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国際物流における航空・海上輸送の発展と日本の課題
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第258回

1月 19日 2024年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住26年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

日本は資源やエネルギー、穀物などを海外から輸入し、自動車や電機製品を輸出して経済活動を行っている。また、我々の日常生活においても、楽天やアマゾンで気軽に海外の品物を注文し、わずか数日で受け取ることが可能である。これらはモノが運ばれることによって成り立っている。物流は世界経済に欠かすことのできない機能であり、常に世界中で膨大な数量の輸送活動が行われている。

ところが、日本は行政の立ち遅れから、空港や港湾の運営面で世界の中で大きく立ち遅れている。こうした実態については、これまでも拙稿第56回「成田国際空港の貨物空港化への提言」(2015年10月30日付)、第186回「日本の港湾の国際的地位を取り戻すため」(2021年1月29日付)などで取り上げてきた。

今回は国際物流の主要な輸送手段である航空輸送および海上輸送について、それらを担う世界の空港・港湾・輸送企業に関して総合的に見直してみたい。

1.国際物流の概況

1-1.貿易と物流の規模

図1:貿易額とGDP貿易比率および航空貨物量と海上貨物量の推移

出典:国連貿易開発会議、国際通貨基金、国際民間航空機関、日本船主協会の統計より作成

①経済のグローバル化により世界の商品貿易額は右肩上がりで増加しており、輸出入の総額は2000年の13.1兆ドルから2022年は50.5兆ドルへ3.8倍に増加している

②2022年の世界の名目GDP(国内総生産)合計はおよそ100兆ドルであるため、GDPに占める貿易の比率は50%を超えている。世界経済における貿易の重要性は非常に高い

③輸送量について、2000年から2021年で航空貨物量は30.4トンから56.5トンに、海上貨物量は6420トンから1万1982トンにそれぞれ186%増加している。航空貨物は2020年に一時的に減少しているが、これは旅客機でも貨物が輸送されるため、世界中で発生したロックダウンが主な要因であると考えられる

1-2.航空輸送と海上輸送の特徴

表1:航空貨物輸送と海上貨物輸送の違い

出典:各種ウェブサイトより筆者作成

①航空輸送は海上輸送と比較して平均して約10倍のコストがかかるが、東京~ロサンゼルス間を海上輸送が約10日要するのに対し、約10時間で輸送が可能であるため、時間を大幅に短縮できる。また、輸送中の損傷や紛失・盗難のリスクも低い。したがって半導体や精密機械類など、高付加価値で運賃負担力の強いモノや、医薬品や生鮮食品など短納期が求められるモノの輸送に利用される。なお、積載容量は限られるため、軽量なモノであることが多い

②海上輸送はコストが低く、積載容量は航空貨物の100倍以上であるため大量にモノを運ぶことができる。ただし複数の港に寄港するため輸送時間は長く、航海中の天候や自然災害による損傷などのリスクも存在する。原油や鉄鉱石、石炭などの資源、自動車や穀物など重量物が専用船で輸送されるほか、コンテナを利用した一般貨物も多く運ばれる

③これらの特性から、国際貿易において重量ベースでは99%以上が海上貨物である一方、貿易金額ベースでは航空貨物が約3割を占めている

④国別では、半導体などハイテク産業が集積するアメリカが航空輸送、資源の生産および消費大国である中国がそれぞれ世界で最も輸送量が多い

2.航空貨物輸送について

2-1.空港について

表2:国際貨物取扱量ランキング上位10空港

出典:国際航空運送協会(IATA)公表資料より筆者作成

①2000年と2022年を比較して、香港国際空港が世界1位の貨物量を取り扱っている点は変わっていない。なお取扱量は2241千トンから4169千トンへ大きく増加している。香港は自由貿易港であり輸出入品に関税が発生しないため輸送拠点として有利である。グローバル化によって世界中の企業が中国に生産拠点を設け材料や製品の輸出入を行ううえで、多くは香港を経由しているほか、中国の再輸出拠点としても香港が利用されている

②アメリカは世界で最も多くの航空貨物が輸送されているが、国際貨物量では上位にランクインしている空港は少ない。広大な国土があるため、国内物流に航空輸送が多く利用されていることがわかる

③仁川国際空港(2001年開港)、上海浦東国際空港(1999年開港)と近年新設された空港のほか、台湾桃園国際空港がアジアの中継拠点として貨物量を増やし、上位5空港を東アジアが独占している

