうち37%が飲酒運転によるもので、24%がスピードの出し過ぎに起因するという。そしてモーターバイクによる事故は総件数の82%を占める。ほとんどの事故が郡部の幹線道路上で夕方4時から夜8時までの間に起きており、死者の大半は若者である。

このキャンペーン初日に飲酒運転、スピード違反、無免許あるいはヘルメット無着用などの理由で検挙されたドライバーは7万6168人にのぼった。当局はそれぞれの県の主要道路にサービスセンターを設置し、新年の休暇期間中、運転者のサポートに努めるよう指示している。また、当局者はすべてのバスの運転手に対し、ドラッグとアルコールの乱用禁止を促した。

そして記事の末尾に、次のデータが添えられている。

【新年休暇中の道路事故】
▽12月30日:事故件数508、死者数58、負傷者数517
▽死者数が多い県と死者数:ブリラム6、チェンマイ4、チェンライ3、ピサヌローク3、ロブリー3、サラブリ3、スラタニ3
▽前年の新年休暇中(12月27日から1月2日の1週間)の事故:死者367、負傷者3344、事故件数3174

◆人の命の値段と国の勢い

約20年ぶりに訪れたタイの交通事情を目の当たりにして、最初の印象はやはり人命の値段が違うな、と感じたことである。2012年の数字だが、日本の年間交通事故死者数(警察庁調べ)は4411人という。

一方、世界保健機関(WHO)の統計では、タイで公表されている10年の交通事故死者数は1万3365人。しかしWHOによれば、実際にはその倍近い人数が亡くなっているとみられている。

これは事故でひどく損壊した身内の遺体を人目にさらしたくないという理由から、警察による十分な検分もなくさっさと荼毘(だび)に付してしまうためといわれる。

タイの人口が日本に比べて約半分であることを考えると、WHOの数字を信じれば死亡事故の発生頻度は日本の約6倍にのぼる。約20年ぶりのタイ再訪の機会に初めて訪れたホアヒンで知ったこのことに関連し、偶然にも私がタクシーの中で実感したこととまさに符合したのが今回のBangkok Postの記事であった。

日本は1970年(昭和45年)頃から交通事故死者数は減少の一途をたどっているという。私も含めて、人間とは当事者として被害に遭わない限り無責任なことをいうものである。そしりを受けるのを覚悟して言えば、国の勢いなどというものは人命の値段がある程度で収まらないと全く削がれてしまう。この記事はそんな日本の抱える問題を逆説的に示してくれている気がするのである。

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.bangkokpost.com/news/general/453479/day-1-58-die-on-holiday-roads

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