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産業用ロボット大手「埃斯頓」が独の100年企業を買収する狙い
『中国のものづくり事情』第23回

2月 03日 2020年 経済

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Factory Network Asia Group

タイと中国を中心に日系・ローカル製造業向けのビジネスマッチングサービスを提供。タイと中国でものづくり商談会の開催や製造業向けフリーペーパー「FNAマガジン」を発行している。

家電世界大手の中国・美的集団(マイディアグループ)によるドイツ産業用ロボット大手クーカの買収をはじめ、ロボット業界では近年、海外メーカーに対するM&A(合併・買収)が活発だが、久々に大型M&Aが実行されようとしている。

仕掛けたのは、中国の産業用ロボット大手「南京埃斯頓自動化(ESTUN)」だ。2019年8月26日、同社は支配株主である「南京派雷斯特科技」と共同で、独溶接ロボット大手CLOOSと買収に関する契約を締結したと発表した。それによると、両社が出資する投資会社「南京鼎派機電科技」の独子会社「SPV」を通じて、1億9607万ユーロ(約232億6400万円)でCLOOSの全株式を取得する。

1993年に設立された埃斯頓は、自動化設備のキーコンポーネントとモーションコントロールシステム、産業用ロボットとスマート製造システムを事業の柱としており、2015年には深圳証券取引所に上場している。18年の売上高は、前年比38%増の14億8567万元(約237億7100万円)、総利益は前年比10%増の1億2707万元(約20億3300万円)と、好調だった。

潤沢な資金力を武器に、17年は特に積極的にM&Aに動いている。2月には香港子会社を通じ、制御装置の英トリオ・モーション・テクノロジーの全株式を1550万ポンド(約20億4600万円)で取得。4月には、ロボットアームの米バレット・テクノロジーの株式30%を900万ドル(約9億6300万円)で取得。9月には、ファクトリー・オートメーション(FA)の独M.A.iの株式50.01%を886万9000万ユーロ(約10億5200万円)で取得。12月には、レーザー機器やACサーボシステムなどを手がける揚州曙光光電自控の株式68%を3億2555万元(約52億900万円)で取得した。手当たり次第に買収するのではなく、それぞれが異なる分野であり、それらを組み合わせることで同社は成長してきた。

ロボットメーカーの世界4強は、ファナック、ABB、安川電機、クーカだが、埃斯頓は「上海新時代電機(STEP)」「新松機器人自動化(SIASUN)」「広東拓斯達科技(TOPSTAR)」と並んで中国4強の一角を占める。同社のことを「小ファナック」と称す中国メディアもあるほどだ。

同社はこれまで、コンポーネントを生産する企業を中心に買収してきた。海外のロボットメーカーを子会社化するのは今回が初めてだが、狙いはどこにあるのだろうか。

◆業績悪化のなか踏み切ったM&A

CLOOSは1919年に設立された100年企業で、81年から溶接ロボットを開発。世界で最も早く溶接ロボットの製品化に成功した企業の一つだ。2018年度の売上高は1億4400万ユーロ(約171億円)で、純利益は1244万ユーロ(約14億7700万円)。赤字を計上しているわけではないのに、売り上げ規模がそれほど変わらない埃斯頓の買収に応じるというのは、先行きに懸念があり決断したのかもしれない。

CLOOSはすでに「卡爾克魯斯焊接技術(北京)」を通じて中国事業を展開しているが、埃斯頓は研究開発、設計、製造、顧客サービスに至るまで、従来の体制を維持するとしている。埃斯頓の傘下に入ることで、CLOOSの中国事業は拡大するだろう。

一方、埃斯頓側の事情を見てみると、18年は好調だったものの、景気低迷の影響から免れることはできず、19年上半期(1〜6月)は売上高が前年同期比6%減の6億8100万元(108億9600万円)だった。しかし一方で、産業用ロボット部門の売上高については、同比10%前後の増収だという。中国で生産工程のロボット化が進むなかで、同社は、成長の余地はまだまだあると見ている。それがCLOOSの買収へと突き動かしたのだろう。

 溶接ロボットは、自動車業界で多く使われる。中国の自動車販売台数が落ち込んでいるといっても、依然として世界一の市場であることに変わりはない。〝CLOOS〞というブランドを手に入れたことで、外国メーカーに採用されるチャンスも増えるかもしれない。

CLOOSは世界に13の子会社と50以上の営業拠点を有する。埃斯頓には、このネットワークを活かし、海外展開を加速させる狙いもある。それは世界4強の主戦場で戦うということを意味するが、果たして埃斯頓は、それらを脅かす存在になれるのだろうか。

埃斯頓とCLOOSの売上高を合算すると400億円程度だが、たとえばファナックの18年の連結売上高は6356億円だ。4強との距離はあまりに遠い。埃斯頓が世界のトップ集団を目指すためには、さらなる大型M&Aが必要になるだろう。

※本コラムは、Factory Network Asia Groupが発行するFNAマガジンチャイナ2019年10月号より転載しています。

http://www.factorynetasia.com/magazines/

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