п»ї 社会を折りたたむ 『みんなで機械学習』第34回 | ニュース屋台村

社会を折りたたむ
『みんなで機械学習』第34回

2月 26日 2024年 社会

LINEで送る
Pocket

山口行治(やまぐち・ゆきはる)

o株式会社ふぇの代表取締役。独自に考案した機械学習法、フェノラーニング®のビジネス展開を模索している。元ファイザージャパン・臨床開発部門バイオメトリクス部長、Pfizer Global R&D, Clinical Technologies, Director。ダイセル化学工業株式会社、呉羽化学工業株式会社の研究開発部門で勤務。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

◆制作ノート

英国の経済学者エルンスト・シューマッハー(1911~1977年)の「スモール イズ ビューティフル」における中間技術の提案を、「みんなで機械学習」として実現するため、「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」という拙稿を連載している。前回は、AGI(Artificial General Intelligence;汎用人工知能)と、組織の身体感覚について考えてみた。地域に根差して、創造性に富んだ個性的な中小企業が活躍する近未来の社会は、上から目線の、大きな社会主義の福祉社会ではなく、自発的な小組織が主役となる小さい福祉社会となるはずだ。機械学習する家族の居場所を、継続して考えてゆきたい。「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」は途中の画像以降なので、制作ノートに相当する前半部分は、飛ばし読みしてください。逆に言うと、制作ノートは形式にこだわっていないので、まとまりがないけれども読みやすいかもしれません。

「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」のゴールは、結論を論理的に構築することではなく、生活のライフサイクルにおいて、データの世界との共存・共生・共進化に希望を実感することにある。近代的なモノの価値に従属する経済から、コト(サービスなど)の意味を重要視する経済への移行を時代背景として、近未来のデータサイエンス テクノロジー アンド アート(データの世界)が、人類の文明論的な変革をもたらす夢物語を、少なくともディストピアとはしない、複数の探索路を切り開こうとしている。物語のゴールにおいては、意味が認知される以前の「データ」そのものが、みんなの機械学習によって、「言語」とは別の、文明の道具になるだろう。

◆スーパースター

「みんなで機械学習」のスーパースターは誰だろうか。筆者にとって、哲学におけるスーパースターは、本連載で何度も登場する17世紀近代合理主義哲学のスピノザだ。スピノザは、孤高の哲学者で、時代背景も今日の産業社会と大きく異なるため、「みんなで機械学習」とは距離感がある。筆者がデータ解析を職業とするようになったのは、米国SAS社の統計ソフトを使いたかった、という単純な動機だ。当時は、日本では新日鉄などの超優良企業しかSAS®を使っていなかった。化学会社では、米国のコンピューターネットワークに接続して、タイムシェアで使うのが精いっぱいだった。それでも、月間の使用量は筆者の給与よりも高額となることもあり、会社としての使用契約だったけれども、実際の使用者は筆者一人であったため、個人的な使用制限が設定されていた。日本の製薬企業では、SAS®だけではなく、統計パッケージを使った仕事は皆無だったと思う。FORTRANやBASICなどで、教科書レベルの統計計算のプログラムを作れても、SAS®のような一般逆行列による共分散分析のプログラムを作ることはほぼ不可能だ。時代はもう少し進んで、SAS社はUNIXのC言語で全てのソースコードを書き直し、自社でCコンパイラーを開発して、IBMのメインフレームから、MS-Windowsまで、UNIXシステムと同じSAS®の統計ソフトが動作する環境を作った。SAS社はソフトウェア産業のリーダーだった。そんな時に、SAS社の設立メンバーで上級副社長であるJohn Sallが来日して、Appleのマッキントッシュ®でJMP®という新しい統計ソフトのプレゼンテーションを行った。マッキントッシュ®の型式から想像して、1990年ごろだったと思う。SAS社としては、マッキントッシュ®のウインドウ環境やマウスによる操作など、ユーザーインターフェースを売り込んでいたけれども、John Sallの講演は、純粋な計算機統計学だった。一般線形モデル(GLM)の次世代発展形である混合モデル(mixed model)は、当時、SAS®でも十分に動作していなかった。John Sallは、混合モデルの計算アルゴリズムを丁寧に説明していたけれども、私を含めて、聴衆の99%は理解できなかったはずだ。SAS®が得意とする一般逆行列などの線形代数とは別次元の、確率論的な計算アルゴリズムだった。21世紀になって、ベイズ統計などで、EMアルゴリズムが活用されるようになる10年以上前の話だ。さらに、混合モデルの計算が、マッキントッシュ®で5分程度で処理できていたのにはびっくりした。びっくりしたというよりも、John Sallは天才だと思った。しかし、JMP®の開発には、発売前に10年以上もかかっていたようで、John Sallは、70歳を超えた現在でも、JMP®チームのリーダーとして、JMP®の改良に取り組んでいる。John Sallは、統計プログラミングのスーパースターだ。JMP®の機械学習機能は限定的で、最先端のAIプログラムはGoogleが推進するPython言語で動作している。個体差の機械学習、フェノラーニング®がJMP®で動作するようになれば、「みんなで機械学習」のスーパースターはJohn Sallになる…。

