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半永久的な「凧形ピラミッド」の縮小再生産(1)【連載企画:人口構成と日本経済(全5回】
『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第39回

4月 05日 2021年 経済

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山本謙三(やまもと・けんぞう)

o オフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。

地方の人口減少を受け、「東京圏vs.地方圏」の対立軸がしばしば持ち出される。しかし、これは将来の日本経済の主題ではない。そもそも地方消滅論自体が、誤解を招きやすいものだった。

根拠とされたのは、20~39歳の女性の数が2040年までに地方で大幅に減るという試算である。しかし、試算をさらに先まで延長すれば、東京圏でも同じ事態が起きる結果になっただろう。地方消滅とみえた事態は、日本全体の人口減少の過渡的な現象にすぎない。

東京一極集中論もミスリーディングだ。実際に起きているのは、東京一極集中というよりも、大阪市や札幌市、福岡市を含む狭い圏域への人口凝縮だ。これも人口減少に伴う労働力不足の反映である。

人口減少は、日本全国あまねく直面する問題だ。日本経済の真の課題は、①深刻化する労働力不足をどのようにして緩和するか②労働力不足という現実をふまえ、経済社会をどう変革し、世界の中で生き抜いていくか――である。

今回から、これまで扱ってきた人口動態の問題を総括し、改めて日本経済への処方箋(せん)を考えてみたい。

■人口は急減するが、多人数国家は変わらない

参考1は、1945年から2115年までの総人口の推移を示したものである。


(参考1)日本の総人口の推移(1945年~2115年)

注1)外国人を含む。2016年以降は、下記「日本の将来推計人口(平成29年推計)」に基づく推計値(出生中位、死亡中位)
(注2)世界の人口順位は、United Nations “World Population Prospects 2019”に基づく2020年時点の見通し値による
(出典)総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」を基に、筆者が作成

戦後7200万人だった日本の総人口は増加の一途をたどり、2008年には1億2800万人に達した。しかし、その後は減少に転じ、現在は1億2500万人となっている。

今後推計どおりに推移すれば、2083年には約7200万人の水準に戻る。戦後63年かけて増加した人口が、75年かけて吐き出される計算である。増加、減少ともに劇的な速さといってよい。

 しかし、それでも日本が多人数国家であることに変わりはない。2083年の約7200万人も、2020年時点の各国人口にあてはめれば、世界で第19位相当である(2020年時点は世界第11位)。グローバルな視点でいえば、日本消滅や地方消滅を心配しなければならない水準にはない。

先進7カ国(G7)諸国である英、仏、伊が2020年現在、各6000万人台の人口にあることをふまえても、先進国からの早期脱落が確実視されるわけでもない。

問題は、人口の減少が止まらないことだ。2019年の合計特殊出生率1.36は、人口置換水準の2.07にはるかに及ばない。出生率が戻らない限り、2100年代に入っても人口減少は続くこととなる。

延々と続く「凧形ピラミッド」の縮小再生産

参考2は、2015年と2065年の男女別年齢別人口内訳(いわゆる人口ピラミッド)を示したものだ。

(参考2)日本の人口ピラミッド(2015年、2065年)

(注)2065年は出生中位、死亡中位推計
(出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」を基に筆者が作成

  2065年時点の人口ピラミッドは、「脚の長い凧(たこ)形」(正月などにあげる凧の形)となる。このうち、人口が最も多いのは、①80歳代前半の女性である。これに②80歳代後半の女性、③60歳代後半の女性、④60歳代後半の男性、⑤70歳代後半の女性が続く。一方、ピラミッドの下部では、年齢が下がるほどスリムな形状となる。

「70歳代から80歳代前半の女性」を最大勢力とする凧形ピラミッドの形状は、2045年ごろに完成し、その後縮小再生産が続く。なぜなら、次の10年間に最大勢力のなかから他界する方が増えるとしても、60歳代から70歳代前半の女性が10歳繰り上がり、新たな最大勢力をつくるからである。

実際、「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によれば、推計最終年の2115年になっても形状はほぼ変わらず、その先どこまで続くかも分からない。

以上のように、日本は人口を減らしつつ、「脚の長い凧形」の人口構成が続く。私たちはこの事実をしっかりと受け止め、ふさわしい社会経済をつくらなければならない。

例えば、70歳代を労働市場に取り込まなければ、経済は早晩回らなくなる。70歳定年制を議論する時期はとうに過ぎた。いまは定年制廃止を議論すべきときだ。

年金や医療保険の制度も、より多くの人が長く働き、保険料を納める側に回る必要がある。そうしなければ、若い世代にツケが回り、少子化に歯止めをかけられない。

凧形人口ピラミッドは、あと20 年ほどで完成する。それまでが最後の勝負のときである。

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