п»ї 核燃サイクルの破綻とモンゴル『山田厚史の地球は丸くない』第56回 | ニュース屋台村

核燃サイクルの破綻とモンゴル
『山田厚史の地球は丸くない』第56回

11月 06日 2015年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

福井県敦賀市にある「もんじゅ」といえば、政府と原子力産業が「核燃料サイクル」の切り札として力を入れてきた高速増殖原型炉である。地上に大量にあるウランを燃料に使い、燃えかすとして発生するプルトニウムを使ってさらに燃焼できる「夢の原子炉」と期待されていた。

ところが原子力規制委員会は11月4日、もんじゅの事業主体である日本原子力研究開発機構に対し、「もんじゅを安全に運転する能力に欠ける」との判定を下した。「やはり」というか「ついにそこまで」というのが率直な思いだった。

◆問題は開発体制とマネジメントに

もんじゅが火災事故を起こしたのは1995年。冷却材の金属ナトリウムが漏れ、空気に触れて発火した。以来、20年間ほぼ止まったまま。技術革新が早い今日、20年も足踏みしていたら「夢」も陳腐化するのではないか。

問題はそれだけではない。原発は止まっていてもカネがかかる。故障中のもんじゅは維持管理に毎日5000万円、年に200億円がかかり、税金が投入されている。

開発に失敗は付きものだ。火災を起こしたぐらいで夢は捨てられない、と研究者なら思うだろう。問題はその開発体制、マネジメントである。

火災が起きた時、情報を隠していたことが問題になった。15年かけてなんとか運転再開にこぎつけたが、3カ月後クレーンが中枢部に落下し、2年後の本格運転は見送られた。

朝日新聞によると、2012年に1万点の機器に点検漏れが指摘されたが、「未点検を解消した」と報告しながらも、新たな点検不備を繰り返し、8回も保安規定違反を重ね、今年8月には点検計画の前提となる機器の重要度分類にも誤りがあることが判明、なぜ誤ったのか、もはっきりしない、という。

こうしている間、米、英、仏、独など先進国は高速増殖炉の開発から撤退。技術的に難度が高く、核燃料の効率的利用という利点より、開発負担が大きすぎる、と判断した。

◆「原子力村」もお手上げ

日本がこだわるには、事情がある。「放射性廃棄物の処理問題」だ。国内54基の原発から出る使用済み燃料の処理がいまだに決まっていない。原発施設にあるプールはやがて満杯になる。青森県六ケ所村に「中間処理施設」を造り、あふれ出る使用済み燃料を受け入れている。

ここで使用済み燃料からプルトニウムなどを取り出し、敦賀のもんじゅに送るという段取りだが、ここも問題を抱えている。もんじゅと同様、トラブル続きで稼働できない。09年完成の予定だったが、すでに22回も延期され、今持って稼働のめどが立っていない。

核燃料サイクルと呼ばれるこの二つの施設に投じられた税金はすでに12兆円と言われている。巨額な資金と年月をかけながら、完成しない核燃サイクルは、「失敗」と見るのが常識的判断だ。

原子力規制委員会は日本原研に「能力なし」の烙印(らくいん)を押したのは、世間の見方を追認いしたにすぎない。どこか別の機関が取って代わることもできない。原子力発電を巡る利権によって結ばれた「原子力村」がお手上げ、ということだ。

その一方で、「原子力村」は、もんじゅや六ケ所が閉鎖されると困る。原子力に携わる人材が職場を失う。「核のゴミは処理します」という建前で、発電をしてきた原発が、その前提を失うことになる。

◆モンゴルは「核ゴミ」の捨て場に

結局は地下深く岩盤に穴を掘る「地下埋設」が模索されているが、各国とも適地に頭を悩めている。米国、ロシア、中国など広大な国土を持つ国はまだいい。それでもネバダ砂漠を候補地にした米国でも地下水汚染などの不安が持ち上がり、再検討が迫られている。環境への関心が高い先進国で、核のゴミの捨て場で住民の合意を取り付けるのは不可能に近い。

前回10月23日号の「ニュース屋台村」で、頻繁すぎる日モンゴル首相会談のことを書いたが、その直後に「もんじゅ破綻」を告白するような判断が規制委員会からなされた。「原子力村」の息がかかっている、といわれる規制委員会でさえ「核のゴミはもんじゅで始末します」という建前を維持できなくなった。

「無能」の表明は、モンゴルが引き受けてくれそう、という感触を得たからなのか。モンゴルではウランを掘った廃鉱跡地に、地下埋設の施設を造る計画がひそかに進んでいるが、候補地の周辺では羊の奇形など鉱毒が問題になっている。

「核ゴミ」の捨て場は、民主主義や人権が根付いていない地域に向かう。もんじゅの失敗が、モンゴルの犠牲につながっていいのだろうか。問われているのは、核をエネルギーにする文明のありようだ。

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