◆小さい組織

スーパースターは、超有名なビッグスターであるとは限らない。SNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)の世界では、フォロワー数が多い人びとの中に、インフルエンサーといわれる人がいる。多くの場合、特定のサービスにおいて、経済的な価値に結び付いている。スーパースターは、無関係な人びとに、決定的な影響を与え続けている、経済的価値に依存しない、究極のインフルエンサーなのだろう。

米国の政治においては、小さい政府と大きな政府がポリシーの対立軸となる。この場合、政府関係者の数や、予算の規模ではなく、行政サービスの範囲が限定されていて、自助と共助が中心なのか、教育や福祉などの公助を拡大するのかが問われている。軍人の数や軍事費は、論外で、小さい政府のほうが、好戦的な場合が多いようだ。小さい家族と大きい家族の場合は、家族の人数というよりも、家族を構成する世代数と家長の権限が問題になる。未婚の独身家族から、3世代同居や一夫多妻制など、家族の構成は多様性に富んでいる。社会を構成する組織として、国家と家族は、それぞれ最大の組織と最小の組織であったとしても、国家と家族、それぞれの大小は単純な順序ではない。大企業と中小企業は、従業員数で単純に線引きされている。しかし、大企業には、多国籍のグローバル企業も、特定の地域で単一の事業を行っている企業もある。特に大企業の場合は、組織が複雑な場合と、単純な場合で、かなり組織経営の性質が異なる。筆者は、グローバル製薬企業の臨床開発部門において、専門領域による縦割りのライン経営から、多数のプロジェクトをチーム主体に運用する、マトリックス経営への移行を経験したことがある。当初は複雑な経営に見えたけれども、実際は規格化されたチーム構成と標準的な業務手順によって、かなり単純な経営形態だった。問題は、単純なグローバルチームが、流動的な各国の規制基準に適合できずに、結局、各国のラインによる調整に依存せざるを得なかったことだ。

近未来においては、ラインにしてもチームにしても、専門的知識とプロジェクト管理のかなりの部分を、AI(人工知能)またはAGI(汎用人工知能)に依存するようになる。ロボットが活躍する工場は、作業員の人数が少なくても、多額の設備投資をともなう、複雑で巨大な組織の場合もありうる。本社機能においても、同様な状況になるだろう。しかし、経営の課題としては、組織の規模や複雑さを、業務内容に適合するように調整すること、または、業務プロセスを最適化するように組織を適合させて、動的にバランスをとってゆくことは、現在でも近未来でも、経営課題であり続ける。筆者としては、創造的で適応力のある組織は、人びとが活躍する現在でも、AIまたはAGIを活用する近未来でも、小さくて単純な組織が望ましいと考えている。組織の行動原理として、“respect for people”という標語が流行(はや)ったことがある。欧米の過剰な能力主義や競争主義ではなく、日本の敬語文化が、保守的ではあっても、“respect for people”として、組織間のコミュニケーションで、欧米からもRespectされていた時代だった。日本の敬語文化が破壊され、AGIをRespectする時代では、日本の出番はないかもしれない。

◆組織活動の身体感覚(gut feeling)

