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本気度が問われるジョコ・ウィドド政権の外国企業誘致
『東南アジアの座標軸』第7回

4月 03日 2015年 国際

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宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

りそな総合研究所など日本企業3社の顧問。インドネシアのコンサルティングファームの顧問も務め、ジャカルタと日本を行き来。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

◆積極的投資の呼びかけ

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、3月22日から25日までの日程で日本を公式訪問しました。滞在中に安倍首相との首脳会談、日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所(日商)幹部との会談、さらに「インドネシア・ビジネスフォーラム」では自らが提唱する海洋国家構想の実現に向けてジャワ島以外の港湾建設計画、発電所建設などの必要性を訴え、日本企業に対してインドネシアへの積極投資を先頭に立って呼びかけました。これに応えるかのように日本政府は1400億円の円借款の供与を発表しています。

その後、大統領一行は日本の次の訪問先である中国に向かいましたが、今回の訪中前の3月11日付の現地報道では、駐インドネシア中国大使の発言として、大統領の海洋国家構想に対して400億ドル(約4兆8千億円)の資金提供を申し出ているようです。

日本はインドネシアとの国交回復以来、同国に対する最大の援助国として経済発展を資金面で支えるとともに、日系企業が集積するジャワ島のインフラ整備や港湾建設にも積極的に支援を表明してさらなる発展への貢献をアピールしてきましたが、経済規模で日本を抜き世界第2位の経済力をつけた中国政府は、海洋国家建設にも前向きに協力するとして、ジャワ島以外でもインフラ整備を優先課題にする現政権にとって実に心強い味方に映ります。

中国主導で創設される予定のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーに、インドネシアは名前を連ねています。かたや日本政府は、米国と歩調を合わせて3月末とされている創設メンバーに参加することはなさそうです。インドネシアにとって長年にわたり経済的友好関係を築いてきた日本政府や日本企業とのパイプも大変に重要ですが、先立つものが必要なジョコ政権にとって中国からの大盤振る舞いの資金提供申し出や今後のAIIBからの融資取り付けは実に魅力です。

日本政府も、したたかな中国の対応に後れを取ることのない戦略的な取り組みが欠かせません。さて、ジョコ大統領は日本企業に積極的投資を呼びかけましたが、インドネシア国内では気になる動きもあります。

◆外国企業の受け皿への規制強化

今年末発足するASEAN経済共同体(AEC)に照準を合わせるように、金融監督当局の金融庁は国内銀行の再編統合計画を進めようとしています。現在インドネシアには120行の商業銀行(国営銀行4、民間銀行65、外国銀行支店10、合弁銀行15、地方開発銀行26)が存在します。当局は120行の商業銀行に大幅増資あるいは合併などを促し、各行の規模を拡大させつつ銀行数の削減を目指したい意向です。

国内最大の国営マンディリ銀行は、2014年の純利益こそ円換算で約1900億円ですが総資産は約8兆円と小体です。かたやASEAN最大となるシンガポール開発銀行(DBS)の総資産は約29兆円です。AECはASEAN各国の金融機関に同一条件で競争させるのが狙いですから、銀行規模の格差は不利になります。さらに、持続的な経済成長のためインフラ整備の巨額資金や国内事業会社への融資に応える金融機関の規模拡大は当局の至上命題です。

ジョコ大統領は、公約で金融の外資規制強化を打ち出しています。年内に法制化を目指して審議する37の重要法案のなかには銀行法改正案が含まれています。報道では「国内金融機関に対する外国株主の出資比率を40%に制限する。さらに外国銀行(支店)は現地法人に転換。移行猶予期間は10年以内」の法案です。法制化された場合にグランドファザリング(既存行に不利益な扱いはしない)が適用されるのか不明ですが、議論の流れを読み解くと既存行にも影響がありそうです。

AECによってASEAN各国で外資の誘致競争が始まるなか、インフラ整備を進め、外国投資を促進して工業化と雇用機会の拡大を図りたいジョコ政権ですが、銀行法改正案が法制化された場合には外国銀行や合弁銀行にも大きな影響を与えます。外国銀行を現地法人化すれば、海外から自由に取り入れていたドルの資金調達に支障が出ます。

また、合弁銀行では主な外国株主比率を引き下げることで経営権の問題となる可能性があります。このため日米欧からの企業投資を現地で支えてきた外国銀行や合弁銀行の経営の自由度を削ぐことになり、政権の政策と矛盾します。

国家中期開発計画(2015年~19年)では、インフラ整備などの所要資金は約50兆円と、毎年10兆円資金が必要です。2015年度補正予算では原油安の恩恵によりガソリン補助金の廃止で約2兆円の財源を捻出(ねんしゅつ)できたものの、開発資金はとても足りません。もっとも、日本はもとより中国からの資金提供に大いに期待しているかもしれません。

◆問われる政策の一貫性

銀行法改正の背景には、1998年の金融危機で国有化した銀行を外資に開放してきた経緯があり、その後多くの銀行が買収されたことからAECで守勢に立つ金融機関を外資規制で保護する思惑が透けます。

外国投資に頼り経済成長を図りたい政権と、外国企業の重要な受け皿となる外国銀行や合弁銀行の活動を制約する銀行法改正の難しい2項対立方程式をどう解くか、今後の国会審議とジョコ大統領の手腕が注目されます。

さらに、国内現場では外国人就労者へのビザ発給要件の強化や外国人に対するインドネシア語検定試験制度の導入も検討もされており、対外的にはインドネシアへの積極的投資を呼びかけながらも、国内では外国企業や外国人に差別的ともいえる措置を打ち出そうとしている政権には政策の一貫性が求められます。

イソップ童話の話ではありませんが、インドネシアにとって「金の卵」を産む外国企業の誘致には熱心ながら、進出した外国企業の経営を不安定化させる投資環境を生み出してしまえば元も子もありません。

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