п»ї リモートワークで進歩するコミュニケーションの中で『ジャーナリスティックなやさしい未来』第212回 | ニュース屋台村

リモートワークで進歩するコミュニケーションの中で
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第212回

6月 14日 2021年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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◆本当の「豊か」に向けて

 新型コロナウイルスの対策としてリモート業務が推奨される中にあって、その仕組みも「進歩」「発展」の中で新しいコミュニケーションの形がどんどんと社会に広がっている。それが社会の発展なのか、コミュニケーション行為の進展なのか、私たちの幸せにそれらが本当につながっているのか、ということを考えると、立ち止まりつつ考える必要性を感じている。

それは私自身、支援活動をする中で、コロナ禍の影響で外に出られない人、特に感染リスクの高い重度障がい者にとっては、安全な場所にいることがなおさらに求められるから、その場所で支援を受けることを前提にして、社会や周囲とコミュニケーションを維持しながら、社会に接していく必要がある。

本当に豊かなコミュニケーションに向けて緊急事態の中で冷静に「進歩」「発展」とどのように付き合っていくかも課題だ。

◆数値に向かうトレンド

最近の経済トレンドを伝えるニュースでは、リモートワークに関する開発が次から次へと紹介されている印象がある。それぞれが在宅で仕事をしながらもアバターを使ってあたかも同じ空間にいるような感覚でコミュニケーションが出来る仕組みや、リモートの会議の会話のやり取りを見える化し、誰が誰にどのくらいの割合で反応しているかなど。

会議の際に出席者の顔の表情をAI(人工知能)が読み取って、即座に「肯定的な表情か」「否定的な表情か」がパーセンテージで示されるものもある。

人と人のコミュニケーションは顔を見てその表情を読み取りながら、進めていくという基本から、それが数値化されると、顔を見ることなく、その数字ばかりに気を取られてしまって、数字と対話することになるのではないかと、懸念もするが、数年前の「懸念」が今や日常になっているケースは多いから、うまく活用することを考えたほうがよいかもしれない、など逡巡(しゅんじゅん)する自分がいる。

◆「とりあえず」が

という私は数年前にAIによる笑顔測定の開発に関わったことがある。

障がい者就労という枠組みで支援をする中で、面接の対策や職場でのコミュニケーションにおいて「笑顔」は重要であるが、その笑顔のやり方がわからない、という人がいる。特に愛想笑いや人への親和的な態度としての笑いは、障がいの特性によってはまったく理解できない人がいる。

そのために、数値化することで、社会一般が受け入れられる「笑い」を身に着けるのはどうだろうという発想であるが、もちろん、これは社会に適合させるための、「とりあえず」の策。その数値化されたところから、本来のコミュニケーションの場で相手の反応を得て、真の笑顔を獲得していくというプロセスのきっかけではあるが、これまだ道半ばである。

このような技術は障がいによりできないことをできるようにしていくためである一方、その障がい特性を消してしまうことで良い点も悪い点もあるから、悩ましい。

◆感情を大切にしながら

コミュニケーションを円滑にすることで社会を活性化させ、人々の暮らしを豊かにしようという大きな方向性の中にあって、実はコミュニケーションは二分化しているのも事実である。

経済社会の生産性優位の中では、経営学の神様、ドラッカーのコミュニケーションに関する解説が的を射ている。彼によるとコミュニケーションは「思想、意見、情報を伝達しあい、心を通じ合わせるプロセス」であるが、それは「情報は感情、価値、期待などの人間的属性を除去すればするほど、有効となり、信頼性が高くなる」という。

感情のないもの、例えば数だけのほうが信頼を得られることを断言したこの考えは今の社会を成り立たせている思想でもある。感情を排して事を前に進める仕事は多い。

先ほどの笑顔の数値化もこの流れなのかもしれない。支援する仕事と新しい技術。新しい世界を作るには重要なかけ合わせだが、今の感情を大切にしながら前に進めていかなければ道を間違うかもしれないから、やはり考えながら、がよいと思う。

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