筆者はデータサイエンスの実務家であって、大学教授でもAIの専門家でもないので、AGI社会の一般論を述べているつもりはない。中小企業において、個体差の機械学習、フェノラーニング®を有効活用するとき、大企業に勝てる経営戦略について考えている。まず、絶対的な条件が知的財産権、特許権や著作権、商標権の活用だ。大企業のように、特許の出願件数でアピールするのではなく、儲かる特許をめざす。特許調査や特許作成は、AGIの得意分野なので、大企業のように弁理士に仕事を依頼するのではなく、身近なAGIを活用しよう。特許技術を実際のビジネスで使ったときに、特許侵害が容易に判定できて、しかも儲かるビジネスでないと、特許で儲けることは難しい。著作権や特許権の場合、著者や発明者の市場価値が上がるので、M&Aにおける企業の価値も、知的財産(知財)としてクリティカルな従業員数に比例する。社内外に、知財として価値が認められるトレーニングシステム、例えば特許技術の実務資格を作って、教師レベルを育成すれば(train the trainer program)、ねずみ講のように、企業価値が増加するだろう。

中小企業が大企業に勝ち続けることは困難だ。おそらく、カリスマ的な経営者と、中小企業が大企業になる明確な資本戦略が必要だろう。一時的であっても、知財権によって、大企業との競争に優位性がある場合は、超長期の経営戦略を考えて、地域に貢献する中小企業として、大企業と協業して、経営を安定化する選択肢もありうる。超長期の経営戦略としては、AIを活用して、多数のシナリオをシミュレーションすることが可能になるだろう。地方自治体の機能として、地域おこしという直接的な経済対策ではなく、地域における業種別の経済予測シナリオを提供して、経済活動は地域の中小企業に任せれば、予想外のイノベーションにつながる可能性がある。経済予測のためには、経済データが不可欠なので、企業は税金を納税するように、データを地方自治体に提供することになる。データの価値が高まれば、データを納税するようになるかもしれない。

日本の少子高齢化は、大都市への人口集中を改善しない限り、長期安定的に解決することはできないように思われる。地方都市での、外国人受け入れも視野に入れる必要があるだろう。地方自治なのか道州制なのか、AIと共生・共進化する時代の、政治経済の制度設計に、AIを活用する、その程度の構想力と覚悟(未来への責任)が、日本の政治にあってほしい。筆者は新薬開発でしか政府との接点がないけれども、肥大化した厚生労働省は解体して、道州制の骨格とするとよいのではないかと空想している。

◆食事と健康の機械学習

「みんなで機械学習」の種をまいたのは、ケインズよりも30歳ほど後輩の経済学者、エルンスト・シューマッハーで、今でも世界各地からシューマッハ・カレッジに学徒が集まるスーパースターだ。シューマッハーが提案して推進した中間技術は、農業技術だった。中間技術を「みんなで機械学習」すれば、食料生産と食料消費の機械学習が、重要なテーマとなることは確実だろう。根本には、個体差と地域差がある食事と健康の関係があって、食料生産と食料消費を最適化するために、地域の中小企業が機械学習を行うサービス産業だ。近未来の農業は、家族像が多様化する農家ではなく、中小企業の農業法人が主役になると仮定している。日本や中国の人口は減少して、農業従事者も減少することは確実だけれども、農業法人であれば、ロボットやAIを活用して、法人数が大幅に増加することも考えられる。農業法人が主役となって、食事と健康の機械学習を推進すれば、地域の中小企業の大半が農業法人となることもありうるだろう。

農業や観光業などでは、地域の労働人口の減少が大問題となっている。ロボットやAIを活用するとしても、当面は技術的および経済的な制約が大きい。安価な労働力は、常に資本主義社会の原動力だった。高額な報酬で個人消費を増加しようとしても、安価な労働力が無ければ、消費するサービス商品を提供できない。ロボットやAIは、安価な労働力の代用ではなく、セルフサービスを支援するシステムとして、資本主義社会全体を再構築することを考えてみよう。生産と消費の産業資本主義に加えて、自助・共助・公助の福祉資本主義について考えている。需要と供給のバランスを取りながら、技術革新を推進する産業資本主義とは別の社会システムとして、自助・共助・公助のバランスを取りながら、技術革新を生活にとりこむ福祉資本主義が、産業資本主義と重複して、場合によっては、環境資本主義とも連携して、多層化した社会システムが実現できるだろう。産業資本主義における業種の上位構造のようなもので、福祉産業とは異なり、産業活動によって福祉社会を実現するという意味で、前稿(「みんなで機械学習」第33回)では、「省エネルギー産業福祉社会」と呼んでみた。社会の基本構成は家族・企業・国家という、資本主義社会の法制度を骨格とするイメージだ。

