п»ї やる?やらない? 消費増税は野党共闘へのクサビ『山田厚史の地球は丸くない』第126回 | ニュース屋台村

やる?やらない? 消費増税は野党共闘へのクサビ
『山田厚史の地球は丸くない』第126回

10月 19日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

安倍首相は15日の臨時閣議で消費税増税を来年10月に実施することを確認した。本来なら2015年10月から実施される予定だった。「来年、本当にやる?」という半信半疑の世論に配慮し、実施1年前のタイミングで「今度はやります」と表明したのだ。しかし、また留保がついた。リーマン・ショック級の経済危機が起きたら実施を見送ることがあるという。

この点を聞かれ菅官房長官は「最終的に判断するのは首相。それがいつになるかは分からない」と記者会見で語った。

やると言いながら「やるかどうかは首相次第」。この曖昧(あいまい)さが、いかにも安倍政権らしい。消費税は、いまや政治案件である。今回は野党一本化にくさびを入れる政権の飛び道具になりそうな気配だ。

「安倍さんは財政に関心はない。やりたいのは憲法改正。消費税増税は障害でしかない、というのが本音でしょう」

閣僚を経験した自民党の古参議員は言う。

首相の本音は「消費税はやりたくない」。財政の悪化は今に始まったことではない。残る任期の3年をやり過ごせばいい。つまり安倍政権は増税を差し迫った課題、と考えていない。

憲法改正は、自分が首相でいる間でしかできない。消費増税で躓(つまず)いたら支持率が下がり、憲法改正が吹っ飛びかねない。そんなリスクはご免だ。首相の頭のなかはそんなもの、というのだ。

消費税増税は安倍首相が政権を取った2012年12月には既定路線をなっていた。民主党の野田政権で民主・自民・公明による三党合意が結ばれ、2014年4月から8%、15年10月には10%に、と決まった。

敷かれた路線に従い首相は就任1年余で増税に踏み切る。財務省は「経済対策を打てば打撃はほとんどない」と説明していたが、増税は個人消費を冷やし、上半期はマイナス成長。首相は「財務省に騙(だま)された」と憤ったという。

デフレ脱却に消費増税は妨げになる、と考えた首相は、15年10月の10%引き上げを回避する方向に動いた。増税延期を選挙対策に使ったのである。

2014年11月の総選挙に「民意を問う」として増税延期を掲げ、勝利。不人気な消費増税を国政選挙の武器にする、という戦術に手ごたえを感じた。

この時、10%増税は「2017年4月から」とされ、首相は「再延期はない。リーマン・ショック級の経済危機が起きない限りは」と約束した。ところが2016年の参議院選挙では、経済危機など無かったが、増税を嫌う有権者に媚び「増税より景気回復」を訴え、国会議席の3分の2を与党が占める大勝利となった。

口では「やります」といい、「リーマン・ショック級の危機がない限り」という留保をつけるが、それは口先だけ。増税回避が政治的に得策と思えば、理屈は後から付いてくる。

「首相は増税する気がない」と有権者にメッセージを発しているようなものだ。

今回も「来年10月には実施します」というが、間際になったらやらない理屈が出てくるだろう。判断の基準は「経済状況」ではなく、「有権者の動向」だろう。消費税増税に反対する人がどれだけいるか、が可否を決まることになりそうだ。

来年は春に統一地方選挙があり、夏には参議院選挙がある。残る3年で憲法改正に決着をつけなければならない首相にとって、参議院選挙が決戦場になる。

議席を減らし「与党3分の2」を失えば、憲法改正の発議を国会で出来ない。改憲への動きはそこで終わる。

何がなんでも参議院選挙で勝たなければならない首相にとって、有権者の関心が高い消費税増税を参議院選挙にどう絡めることが突破口になる。目を付けたのが「野党の分断」である。

参議院選の勝敗を決定するのは、全国で32ある「一人区」だ。自民党が圧勝した2013年の参議院選で与党は一人区(当時は31)で29議席を獲得。野党は2議席にとどまった。野党候補が乱立したためである。この反省に立って2016年の参議院選は、野党が候補者調整して臨んだ。その結果、32議席のうち11議席を野党が取り、与党は21議席にとどまった。

2019年の参議院選挙で「野党統一候補」が一人区に立てば、与党三分の二の体制が崩れる可能性は高い。政権は何としても野党の選挙協力を阻止したい。そんな中で「消費税増税」が安倍政権の武器として浮上している。

選挙協力は共産党が呼びかけ、野党統一候補を早急に決めようと提案している。面倒なのは旧民主党を源流とする立憲民主党と国民民主党の調整だ。選挙協力には政策協定が欠かせない。そこで消費税が問題になる。

立憲民主党は「消費増税反対」を掲げ共産党と足並みを合わせる。国民民主党は「財政規律の回復」を掲げ「消費増税やむなし」の立場だ。民進党の最後の代表選は「消費増税を福祉目的に」と訴えた前原誠司と「消費増税反対」の枝野幸男が戦った。勝ったのは前原氏、敗れた枝野氏は、立憲民主党を結成した。

民主党政権の時、消費増税の三党合意がなされたいきさつもあり、当時の民主党主流を引き継ぐ国民民主党は「消費増税」に理解がある。憲法改正阻止では一本化できても、経済政策の柱である財政問題で政策的なよじれがあるのだ。ここに安倍政権はクサビを打ちこもうというのである。消費税増税を突き付けて政策の不一致を喧伝(けんでん)する。政策が違うのに一本化は野合だ、と。

消費税を「やるやる」と言いながら、直前になったらサッと身をかわし、「先送り」を打ち出すかもしれない。その時、有権者はどう反応するだろう。

政策の違いを乗り越え、野党は一本化して戦えるか。まもなく平成は終わり、新しい元号の時代に入る。政治はますます混沌(こんとん)としそうだ。

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