④成田国際空港は世界5位の貨物量を取り扱うが、2000年の2位から順位を下げている。取扱量は187万6千トンから235万6千トンへ25%の増加であり、86%増加した香港国際空港や2000年の金浦国際空港から82%増加した仁川国際空港など、上位の空港と比較すると増加幅は小さくなっている

2-2.空港の設備について

表3:国際貨物取扱量上位5空港の設備比較

出典:各空港のHPより筆者作成

①国際線の大型機が離陸するには3500m程度の滑走路長が必要である。貨物量上位4空港はいずれも3500m超の長い滑走路を複数配備している特徴がある

②運用時間は、成田空港を除き24時間である。24時間運用は深夜便の受け入れることができるため搬入や搭載を柔軟に行えるほか、積み替えもスムーズに行うことが可能であり、トランジットの利用に有利となる

③成田国際空港は他の4空港と比較して下記の点において競争力が劣後しているといえる

・滑走路が2本のみであり、大型機が離陸できる3500m超の滑走路は1本しかない。複数の航空機が同時に利用できないほか、事故等で閉鎖された場合の代替がない

・運用時間に制限があるため、時間内に離発着できない貨物は翌日の取り扱いとなることから、航空輸送の利点である速達性を妨げている

・開港から45年が経過し設備が老朽化しているうえ、拡張も進んでおらず、貨物の処理能力に限界がある

・着陸料が高く、荷主や輸送企業にとってコスト増となる

これらの問題点の影響は、次項のトランジット(中継)貨物の大小に表れている。

2-3.トランジット

図2:仁川、台湾、成田のトランジット率の推移

出典:各空港のHP内統計資料より筆者作成

①トランジット貨物は、中継地の空港に到着した航空機に積まれたまま、あるいは別の航空機に積み替えられ、最終目的地の空港に輸送される貨物を指す。直行便がない目的地への輸送や、より早く到着可能なルートを選択したい荷主や物流事業者に利用される

②積み替えの中継点を担う空港は「ハブ空港」と呼ばれ、荷主や物流事業者から選択されやすくなる。ハブ空港を持つ国は自国貨物の輸送に有利なほか、他国の貨物も取り込み着陸料などの収入を得ることができ、国際社会における地位向上につながる

③仁川国際空港、台湾桃園国際空港、成田国際空港はトランジット貨物量を公表しており、総貨物に占めるトランジット貨物の比率を見ると、成田が28.3%であるのに対し、仁川は49.4%、台湾桃園は38.5%と貨物の約半分がトランジット貨物である。これら3空港は中国に近く、海に面するという地理的な類似性が高いが、トランジット率の高い空港が取扱貨物量も多くなっている

④成田国際空港は前項で示した施設面での問題から、東アジアのハブ空港としての地位を仁川、台湾桃園に取られており、多くが国内需要による貨物量に依存している状況にあるといえる

2-4.航空会社について

表4:IATA(国際航空運送協会)加盟企業の貨物輸送量上位10社と日本の航空会社

出典:IATA 2022World Air Transport Statistics(日本貨物航空は決算説明資料)より筆者作成

①アメリカは国内航空貨物需要が旺盛なため、フェデックスとユナイテッドパーセルサービス(UPS)が世界トップの輸送量である。なお、両社は航空輸送だけでなくトラックや倉庫も保有して集荷、配達まで行うインテグレーターであり、自社でドアツードアの輸送を完結できる強みがある

②航空会社でトップにあるカタール航空とエミレーツ航空の中東各社は、政府が株式を100%保有する国有企業である。政府からの多大な支援をもとに、航続距離の長い大型機材を大量に取得し、国策として輸送量を増やしている。また、仁川国際空港のハブ空港としての発展に伴い、拠点を置く大韓航空の貨物量も100億トンキロを超え、世界の上位に位置している

③日本企業は全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)、日本貨物航空(日本郵船傘下)が国際便で貨物輸送を行っている。なお、全日空は日本貨物航空の買収を発表しており、実質的にはANAとJALの2社のみとなる。全日空の輸送量は50億トンキロ、日本航空は33億トンキロと上位企業の半数以下である。両社は成田空港を貨物の拠点空港としているが、成田空港がトランジットに不利であることから、貨物輸送量において世界の上位企業に差をつけられている状況にある