家族と国家は特殊な社会組織なので、企業または企業ネットワークが省エネルギー産業福祉社会の主役であることに変わりはない。金融市場や株式市場など、産業資本主義の特殊な企業ネットワークだけではなく、医療法人・福祉法人・学校法人など、福祉資本主義の企業ネットワークの調整役として、新しい市場システムを必要としている。福祉資本主義の企業ネットワークが、株式市場の一部分となったり、政治的な管理下になったりするよりも、AGIを活用して、より健全で効率の良い市場システムを構築できるだろう。産業資本主義が格差や環境破壊などの、多くの社会問題を解決できないため、白紙に戻って、脱資本主義を考えることも、ありうる選択肢かもしれない。しかし、米国の超富豪たちが、福祉や健康問題に寄付を行う慈善活動を、貧富の格差を折りたたんで立体化する、新しい市場システムを考えるヒントとしてみたい。折りたたまれた資本主義(folding capitarizm)は、タンパク質の立体構造(折りたたみ)が、生体の表現型の原点であることと、グーグルの機械学習アルゴリズム、アルファフォールド(※過去記事参照;「みんなで機械学習」14回、22回、31回)がタンパク質の立体構造予測に成功したことから夢想して、AGIを活用する前向きな社会システムの、新しい表現型として構想している。

◆折りたたまれた資本主義の市場サービス

タンパク質が折りたたまれて、正確な立体構造を作ることで、酵素反応や免疫反応などの、高度な生体機能を効率よく実現している。社会システムの構造としても、ピラミッド型の支配構造だけではなく、より高度な社会機能を効率よく実現するための、精密な立体構造が望まれる。例えば、患者中心のチーム医療の場合でも、疾患や状況に応じて、患者、患者の家族、医療従事者、公的機関などの役割や配置を、動的に最適化することが考えられる。その場合、患者周辺が、酵素反応の反応中心に相当して、患者が治療に取り組む支援を実現する。患者中心のチーム医療の場合では、おそらく、市場サービスは医療保険に相当する機能となり、医療のリスクベネフィットを評価しながら、経済的に円滑に運営できるように、制度設計する。現在の医療保険は、国家が運営しても、民営の保険会社であっても、単独組織の運営であって、開かれた市場機能は持っていない。株式市場が機能するためには、企業の経営データを市場に公開する必要がある。医療においても、医療データが適切に公開できるようになれば、その評価を人間が行うのか、AGIが行うのかは別問題として、医療の進歩も見据えた、市場機能が実現できるだろう。患者は、医療サービスの対価を支払うだけではなく、医療データを提供して、患者団体などが医療の進歩に投資する市場機能において、複数の中心的な役割を担うことになる。

近未来におけるAGIの機能は、現在の私たちが何を望んでいるのかに依存している。株式市場において儲けるなどの、近視眼的な欲望だけではなく、現在の社会的難問を解決して、より希望の持てる、新しい社会システムを構想してゆきたい。日本は、単に人口が減少しているだけではなく、自殺大国でもある。歴史的にも文学的にも、新しい希望は、絶望の淵から生まれてきた。絶望する者は、欲望に支配されていないという意味で、希望に近い。折りたたまれた資本主義は、貧困や絶望など、社会的な問題に直結しているので、現在の産業資本主義における、企業の社会貢献活動や株価対策とは、別次元の、新しい希望となるはずだ。折りたたまれた資本主義の主役は、地域の中小企業だけれども、組織形態は、産業資本主義の中小企業とはかなり異なっていて、ネットワーク志向で、地方自治体との強い連携が前提となるだろう。

