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東京近郊県の周遊型観光コースを提言
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第117回

4月 20日 2018年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住20年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

前回第116回(4月6日付)で、東北地方の外国人観光コースの提言を行った。今回は、関東隣県の外国人向け観光についての提言を行ってみたい(注:本文中のグラフ・図版は、その該当するところを一度クリックすると「image」画面が出ますので、さらにそれをもう一度クリックすると、大きく鮮明なものをみることができます)。

まず、下表の外国人1人当たり旅行消費単価の下位5位の県を見てほしい。なんと東京、大阪の隣県である千葉、山梨、兵庫、奈良が下位4県を独占しているのである。これまでもタイ人の好む観光コースの代表として「東京滞在型」と「大阪滞在型」についてはご紹介してきたが、大都市に宿泊した外国人が「つまみ食い」的に訪れる大都市近隣県にはお金は落ちていないのである。

◆成田空港は首都圏のレンタカー観光の基点に

特に象徴的なのが、千葉県である。成田空港とディズニーランドがあるため訪日外国人は第2位でありながら千葉県に落としているお金は1人当たり9千円弱。ディズニーランドの一日パスの料金が7400円(2016年4月1日改定)であることを考慮すると、それ以外はほとんど消費されていないことになる。
今回はこうした問題意識のもとに、外国人観光客により多くの消費を促す東京近郊県周遊型観光コースの開発を行ってみた。

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まず成田空港の現状を見てみよう。成田空港は1978年に開港。長年日本の玄関口として重要な役割を期待されてきたにもかかわらず、滑走路が4千メートルと2500メートルの2本しかないことや、離発着時間に制限があることからなどから、増加する国際線需要に応えられず「地盤沈下」が著しかった。このため2010年には羽田空港が再度国際化され、首都圏近郊へのアクセスや国内線の乗り継ぎに有利な羽田空港に主役の座を奪われてしまった。

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ところが、訪日外国人旅行客の急増に伴い、最近になって成田空港は息を吹き返してきている。前表を見ていただきたい。国際線利用者のうち日本人の旅客数は相変わらず減少傾向にあるが、外国人の旅客数は2013年から確実に増加している。この増加してきている成田空港に到着する外国人観光客をいかに取り込むかが東京近郊県の課題となる。

今回、私が着目するのはレンタカーの利用である。私も日本出張に際したびたびレンタカーを利用するが、最近外国人旅行者がレンタカーを借りにきているのをよく見かける。レンタカーのお店の人に伺うと香港、台湾、タイの方が多いと言う。

日本は整備の行き届いた道路インフラや交通マナーの良さから、外国人旅行者でもドライブしやすい環境が整っている。このためリピーターの外国人旅行者を中心にレンタカー観光の利用が増加しているのであろう。外国人旅行者が訪日で期待することは〈見る・体験〉〈食べる〉〈買う〉の3要素であり、訪日回数が増えるほど今まで経験していない3要素を求めて目的地が多様化していく。交通の便が少々悪い観光地でも、ドアツードアで快適にアクセスできるレンタカーを使った観光人気は今後高まると予想される。

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一方、首都圏はレンタカー観光の需要は高いものの、交通量の多さや道路の複雑さがネックとなっており普及が進んでいない。成田空港周辺は羽田空港周辺と比較して道が簡単で運転しやすく、都心を回避して首都圏近郊の観光地を周遊できる位置にあるため、外国人旅行者のニーズを捉えたレンタカーサービスを提供すれば、成田空港は首都圏におけるレンタカー観光の基点となるポテンシャルを有しているといえよう。

◆5泊6日首都圏近郊周遊モデルプラン

成田空港を基点としたレンタカー観光が盛んになれば、成田空港旅客数の増加に寄与するとともに、東京近郊県での滞在機会が増加すると見られる。そこで、成田空港を基点とした周遊観光の魅力を確認するため、5泊6日で首都圏近郊を周遊するモデルプランの提案を行いたい。なお、首都圏近郊は観光地が豊富にあるため、旅行者の好みや滞在期間に応じて、富士山観光や鎌倉観光などに変更・追加していくことが可能である。