2-5.決算比較

表5:貨物輸送売上高、貨物輸送売上比率、営業利益率、貨物専用機数の推移

出典:各社アニュアルレポートより筆者作成

※ユナイテッドパーセルサービスの売上高は陸上部門を除く

※カタール航空は2015年以前の財務非開示 

※売上高は各社の決算日の為替レートで円換算

①フェデックス・エクスプレスの航空貨物売上高は約6兆円、ユナイテッドパーセルサービスは約5兆円と専業の航空会社と比較して突出して大きい。航空機による輸送のみでなく集荷や保管も行うほか、アメリカは国内でも航空輸送が多く利用されているためである

②2005年と2022年の売上高では、エミレーツ航空(963億円→6252億円)、大韓航空(2716億円→8133億円)となっており、表4のランキングで輸送量上位の企業は増加幅が大きい。全日本空輸(415億円→3322億円)、日本航空(2019億円→2089億円)の日本企業との差は拡大している

③大韓航空とカタール航空は、売上に占める貨物比率がそれぞれ57.6%、48.3%となっており、旅客と同等以上に貨物輸送の比重が高く、貨物機の保有も多い

④また、営業利益率はカタール航空15.6%、エミレーツ航空13.0%、大韓航空21.5%に対し、全日本空輸は7.0%、日本航空は4.7%と差が出ている。貨物売上高の大きさと営業利益率には相関があり、貨物輸送は収益性の高いセグメントになっているといえる

3.海上貨物輸送について

図3:世界の主要品目別海上荷動き量の推移

出典:(公財)日本海事広報協会「日本の海運 SHIPPING NOW 2023-2024」より筆者作成

品目別に見ると「その他」が増加しており、主にコンテナの増加に起因している。本章ではコンテナ輸送をメインに、海上貨物輸送について説明する。

3-1.港湾について

表6:世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング上位10港湾

出典:Lloyd’s List 100 Container Portsより筆者作成

①2000年と2022年を比較すると、上位10港のうち中国の港湾が2港から7港と大幅に数を増やしている。人口14億人からなる個人消費需要の多さや、「世界の工場」と呼ばれる工業品輸出の大きさにより、海上輸送において突出した規模がある

②日本の港湾は最上位が45位の東京港であるが取扱量は非常に少ない。なお、日本の全港湾を合計しても2246万TEUであり、6位の広州港(2460万TEU)1港湾に満たない規模である

※TEU=物流における貨物の量を表す単位で、20フィートの海上コンテナに換算した荷物の量を表す。例えば「10TEU」とは、20フィートコンテナが10個あること、20フィートコンテナ10個分程度の荷物の量があることを意味する

③中国以外の港湾ではシンガポール港(3729万TEU)と釜山港(韓国、2207万TEU)の取扱量が多い。これらの港湾が高い地位を持っている要因を次項で検証する。

3-2.コンテナターミナル

表7:コンテナターミナルの設備比較(水深16m以深)

出典:国土交通省港湾局「港湾・海運を取り巻く状況」より抜粋

①1万TEU以上の大型コンテナ輸送船を受け入れるには、岸壁水深16mが必要であり、シンガポール港、釜山港は16m以深のコンテナターミナルの岸壁整備を進めてきた

②日本は京浜港の横浜港が2015年に岸壁水深18mを共用開始し、世界最大級の大型船も寄港できる港湾となったが、岸壁延長としてはシンガポール港や釜山港の3分の1以下であり、非常に小さい

③シンガポール港は23mの岸壁を整備中であり、釜山港は21mの岸壁を整備中かつ23mを計画中であるなど、さらに設備を拡大し、大型船への対応を進めている

3-3.トランシップ

図4:港湾別コンテナ取扱個数とトランシップ比率の比較

出典:国土交通省港湾局「港湾・海運を取り巻く状況」より筆者作成

①コンテナ船は、様々な港に寄港しながら、積み下ろしを行う。総貨物に占めるトランシップ率はシンガポール港が86%、釜山港が54%と高く、多くのトランシップ貨物を取り込んでいる。なお、日本発着の貨物の多くも、シンガポールや釜山を経由して積み替えられている

図5:国際基幹航路における寄港回数の比較

出典:国土交通省港湾局「港湾・海運を取り巻く状況」より筆者作成

②コンテナ船は年々大型化し、大量の貨物が積み込み可能となっているため、取扱量の多い港湾が寄港に選ばれる傾向にある。日本の港湾は基幹航路における寄港回数は減少している