◆組織サイクル

本論の根幹は「データ論」であって、データが回る「データサイクル」という技術思想を追求している。組織論においても、人間ではなく、データが中心にあって、人間とAGI(汎用人工知能)が共生・共進化する近未来を考えている。AIの問題は、人間が中心になって考えてはいけない。AIは確実に人間の知能を超えるので、人間中心に考えると、AIを支配する独裁者の社会となってしまう。日本政府の批判をするつもりはないので、EUや米国でもAI倫理に関して同レベルの議論しかしていないことを前置きにして、「人間中心のAI社会原則を読んでみてほしい(「人間中心のAI社会原則」   平成31年3月29日  統合イノベーション戦略推進会議決定、※過去記事;『WHAT^』第16回「破綻した欧米の人間中心主義と政府のAI戦略」〈2019年〉)。「1はじめに」を引用すると、「現代社会は地球環境問題、格差の拡大、資源枯渇等、人類の存続に関わる問題に直面している。我が国においては、少子高齢化、人手不足、過疎化、財政支出増大等、成熟型社会の直面する社会課題に最初に直面する国となっている。AIはこれらの問題の解を導き、SDGs(Sustainable Development Goals)で掲げられている目標を達成し、持続可能な世界を構築するための鍵となる技術と考えられている」。チャットGPTは使えない時代の文章で、素晴らしく簡潔にまとめられた現状認識だ。問題は、このような社会課題が、いつから・なぜ・どのように・だれによって、作られたのか、全くその原因を記載していないことだ。もちろん社会課題の相互関係に関する分析もしていない。自分で放火して、消火活動をする消防士のようなものだろう。このAI原則には、福祉や障がいなど、人間中心の議論が一切ない。この文章を読んで、未来に希望を持てるのは、官僚と大企業経営者だけではないだろうか。幸い、多くの人びとは、読んでいない。

組織を構成するのは組織であって、個人ではない。最大の組織である国家は、法制度によって、全ての組織に浸透する。最小の組織である家族にとっても、国家は課税する単位としての世帯主や被扶養者などの組織制度を定義する。大企業においては、従業員の家族も含めて、扶養手当などを支給して、家族の生活を支える。非正規社員や中小企業では、社員の家族の生活を制度で支えるというよりも、経営者も含めて、家族に支えられている感じだろうか。大企業の社内組織は複雑だし、業界団体などの組織は、団体を構成する企業との関係が複雑だ。複雑なコンピューターシステムを開発する方法論として、オブジェクト指向(OOP:Object Oriented Programming)は画期的だった。手続型言語や関数型言語からの発展形で、プログラムの部品(オブジェクト)を組合せてプログラムを作成する。オブジェクト指向では、オブジェクトの内容を全て公開するのではなく、オブジェクトの動作を指定するのに必要な最小限のメッセージ以外はカプセル化して公開しない。オブジェクトの設計図は、クラスによって階層的に整理され、下位のクラスを作成するクラスの継承(inheritance)という機能もある。大企業の組織は、オブジェクト指向で整理すると理解しやすいかもしれない。組織におけるオブジェクトは、組織そのものだけれども、組織の設計図はプロセス志向になるだろう。オブジェクト指向は、複雑なシステムを論理的に整理する目的では優れているけれども、実行効率は必ずしも良くない。それでも、組織の内部のデータと外部に公開するデータを区別して、メッセージによってデータを授受しながら処理する考え方は参考になる。前述のSAS®言語は、データを処理する手順を中心とした手続型言語として設計され、JMP®は、データの授受と処理を組み合わせた、オブジェクト指向の考え方が取り入れられている。

中小企業の組織論は、大企業のように整然としている必要はないし、むしろ仕事の変化に対応するスピード感が重要になる。しかし、中小企業とはいっても、品質管理には、組織とプロセスが明確に定義されて、トレーニングも含めて、適切な記録を残すことが最重要になる。例えば、大企業のように、オブジェクト指向で組織とプロセスを定義して、プロセス・シミュレーションの機械学習を、業界団体が実施して、その仮想的な実務プロセスから、実際の実務プロセスと類似する実務プロセスを生成することを想定する。実務プロセスごとに、あらかじめ実務記録を自動的に残す工夫をしておけば、仕事の変化に迅速に対応することができるだろう。筆者は、大企業においてプロセス・シミュレーションを導入した経験がある。導入に時間と費用がかかった割には、効果が明確だったのは定型業務だけで、チーム型の組織には導入すらできなかった。現在であれば、仮想的なプロセス・シミュレーションを機械学習することで、仮想的な組織による予測型のチェンジマネジメントが可能になるだろう。中小企業の生産性向上は、企業規模の拡大だけではなく、機械学習を使った経営のイノベーションによる方向性もあるはずだ。データ中心の組織論を、組織サイクルとして実現する実験的な取り組みを、筆者自身の零細企業から始めたい。