■(1日目)佐原・佐倉観光

成田空港到着後レンタカーを借り、成田から近い佐原と佐倉を観光する。佐原の古い町並みを散策し、うなぎを食べる。時間があれば香取神宮や佐倉まで足をのばし観光、成田周辺のホテルで1泊。

〈見る・体験〉

・佐原:伊能忠敬邸など江戸情緒を感じる古い街並みが残っており、江戸時代にタイムスリップしたような気分になる

・香取神宮:全国400社の香取神宮の総本社。勝負事の神様として古くから崇拝されてきた

・佐倉:佐倉城跡や武家屋敷などがあり、城下町として栄えた歴史を感じさせる。佐倉城跡に隣接して国立歴史民俗博物館があり日本の歴史に関する資料を展示している(入場料420円)

〈食べる〉

・うなぎ:成田周辺は元々うなぎの産地で、長年受け継がれてきた秘伝のたれを使う歴史あるうなぎ店が多い

・黒切蕎麦:日高昆布を練りこんだ風味豊かな黒いそば

・草団子:香取神宮の名物。出来立ての団子はやわらかく、甘さ控えめの優しい味

〈買う〉

・てっぽう漬(白瓜):成田発祥の唐辛子の入ったピリ辛の漬物

・ちばミルフィーユ:葉っぱの形をしたイチゴ入りのパイ

■(2日目)日光観光

成田のホテルで朝食後、日光へ移動(成田~日光:190キロ、2時間30分)。午前中に世界遺産である日光東照宮を観光し、昼食は名物のゆば料理を楽しむ。午後は中禅寺湖と華厳滝で自然を満喫し、日光市内で夕食及び宿泊をする。

〈見る・体験〉

・日光東照宮:日本を代表する世界遺産で徳川家康を祀る。国宝8棟を含む55棟の建造物が並ぶ豪華絢爛な神社で、インスタ映えする極彩色の様式が特徴

・中禅寺湖:風光明媚な湖で、紅葉の時期は特に人気。遊覧船(1200円)からの景色も楽しめる

・華厳滝:中禅寺湖から流れ出す湖水による滝で、落差が97メートルあり迫力ある景色を楽しめる

〈食べる〉

・ゆば料理:日光名物で新鮮でヘルシーなゆばが食べられる老舗が点在。生ゆば刺身など大豆の豊かな風味を楽しめる

〈買う〉

・揚げゆば饅頭:名物のゆばを饅頭の生地に練りこみ揚げた饅頭

・ます寿司:中禅寺湖は日本有数のヒメマスの産地。新鮮なますを米酢でしめた逸品

■(3日目)秩父観光

日光のホテルで朝食後、秩父へ移動(日光~秩父:176キロ、2時間40分)。午前中は神社をお参りし、昼食は豚みそ丼を食べる。午後は迫力ある長瀞の川下りを楽しみ秩父で1泊

〈見る・体験〉

・三峰神社:標高1100メートルに位置し眺望が楽しめるほか、霧が多く霧に包まれた時は幻想的な雰囲気となる。狼が神の遣いとされており、パワースポットとしても有名

・長瀞川:外国人に人気の川下り(3~11月、2千円)やラフティング(4~11月上旬、6千円)が楽しめる

〈食べる〉

・豚みそ丼:豚のみそ漬けは秩父で古くから伝わる保存食で、焼いた時の香ばしいみその香りが特徴

・カキ氷:宝登山の湧水と無添加シロップで作られており、口に入れた瞬間雪のように解ける柔らかい舌触りのカキ氷

〈買う〉

・しゃくしな漬け:秩父で作られたしゃくしな(白菜)を伝統手法で漬けた漬物

・ちちぶぽてと:人気のスイートポテトで、外国人に人気の抹茶味は地元の狭山茶を使用している

■(4日目)箱根観光

秩父のホテルで朝食後、箱根(秩父~箱根:128キロ、2時間20分)へ移動。芦ノ湖や大涌谷の雄大な自然を楽しみ昼食は富士屋ホテルでカレーを食べる。観光後、夕方は早めにチェックインし温泉を堪能する

