п»ї これでいいのか、サービサー法改正案 『山田厚史の地球は丸くない』第119回 | ニュース屋台村

これでいいのか、サービサー法改正案
『山田厚史の地球は丸くない』第119回

6月 22日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

金融サービサーという仕事、ご存知ですか。会期が7月22日まで延長された国会に、「サービサー法改正案」が提出されるという。サービサーは、銀行に代わって不良債権を回収する業者。バブル崩壊で大量に発生した不良債権の処理のために金融危機が起きた1998年に認められたビジネスである。扱えるのは銀行融資(債権)など金融資産に限定されていたが、これからは公共料金など金融以外の分野にも広げようというのが改正の狙いだ。

◆実態は「借金取り立て業」

サービサー。横文字で表現すると何をしている仕事か分からない。実態は「借金取り立て業」だ。銀行から「借金証文」を二束三文で買い、額面での返済を迫る仕事。しぼればしぼるほど儲けは膨らむ。トラブルは絶えない。取り立てに悲鳴をあげる人たちからは「サービサー業務を広げると、過酷な取り立てにさらされる被害者が増える」との声が上げている。

金融サービサー法は、正式には「債権管理回収業に関する特別措置法」と言い、金融危機が起きた1998年に議員立法で成立した。バブル崩壊で銀行に不良債権が山のように発生し、銀行は手におえず「特別措置」として取り立てを代行する金融サービサーを認可した。債務者である企業や個人は、銀行から借金をしたのに、ある日サービサーが突然現れ、強引に返済を迫る。「払う余裕はない」というと、自宅を競売に掛けるなど手荒な取り立てが始まるというのだ。

バブル期に発生した不良債権は、銀行が貸し出しを増やそうと取引先に儲け話を持ち掛ける「提案型融資」が少なからずあった。不動産の斡旋、相続対策と称して変額保険と抱き合わせる融資。結果として優良顧客に大損させるケースが目立った。

バブルが崩壊し、銀行は返済を求めるが、債務者は「銀行が勧めたことではないか」「なぜ私だけに損を押し付けるのか」と納得できない。事情が分かっている銀行は厳しい取り立ては出来ない。そんな「ワケあり」の債権などがサービサーに転売された。

買い取った業者は、債務者への配慮などは皆無だ。買い取り価格が1000円の借金証文でも額面が1億円なら、「1億円耳をそろえて返せ」と迫る。払えなければ「破産申し立てをするぞ」と脅し、商店など事業をしている借り手はすくみ上る。個人相手なら自宅を競売に掛ける。住む家がなくなることなどお構いなしだ。銀行ならやりにくい「冷酷な取り立て」が潤沢な利益を生む。

◆まるで「セカンドレイプ」

銀行融資は、債務者との信頼関係を媒介して行われるのが原則だった。「ヒト見て、事業見て、担保見て」。経営者の人格や手腕を判断し、事業が採算に合うか吟味し、そのうえで十分な担保をとって融資する。それが銀行員のイロハだった。

低金利が長くつづくと銀行は際限なく融資を膨らまし、原則破りの貸し出しが常態化する。バブルはそんな時期だった。不良債権の責任の一半は銀行にある。「貸し手責任」が問われるのはそのためだ。

だが債権をサービサーに叩き売ってしまえば、銀行は一件落着する。債権額と売却額の差を損金として処理すれば「不良債権処理」は完了。ところが債務者はそれで終わらない。地獄の苦しみが始まる。事情を知っている銀行から、取り立てだけのサービサーに債権が移るからだ。

「ただ同然」で債権を買い取って、額面通りの返済を迫る。例えば「バルクセール」と称して銀行は、借金証文(債権)を一括して「1枚1000円」で売り払う、ということが行われてきた。

法務省が発表した「サービサーの業務状況について」という資料によると、サービサーが2016年12月末までに回収した金額は48兆1979億円という。この裏には48兆円分の涙がある。これに相当する債権額は410兆9千億円というが、債権をいくらで購入したかは明らかにされていない。

バルクセールのような二束三文の債権から48兆円も回収できるなら、ぼろ儲けである。
過酷な回収がまかり通るのは、債権の購入価格の何倍で回収しようと「上限規制」がないからだ。消費者金融などの貸金業には「利息制限法」があり、取り立ての上限が決まっている。サービサーには規制がないから強引な回収を誘発する。立場の弱い人がイジメられる構図だ。
銀行は、サービサーに二束三文で債権を叩き売るなら、なぜ債務者の債権減額をしないのか。日本航空など経営危機に陥った大企業は借金棒引きで経営が再建された。サービサーに売却する額まで債務を減額すれば、「セカンドレイプ」と言われるような過酷で屈辱的な取り立てから債務者は解放され、再生の道を歩める。

◆業界潤す「エサ」目当て

債権の売却価格を公表しないのも、後ろめたいことがあるからではないか。

山のような不良債権を栄養分として、サービサーは金融危機のあと雨後のタケノコのように生まれた。一時は120社もあったが、債権処理が一服したこともあって16年末には82社に減った。業界を潤す「エサ」がなくなることを心配して業域を広げるのが、今回の改正の狙いだという。

1月23日、都内で開かれた全国サービサー協会の賀詞交歓会で渡邉宏実理事長は「法改正にむけ宜しくお願いします」と呼び掛け、上川陽子法相をはじめ与野党17人の国会議員が壇上に上がり鏡割りをした。その様子は同協会のホームページで紹介されている。

債権の回収は一般の企業や個人が業として認められていない。金融サービサーは金融危機という異常事態を受けて「特例措置」として法制化され、危機が去れば不要となる運命にあった。大儲けした業界は、国会議員に働きかけ、電気、ガス、奨学金へと触手を伸ばし延命を図る。

政治が目を向けるべきは、バブル被害の救済から取り残され、過酷な取り立てにあっている人たちではないのか。

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