◆デジタルな世界

最後に、このような文章を書いていて、不安になる、消化不良になることを書き留めておきたい。文章や言語は、全てアナログな世界だ。数学においても、微分積分はアナログな世界だ。データ中心のAI時代は、もちろんデジタルな世界で、筆者の文章は、別世界の見聞記でしかない。インターネットがデジタルな世界の入り口になったのは、パケット通信の技術によるところが大きい。数学のデジタルな世界、代数学と、コンピューターの論理回路の設計は、多少関係があるとしても、特殊な専門家以外には無縁だろう。今年から、国内の固定電話もパケット通信になるそうだ。パケット通信では、送信したい情報を小さくこま切れにして、アドレス情報をつけて分散させ、受け手は、こま切れの情報をつなぎ合わせる。分散するのは、電波のように空間的な分散だけではなく、時間軸や伝送経路も分散させる。デジタルというと、0と1の2進法の世界という理解から、任意の連続値を、アナログデジタル変換して、例えば、256ビットの2進数として表すこと、2進数は、エラー検出やエラー訂正が容易であることなど、さまざまな理解がありうるけれども、パケット通信の威力が、デジタル時代を推進してきたことは、あまり理解されていない。スマホはパケット通信の最先端だ。アナログの時代には、整数論と無限を取り扱う解析学が全盛だった。おそらく、デジタルの時代には、無限を有限巨大数(例えば2048ビット~10進数で617桁、最大の対称性を表現する単純群であるモンスター群は10進数で54桁)の近似値と考えるような、発想の転換が必要になるだろう。現在のAI技術は、10000個程度の変数(内部パラメータ数は10進数で10桁程度)を取り扱っているので、無限個の変数(例えば連続関数のフーリエ変換)とは、まだ隔たりがある。とても大きな数に見えても、デジタル計算機はギガヘルツ(1秒間に10進法で9桁)の動作速度であるため、デジタルな世界の時間分解能からすると、普通に見えてくる。AI技術は、デジタルな世界の入り口で、冒険を始めた段階に過ぎない。

早朝の公園のトイレでランダムに点滅するLED (No2.)  筆者撮影  2024年1月24日 

『スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル』

1   はじめに; 千個の難題と、千×千×千×千(ビリオン)個の可能性

1.1 個体差すなわち個体内変動と個体間変動が交絡した状態

1.2 組織の集合知は機械学習できるのか

1.3      私たちは機械から学習できるのか

2   データにとっての技術と自然

2.1 アートからテクノロジーヘ

2.2 テクノロジーからサイエンス アンド テクノロジーへ

2.3 データサイエンス テクノロジー アンド アート

2.4 データサイクル

2.5 データベクトル

2.6 局所かつ周辺のベクトル場としてのデータとシミュレーション

3  機械学習の学習

3.1 解析用データベース

3.2 先回りした機械学習

3.3 職業からの自由と社会

3.4 認知機能の機械学習とデジタルセラピューティクス(DTx)

3.5 学習は境界領域の積分的探索-ニッチ&エッジの学習理論

3.6 機械学習との学習

4  機械学習との共存・共生・共進化-まばらでゆらぐ多様性

4.1 生活と経済の不確実性

4.2 生活と経済に関連する技術は、何を表現しているのか

4.3 スモール データ アプローチ-個体差のまばらでゆらぐ多様性

4.4 まばらでゆらぐ多様性の過去・現在・未来

4.5 生活の不確実性を予測する

4.6 弱い最適化脆弱性/反脆弱性からのスタート

4.7 ひとつのビッグ予測、たくさんのスモール適応

5  自発的な小組織(seif-motivated small organizations)(前稿)

