п»ї 現代中国の断面 さまざまな生き方・自己表現 『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第27回 | ニュース屋台村

現代中国の断面 さまざまな生き方・自己表現
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第27回

2月 23日 2017年 文化

LINEで送る
Pocket

SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

%e3%80%8e%e6%99%82%e4%ba%8b%e8%8b%b1%e8%aa%9e%e2%80%95%e3%81%94%e5%ad%98%e7%9f%a5%e3%81%a7%e3%81%97%e3%81%9f%e3%81%8b%ef%bc%9f%e4%b8%96%e7%95%8c%e3%81%a7%e3%81%af%e3%81%93%e3%82%93%e3%81%aa%e3%81%93
勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

今回紹介するのは、英誌「エコノミスト」2月11日号(印刷版)に掲載された、最近の中国テレビ界に登場するスターの話題です。日本ではこの種のいわゆるオネエ芸人は珍しくはありません。しかし話は中央統制の効いた中国社会でのことです。それも好奇心本位の浅薄短命なブームに乗るだけのテレビ芸人の域を超えて、スーパースターの地位を確立しているとされるリアリティー番組のヒーローというかヒロイン(?)の話です。一事をもって全体を判断することは適切ではありませんが、中国にもいろんな生き方や自己表現を行う人が出てきていることをうかがわせる内容です。

以下、訳を記します(※印は著者が付記し、本文末尾に説明を加えています)。

◆トーク番組の人気司会者は異色の経歴

リアリティーテレビ番組の女王 中国の性転換版オプラ・ウィンフリー(※注1)
女性になった陸軍大佐として、変わりゆく社会を身をもって例証

2017年2月11日、北京発

中国で人気のトーク番組の司会者は途方もなく異色の経歴をたどってきました。金星(Jin Xing)は軍慰問団で大佐になる前は中国のもっとも成功を収めたダンサーでした。彼はアメリカで名声を博し、ニューヨークタイムズ紙は彼を「中国の天才」と称しています。彼は性転換手術のために中国に戻る前にはブリュッセルとローマでダンサーの育成をしていました。その後女性として、彼女はバレリーナとしてのキャリアを再開し、中国で最初の民間バレー団を興し、北京でバーを経営し、ドイツ人実業家と結婚したのです。

性転換などはもちろんのこと同性愛だって顰蹙(ひんしゅく)を買う保守的な社会において、彼女はその生きざまによって中国放送界の退屈な主流からは大きく外れた存在とみなされることでしょう(※注2)。しかし、49歳の金女史は中国の最も人気のあるテレビ番組審査員なのです。彼女は初めに、中国版の「だから、あなたは踊れるというのね、(見てあげる)(So, You Think You Can Dance)」の番組を手がけ、そして「金星ショー」で大当たりを収めたのです。それは約1億人の視聴者が見ているバラエティートーク番組です。

そして彼女は中国版「アメージング・レース」(課題をこなしながら旅をするアメリカテレビ局発祥のコンテストの中国版)に夫と参加し他のカップルと世界中をめぐり競ったのです。さらに彼女が主導する最新の番組「中国式デート」は放映初年度です。

金女史の物語は彼女の子供時代から続く中国社会における著しい変化を映すものです。彼女は9歳で軍隊に入り、彼女が言うところ西洋では十分に子供虐待とみなされる訓練の体制に耐えたのです。彼女の性転換手術の最中に酸素欠乏の事態が生じたため左足をひどく痛め、担当した医師たちも運が良ければまた歩けるようになるのだが、といったほどの重い症状でした。果たして彼女は厳しい回復トレーニングのおかげでそれから1年以内にまたダンスを始めることができたのです。

逆境に瀕してのそんな頑張りのおかげで金女史は中国の年配者たちの支持を勝ち得ることになりました。その年代層はより保守的な彼女の支援者たちであり、意外にも最大のファン層でもあるのです。その支持者たちの多くも1960、70の両年代の文化大革命ならびに50年代末期の(毛沢東が進めた)大躍進政策のあとに起きて何千万人もの人が亡くなった飢饉(ききん)に最大級の困難に苦しめられたのです。80年以降に生まれた人たちさえ、 ――その世代の人口比率は今やもうおよそ半分を占めるのですが――彼らの先輩たちの艱難辛苦(かんなんしんく)をよく知っています。(訳出続く)

◆アイデンティティークライシス(自己同一性危機)

金女史の愛国心あふれる中国人としての対外的な自分と、外国人の夫と共に世界を飛び歩く旅行家としてアピールする自分(1月にはダボスで開催された世界経済フォーラムにはグローバルに著名なエリートたちと一緒に参加している)との間で揺れる葛藤は、彼女の同胞たちの間でも広く同感されています。彼女の支持者たちは世界中で最も大規模な旅行民族集団となりました。