〈見る・体験〉

・箱根温泉:箱根湯本など20以上の温泉が集積する歴史ある温泉地

・芦ノ湖:遊覧船観光(1200円)で四季折々の風景を楽しめる。近くには箱根神社がある

・大涌谷:迫力ある火山活動が間近で見られる。箱根ロープウェイからは山と火山のコントラストが楽しめる

〈食べる〉

・富士屋ホテルのカレー:2290円。130年以上前から受け継がれ、今上天皇も食した伝統のカレー。コンソメを使ったやさしい味のカレー

・黒たまご:5個500円。温泉池で作られたゆで卵。1個食べると7年長生きするといわれている

〈買う〉

・カステラ焼き箱根まんじゅう:饅頭を蒸すのではなく焼いたもので、中は白餡が入っているがあんこが苦手でも食べられると評判

・雲助だんご:新潟コシヒカリと国産醤油で作られたみたらしだんごは古くから旅人の舌を楽しませてきた

■(5日目)房総観光

帰国前日はアクアラインを経由して房総半島へ(箱根~木更津101キロ、1時間40分)。午前中はマザー牧場で収穫体験を楽しみ昼食でジンギスカンを食べる。午後は三井アウトレットパーク木更津でショッピングを楽しみ夕飯は新鮮な伊勢えびを食べ、木更津で1泊する

〈見る・体験〉

・マザー牧場:羊や馬と触れ合える観光牧場。イチゴ狩りやさつまいも掘りなど一年を通じて収穫体験が出来る。キャンプ場を併設(入場料1500円)

・海ほたる:木更津から海ほたるまでの橋部分は景色がよくドライブに最適

〈食べる〉

・伊勢えび、アワビ、サザエ、カツオ:房総は豊富な海の幸が楽しめる

・なめろう:千葉の郷土料理で新鮮なアジに味噌やネギを合わせてたたいたもの。皿までなめるほどおいしいことから、なめろうと呼ばれる

・ジンギスカン、アイスクリーム:マザー牧場で新鮮なラム肉や乳製品が食べられる

〈買う〉

・ブランド品全般:三井アウトレットパーク木更津では以下の高級ブランドが手に入るが、主要人気ブランドの中ではLouis Vuitton、HERMES、GUCCIが手に入らない。

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・アジ、サバ、トビウオ、キンメダイ干物:新鮮な海の幸を加工し、うまみを閉じ込める。日持ちするためお土産に最適

 

■(6日目)帰国

木更津のホテルで朝食後、成田空港へ移動し(木更~-成田空港84キロ、1時間10分)帰国

〈日程表〉

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〈移動ルート〉

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モデルプランの作成により、成田空港を基点としたレンタカー観光は魅力的な観光地を効率的に訪問でき、交通量が多く道の複雑な都心を回避して周遊することができることが示された。しかし、レンタカー観光を促進していくには、外国人旅行者が気軽に安心して運転できる環境を整えることが欠かせないため、以下の提案を行いたい。

・外国人向け補助金プランの導入

レンタカー利用者に対して自治体から補助金を給付するプランの導入を提案したい。既に一部の自治体で導入実績があり、SNSでアピールすることを補助金の条件としてり、旅行者誘致と地元のアピールを図っている。

・多言語カーナビの充実

大手レンタカー事業者のカーナビは68.5%が多言語カーナビとなっているが、大半は日、英、韓、中の4カ国語に対応している。多言語カーナビの導入拡大とタイ語など対応言語の拡大を進める。

・外国人旅行者のレンタカー事故対策

外国人のレンタカー利用増加に伴い交通事故も増加すると見られる。事故が起こらないように日本の交通ルールや注意点を周知するとともに、万が一事故が発生した場合も、その後の処理がスムーズにいくよう、警察・医療機関・保険会社の連携体制強化が必要。