5.1 社会、地域、家族 vs. 国家、企業(前稿)

5.2 組織は組織でできている組織サイクル(本稿)

狩猟採取時代から、組織活動をともなわない経済活動は想像しがたい。狩猟採取のために組織活動を行うようになったのか、祭祀(さいし)や家族に伴(ともな)って組織活動が行われるようになったのか、組織活動の起源はよくわからないけれども、法治国家や株式会社は、組織活動の新種で、現在進行形だ。特に、人類を破滅させるほど強力な軍事力を背景とする覇権国家や、ほぼすべての人類に、商品やサービスを提供する巨大なグローバル企業は、おそらく、人類の自然な意味での社会性を超えてしまい、合理的に組織活動を制御できなくなっている。巨大化した組織は、良くも悪くも、独裁者にしか統治できない。地方自治のように、小さい組織を集めて大きな組織を構成することはありうる。組織の構成単位は組織であって、個人ではないのと同じ意味で、組織を統括する最高権力においても、組織論としては、必ずしもカリスマ的な独裁者を必要とはしていない。しかし実際は、組織の構成単位は個人と考えられてきたし、たとえ裸の王様であっても、最高権力者も個人だった。抽象的な一神教においても、神は人間の姿をしているのだから、個人主義は否定しがたい。しかし、人間の知力や能力を超えるAGI(汎用人工知能)が普及した後は、組織は組織でできているという、自然な意味での社会性を認めない限り、独裁AGIによって、人類の未来が破壊されるだろう。

自然な意味での社会性は、生物としての社会性と言い換えれば、理解しやすい。多細胞生物は、さまざまな器官で構成されていて、器官は細胞で構成され、細胞は細胞内小器官によって、細胞内小器官は核酸とタンパク質によって構成され、タンパク質はアミノ酸の立体構造によって、核酸は遺伝子コードによって機能を発現している。個体の表面(腸管内も含めて)や体内には、多くの常在性細菌やウイルスと共存・共生している。個体と個体の集団(社会)を区別しようとしても、くりこみのような階層構造になっていて、始まりと終わりを想像することは困難だ。本節のテーマである「自発的な小組織」(seif-motivated small organizations)は、個人と、個人の集団としての、自然な意味での社会性を理解するキーワードになっている。個人が自発的に集まった小組織が、組織としての個性を自発的に表現している状況を考えている。本論の主題は個体差なので、個人の個体差だけではなく、組織の個体差も視野に入れるときに、組織による表現のうち、自発的な表現に注目しようとしている。中小企業の組織論として、自発的な経営表現は、企業活動を外から見る場合と、内から見る場合のギャップと、そのギャップの自覚に相当するだろう。企業活動の「場所」と、その「場所」の自覚と言い換えられるかもしれない。企業活動の場合、自覚するのは意識的な点検作業だけではなく、組織としての「責任」を自覚することが最重要になる。企業活動の「場所」をデータ化することは想像できても、組織としての「責任」をデータ化することは何を意味しているのだろうか。

経営を自発的にデータ化すること、自発的にデータの品質管理を行うことが、企業活動を外から見る場合と、内から見る場合のギャップと、そのギャップを自覚する「責任」となるはずだ。現在の企業活動において、当然な経営責任であって、近未来において、AGIと共に企業活動を行う場合にも、その原則は変わらないはずだ。ただし、実際問題として困難なことは、「自発的」にデータ化することであって、国家からの規制や、経営目標によって強制的にデータ化するのでは、組織の自発的な表現としては不十分だ。このように、組織の自発的な表現を重要視する立場では、小さくて単純な組織が有利で、覇権国家やグローバル企業が、最高権力者の個人による表現に依存せざるを得ないことは、ほぼ自明に思われる。歴史を否定するつもりはないので、最高権力者の表現も、素晴らしい場合もあるし、適切で有益な場合もあることは確実だ。ただし、人類の知的能力を超えるAGIとともに生きる時代では、組織は組織でできていて、組織の自発的な表現を機械学習することから始めないと、危険すぎる。信頼できる組織のデータは、自発的なデータであって、自然に公開すべきデータが公開される社会を想定している。地域や業界における中小企業の企業活動を支援する目的で、組織の自発的な表現を機械学習することは、「5.3機械学習する組織」として、次回に考えてみたい。