昨年中国人が休暇で外国へ出かけるために発行されたビザは1億枚を超え、それは他のどんな国の人が外国へ出かけた人数よりも多いのです。金女史は自分のことを称して「西洋を渇望しつづけた少年」だったと描いています。彼女はいつかコカコーラを飲んだり、パリで自由を味わい、あるいはこっそりとポルノ雑誌を眺めたり、グリニッジビレッジのゲイバーをめぐったりすることをあこがれたと書いています。彼女は回想録「上海タンゴ」のなかで、ニューヨークのゲイコミュニティー(男性同性愛仲間)においては自分のことを「二重の意味でよそ者であることを感じた」と述べています。――すなわち、男性の体をした女性として、そして外国にいる中国人(彼女はさらに、たまたま朝鮮系の血筋であることも加えるでしょうが)としてそう感じたのです。

ベルギーでは、通りで見かける中国語で書かれた看板を煩わしく感じます。(通りで)中国の人たちの発する声が「どんどんうるさくなっています」。彼女はブリュッセルの市場で明朝の磁器を眺めながら、外国に住み、祖先の遺産に対し「軽蔑だけを」感じている中国人のことを「恥ずかしい」と思うと述べています。

中国には国内よりも西洋でより知られている文化人が何人か存在します。金女史もその1人でしょう。しかし、彼女は、母国ではその種の手術の前例がほとんど知られていないために彼女に降りかかるかもしれない危険を冒し、性転換手術のために中国に戻りました。彼女は言います。「私は中国で生まれた以上中国で女に生まれ変わらねばなりません」と。

中国の国家主席習近平氏は自らを伝統的中国文化の頑強な番人と称し、西洋「侵入」の危険を警戒しています。彼の考えは、「中国文化の保全」保護を求める最近の正式指令において明確に示されています。しかし、金女史の支持者たちのほとんどがそうするように、彼女は得たいものは中国、西洋のどちらからでも手に入れたいと思っているのです。

一見したところ、彼女は非伝統的なことならすべてを具現化している人物のように見えます。彼女が男であることを拒絶することは儒教文化の前では問題外です。彼女を有名にしている特有のぶっきらぼうでナンセンスを許さない、だけど粋なテレビ出演の際の所作言動は――お定まりの女性としての従順さとは正反対のものである。だが、かといって彼女の女性としての人生は慣習に対する単なる反抗と片付けられるものではない。3人の子供を養子に迎え、結婚して(外国人とではあるが)彼女が呼ぶところ「本物の中国人家庭」を築いたのです。彼女が大事にする価値感は中国においてさえ今や古いものといえます。彼女が仕切る(テレビの)新しいデートゲームで参加者は各々の家族の合意なしに相手を選ぶことができません。事実、参加者の結婚相手候補に面接するのはその家族なのです。――ですから時として、女性側は子供を持つことについてとか男性にはおカネについてとか遠慮なく尋ねられるひどく性差別的に展開する結果になることがあります。それはある視聴者には耐えられない番組でしょう。ネット上の批評家たちはその番組形式を狂っているとか「懐古趣味だ」とこき下ろすのです。しかし、金女史の人気は多くの若者たちが伝統を捨て去るべきではないと信じていることをうかがわせるのです。

また、金女史は彼女の回想録で自身が模範とする2人の歴史上の人物について語ります。1人はドイツへの外交使節の愛人となった芸妓で、その外国語の知識により、1900年の義和団蜂起制圧のために送られたドイツ軍隊から清の皇帝を救った賽金花(Sai Jinhua)です(嫉妬した役人は彼女を痛めつけるために投獄しましたが。)金女史は、賽(さい)の貧しい者の定めと思える境遇に対する「抵抗」のさまに共感しています。

もう1人の模範は、驚くことに、文化大革命に絡んで最も嫌われた人物の1人で、紅衛兵たちが彼女の敵を痛めつけ殺すようあおった江青毛沢東夫人です。金女史は江青のことを「魅力と知性にあふれている」女性と呼び、往時の「主要な傑作」の創作者であるとしていいます(江青も共産党成立の初期には歌劇制作を指揮していたのです)。ヒロインが英雄的な芸妓や極悪とされる歴史上の女帝だけではなく、性転換までしたトークショー司会者をも幅広く受け入れられるという事実は、いかに大きく中国が変わりつつあるかを示す証左であると言えるでしょう。

(※注1)米国で最高の人気を誇るトーク番組の黒人の女性司会者で、オバマ大統領の支持者でもある超著名人
(※注2)記事中に彼女がみかけも至極魅力的なアラフィフの女性の容姿で上海の自宅にくつろぐ写真が載っています

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.economist.com/news/china/21716633-army-colonel-who-became-woman-she-exemplifies-society-flux-chinas-transgender-oprah

コメント

コメントを残す