このほかレンタカーを利用できない外国人観光客に対しては「観光地間をつなぐ路線バス」と「乗り放題チケット」の開発も併せて提案したい。外国人向けの定額乗り放題パスの提供は北海道や東北などですでに開始されている。

◆重要な「絞り込み」と「囲い込み」

以上、今回は東京近郊県周遊型観光コースの提言を行ってきた。これまでも繰り返し述べてきたことであるが、外国人観光客誘致において重要なのは「見る」(観光スポット・体験スポット)、「食べる」(ご当地グルメ)、「買う」(ブランド品・お土産)の3要素を備えた観光資源を数多く作っていくことである。

外国人の目線に立ったこれら「3点セットの絞り込み」がまず重要である。「当地には何でもあります」という言葉は「当地にはたいしたものがありません」と同義語なのである。今回コースに組み込んだ観光地は私が知っている場所に限定されており、これ以外にも3点セットのそろった観光地を多く作り出していく努力が必要である。

その次に重要なことは、観光客をその「地域に囲い込む」ことである。これまでの私の経験では近くにある観光地はお互いがライバルであり、協力に極めて消極的である。これは「県」単位でも同様である。隣県のことは悪く言うことはあっても、決して良くは言わない。しかし目的が何なのかを冷静に考える必要がある。

外国人観光客の消費を増やしたいなら、東京近郊県が集まって知恵を出すことが不可欠である。道路網が整備されている東京近郊県だからこそレンタカーを活用した観光に活路が見いだせると確信している。

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り

第116回東北地方の外国人向け観光について考える(2018年4月6日)
https://www.newsyataimura.com/?p=7278#more-7278

第109回「観光立国―日本」は貧しさの証明?(2017年12月15日)
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第106回四国地方の観光プランを作ってみた!(2017年11月2日)
https://www.newsyataimura.com/?p=6961#more-6961

第105回 大都市・大阪の地方創生(2017年10月20日)
https://www.newsyataimura.com/?p=6910#more-6910

第100回 宮城県の地方創生と地域金融機関に期待されること(2017年8月10日)
https://www.newsyataimura.com/?p=6779#more-6779

第94回 抜本的な産業育成の必要性―埼玉県の地方創生(2017年5月19日)
https://www.newsyataimura.com/?p=6629#more-6629

第93回 北陸地方の観光振興策を考える(2017年5月2日)
https://www.newsyataimura.com/?p=6571#more-6571

第87回 奈良県の地方創生について―小澤塾塾生の提言(その6)(2017年2月10日)
https://www.newsyataimura.com/?p=6331#more-6331

第84回 「賢者」に学ぶ日本の観光(2016年12月16日)
https://www.newsyataimura.com/?p=6203#more-6203

第75回 産学連携による広島県の地方創生(2016年8月16日)
https://www.newsyataimura.com/?p=5758#more-5758

第69回 北海道の地方創生を考える
https://www.newsyataimura.com/?p=5492#more-5492

第67回 神奈川の産業集積と地方創生(2016年4月15日)
https://www.newsyataimura.com/?p=5364

第65回 大分県の地域再生―「小澤塾」塾生の提言(その3)(2016年3月18日)
https://www.newsyataimura.com/?p=5244

第61回 山形の地域創生―「小澤塾」塾生の提言(その2)〈2016年1月22日〉
https://www.newsyataimura.com/?p=5077

第58回 愛知県の産業構造と地方創生(2015年11月27日)
https://www.newsyataimura.com/?p=4921

第56回 成田国際空港の貨物空港化への提言(2015年10月30日)
https://www.newsyataimura.com/?p=4807

第54回 タイ人観光客を山梨県に誘致しよう―「小澤塾」塾生の提言(2015年9月11日)
https://www.newsyataimura.com/?p=4706

第47回 地方創生のキーパーソンは誰か?(2015年6月5日)
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第44回 おいしい日本食をタイ全土に広めたい(2015年4月24日)
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第28回 老人よ!大志をいだけ―地域再生への提言(その2)(2014年9月5日)
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