人びとが生活する場所や、仕事をする場所は、産業活動の変化と共に、自然条件とも折り合いをつけながら、集落や地区計画として、個性的な景観と都市機能を作ってきた。狩猟採取時代、農耕時代、工業生産時代、大都市集中時代という時代区分とともに、河川海岸交通、船舶、鉄道、自動車、航空機など、交通輸送システムの変化もともなって、複雑な「場所」の分布を作っている。「場所」の分布を、もっともよく知っているのは、植物とウイルスだろう。植物は、菌根菌によって、ウイルスとつながっている。近未来のAI産業時代、もしくはAI福祉社会では、植物とウイルスから、「場所」の分布を機械学習するだろう。医療や介護、犯罪被害者や被災者支援も含めた、広い意味での社会福祉は、社会としての学習の機会であって、人びとにとっての「場所」の意味を、明確に理解するために不可欠だ。学習する社会であることは最低限の条件であって、効率よく、先回りして機械学習する社会への希望をつないでいきたい。

生命は、いかなる生命であっても(ウイルスも含めて)、単調に増殖することは無く、複雑な生活環(ライフサイクル)によって、生命をつないでいる。複雑な生活環は、多様な生態系に適応するために不可欠なのだろう。生活環は、次世代を生みだして、進化論的な適応の根幹となる。組織においても、次世代の育成は重要課題だ。しかし、組織サイクルという話を聞いたことは無い。ひとつの大きな間違いは、組織のDNA(遺伝子)という神話を信じていることだろう。ウイルスであっても、遺伝情報だけから次世代を作ることはできない。宿主の表現型(タンパク質)製造装置を必要としている。動物の場合は、卵細胞か幹細胞が必要だ。組織の場合も、組織内外の環境において、次世代育成に適した環境が必要になる。いずれにしても、組織から次世代組織を作るためには、組織として「脱皮する」イメージがありうるように思われる。医療においても、組織が損傷し、機能再生する際には、組織の内外を区分する「膜」が新生して、「脱皮する」のかもしれない。現代の医療は、磁気共鳴画像のように、組織の内面を見ることができるようになったけれども、組織の表面への注意が不足していたかもしれない。東洋医学のほうが、体表面の観察において優っている。磁気共鳴画像でも、組織表面の再構成は可能で、仮想的な解剖もできる。現在は、外科手術の補助にしか使われていないけれども、薬物療法(内科)にも応用できるかもしれない。組織は組織でできているのは、企業の経営論だけではなく、医学にとっても、特にAI技術の応用という意味で、重要な課題だ。

◆次回以降の予定

5.3 機械学習する組織

5.4 CAPDサイクル

5.5 ビジネス表現(3×3 table)

5.6 組織の周辺積分的思考

5.7 データサービス商品を創出する知的自由エネルギー産業

6  おわりに;生活と社会のビューティフル ランダム パターンズ

(中里斉 モナド; Hitoshi Nakazato, Monado)

6.1 ほとんど色即是空・空即是色な世界

6.2 観測できないブラックホールは実在する?

6.3 データ化する私(datanize me)

6.4 延長されたフェノラーニング®

※『みんなで機械学習』過去の関連記事は以下の通り

第33回「汎用人工知能の身体感覚」(2024年1月31日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-108/#more-14519

第31回「ウイルスの知恵(反脆弱性)」(2023年11月27日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-105/#more-14375

第22回「職業からの自由と社会」(2023年6月5日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-92/#more-13881

第14回「ディストピア」(2023年1月5日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-84/#more-13570

※『WHAT^』過去の関連記事は以下の通り

第16回「破綻した欧米の人間中心主義と政府のAI戦略」(2019年4月11日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-4/#more-8485

『みんなで機械学習』は中小企業のビジネスに役立つデータ解析を、みんなと学習します。技術的な内容は、「ニュース屋台村」にはコメントしないでください。「株式会社ふぇの」で、フェノラーニング®を実装する試みを開始しました(yukiharu.yamaguchi$$$phenolearning.com)。

Comments are off for this post