③日本の貨物も釜山港など他国で積み替えなければ目的地まで輸送できない状況では、輸送日数が余計に多くかかり、日本企業の競争力低下につながる懸念がある

3-4.コンテナ輸送企業について

表8:2022年のコンテナ船運航船腹量上位15

出典:日本郵船決算説明資料より筆者作成

①船腹量の上位3社で世界全体の65%、上位15社で90%を占め、主要企業が寡占的にコンテナ船を運航している。

図6:企業別船腹量の推移

出典:日本郵船決算説明資料(2006~2017年)を参考に筆者作成

②日本企業は2017年以前まで日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社が外航コンテナ輸送を行っていたが、トップのMSC(スイス)やMaersk(デンマーク)をはじめとした競合する大手企業が大型船を次々と投入し、日本企業との船腹量が大きく拡大した。規模で勝る大手との価格競争が発生し、日本企業のコンテナ船部門は赤字が常態化することとなった

③大手企業の規模の経済への対応の必要性から、3社は2017年に定期コンテナ船事業を統合し、シンガポールを拠点とするONE(Ocean Network Express)を設立した。現在、外航コンテナ輸送を行う日本企業はONEのみである

3-5.決算比較

図7:コンテナ輸送売上高と当期利益の推移(億円)

出典:各社のアニュアルレポートより筆者作成

※MSCは財務情報の開示なし

※ONEは2016年までは日本郵船、商船三井、川崎汽船の定期コンテナ輸送部門の売上高、経常利益を単純合算

※各社の決算日の為替レートで円換算

①売上高は直近の10年間でMaersk(1.9兆円→5.5兆円)、CMA CGM(フランス、1.0兆円→5.2兆円)、COSCO(中国・上海、0.5兆円→5.9兆円)、EVERGREEN(台湾、0.2兆円→2兆円)、ONE(0.2兆円→3.4兆円)と大きく増加している

②海運市況変動による利益のボラティリティー(変動の度合い)は大きく、利益の上下は各社一定程度相関する

③日本企業は2011年に3社合計の利益▲,058億円を計上し、以降赤字が続いていたが、各社のコンテナ船部門を切り離し、17年7月に世界有数の港湾があるシンガポールで独立させた。21年度のONEの当期利益は1.9兆円であり、世界の大手に匹敵する利益を計上している。ただしコロナ禍でのコンテナ輸送運賃の大幅上昇の恩恵を受けており、今後の利益推移を慎重に見ていく必要がある

4.おわりに

①国際貿易はGDPの半数以上を占めるまでに拡大しており、主な輸送手段である航空、船舶とも、輸送量は年々増加している。それぞれコストや時間、積載量に長短があり、航空機では半導体や医薬品など高付加価値品、船舶では鉄鉱石や石炭、コンテナなど重量物が輸送される

②航空貨物は、大型機が離発着できる長い滑走路を複数持ち、24時間運用可能な空港に多くが輸送される。それらを満たす香港、仁川(韓国)、台湾桃園などアジアの空港が優位性を持っている

③日本は成田国際空港がインフラ面で制約があることから、トランジット貨物を取り扱うことができず、ハブ空港としての機能を近隣他国に取られている。同時に、日本の航空会社の貨物輸送量も他国の大手企業に劣後している

④海上貨物においてはコンテナの輸送量が増加傾向にあるが、中国の港湾の取扱量が突出している。また、シンガポール港、釜山港(韓国)が、トランシップ貨物の取り扱いを増やし、ハブ港としての地位を高めている。これは大型船の寄港が可能な港湾設備を整備し、コンテナ船の寄港回数を増加させたことが要因である

⑤日本の港湾はハブ港としての地位を失い、船が寄港しないため、日本の貨物は他国でのトランシップを余儀なくされている。また、日本の海運会社の輸送規模も競合他社との差が拡大し、収益の低迷が続いたため、各社のコンテナ輸送部門を切り離し、事業統合によりOcean Network Express(ONE)を新設した。現在、ONEは世界有数の海運企業に成長している

⑥ONEの成功はハブ港としての地位が高いシンガポールを拠点としたことが挙げられている。しかし航空貨物、海上貨物とも、日本には世界的な輸送企業が存在していない。これは日本の空港、港湾がインフラ面で後れを取り、他国にハブ機能を奪われていることが一因として考えられる

⑦世界の物流網はアジアを中心に形成されていることは明らかであることから、国際ハブとして日本に貨物が運ばれる仕組みをつくるとともに、日本の輸送企業の競争力を高めるための物流インフラが求められる

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り

第56回「成田国際空港の貨物空港化への提言」(2015年10月30日付)

成田国際空港の貨物空港化への提言『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第56回

第186回「日本の港湾の国際的地位を取り戻すため」(2021年1月29日付)

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