中国の崩壊はいつ来るのか?
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第64回

3月 04日 2016年 経済

LINEで送る
Pocket

小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住18年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

最初に断っておくが、私は中国の専門家ではない。中国語が理解できるわけでなければ中国人の友人がいるわけでもない。しかし、日本やタイの経済・社会を話す時に中国のことを無視して話すことができないほど、中国の存在感は急速に増してきている。

一方で、江沢民以降、中国国内の不満を抑えるために始まった反日キャンペーンや隣国ゆえに発生する軍事外交上の軋轢(あつれき)から、日本人の中にも強烈な嫌中感情が芽生えた。更には中国の公式発表の経済データの信頼度の低さから、本当の中国の姿が分からなくなってきている。

過度な嫌中感情を排し冷静に中国を分析することなく、日本やアジア経済、更には世界経済を予想することはできない。今回は私が信頼する3人の中国専門家の著書などを引用しながら、私なりの中国観について語ってみたい。

◆過小評価できない中国製造業の実力

最初にご紹介したいのが、黒田篤郎氏の書かれた『メイド・イン・チャイナ』(2001年、東洋経済新報社)である。この本は日本で初めて本格的に中国の工業化事情を取り上げたものだと言われている。既に15年以上前の中国の工業の進展状態を書いてあるにもかかわらず、その時点で日本の電子・電気産業が中国に負けていたことが良く理解できる本である。珠江デルタや長江デルタという電子産業集積地を自らの足で歩き訪ね、中国企業に働く質の高い労働力や積極的な機械設備投資に着目している。

また、中国がこうした強い産業を生み出す社会背景として、都市戸籍と農村戸籍に分かれている中国の戸籍制度を分析している。当時、2年間しか都市に居住を許されなかった農村戸籍の農民工たちが低コストでほぼ無尽蔵に投入される経済システムについて切り込んで分析をされている。

黒田氏は経済産業省のご出身であり、この本を書かれた後、私は個人的に知己を得た。本省に戻られ、製造産業局長などを歴任された後、現在は日本政策金融公庫の代表取締役専務の要職に就いておられるが、いまも公私ともにお付き合いをさせていただいている。
日本から発せられる中国関連の記事を見ていると「中国製品は粗悪で壊れやすい」「中国製品は機能が劣っている」などの論調が目立つ。日本のマスコミや報道は商業主義に陥り、日本人の心地よい感情をくすぐるため、こうした嫌中感情を煽(あお)る記事が書かれているが、こうした記事によって真実を見誤ると、とんでもないしっぺ返しが来る可能性がある。中国の工業化水準については冷静に判断をする必要がある。

この点について、東京大学大学院准教授である川島博之氏がその著書『データで読み解く中国の未来』(2015年、東洋経済新報社)で、現在の中国の工業化の状況についてデータを使って説明されている。同書によると、2013年の各国別の輸出高は中国が2兆2090億ドル、米国が2兆622億ドルに対し、日本はわずか7192億ドルであり、中国の輸出高は日本の3.1倍にもなっている。また中国の輸出高のうち43%が機械部品であり、この比率は日本の36%よりも上位にある。

日本はこれ以外にも中国にはない自動車関連輸出が23%あるが、自動車と機械の両方を合わせても中国の機械関連輸出の絶対額は日本の2.2倍にも上る。明らかに日本の工業製品は中国製品に競り負けているのである。

この競り負けを生んでいる要因としては、安価な製造コストに起因する製造価格の安さが第一の要因である。そして、この安価な製造コストの要因として、川島氏は黒田氏と同様に、農村戸籍の工場労働者の存在を挙げている。

川島氏がもう一つ指摘する中国の製造コストの安さは、石炭エネルギーへの依存である。中国はエネルギーの68%(2013年)が石炭によって賄われている。一方、日本は25%のみである。石炭は二酸化炭素(CO2)排出問題を抱えるが、最も安価なエネルギー源である。そして中国はこの石炭原料の96%を中国国内で産出している。

川島氏が更にもう一つ挙げられている日本製品の中国対比競り負けは、営業力である。世界各国を自身で歩かれている川島氏は、後進国において特に日本企業の営業力の差が大きいと指摘する。中国人は「一生その地に骨を埋めてもかまわない」という覚悟を持った人たちがアフリカや中南米などに転戦しているという。繰り返しになるが、中国製造業の実力を過小評価すると日本は大きな判断ミスを犯す。

◆経済成長は限界に達したとの見方も

こうして世界一の工業国の地位を確立した中国であるが、昨年から中国経済の不調が伝えられてきている。昨今の報道や書籍の中には「中国の崩壊が始まっている」として、嫌中派の日本人の心をくすぐるものが多く見受けられるが、実態はどうなっているのであろうか?

これに対し川島氏は、工業化とインフラによってリードしてきた中国の経済成長が遂に限界に達したとの見方をされている。その根拠が、4億人の都市戸籍住民と9億人の農村戸籍住民の明確な階級社会にある。中国の都市部には既に4億人の都市戸籍住民にはほぼ行き渡る1億2千万戸の住宅が出来上がっている(3人/家族×1億2千万戸=3億6千万人分の住宅)。それにもかかわらず、2013年の時点でまた年間1500万戸の住宅が建設されている。従来「鬼城」と呼ばれ、夜になっても照明のつかない地方マンション群の存在がマスコミで取り上げられていたが、いよいよこの問題がこれから本格化してくる。

また、自動車についても、2012年に中国の自動車保有台数は1億1千万台、更に中国では年間3000万台に迫る勢いで自動車が売れている。しかし中国の都市戸籍人口と同程度の人口を持つ米国の自動車保有台数が2億5千万台である。2016~17年には中国も米国の自動車保有台数に近づくことになり、これ以上の自動車販売の伸びは期待できない。むしろ米国程度の年間1500万台の販売が中国の実力となってくる。

◆急膨張する地方債

ここでもう一人、『巨龍の苦闘』(2015年、角川新書)の著者である津上俊哉氏を紹介したい。今年 1月14日に開催された「りそなアジア・オセアニア財団」主催のセミナーで、私はタイ関連の講師を務めさせていただいたが、この時に同じく中国問題について講演をなさったのが津上氏である。

全編にわたり示唆に富む講演であったが、特に私がびっくりしたのが2009年以降、2014年までの6年間の中国の固定資産投資累計額が200兆元(約3500兆円)にもなっていることである。リーマン・ショック直後は中国政府が4兆元の緊急財政支出をしたことは大きく報じられたが、この後も「地方融資平台」(中国の地方政府傘下にある資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた投資会社)を使い、積極的に住宅やインフラ投資を行ってきたことがうかがえる。

それにしても、2年前まで資金繰りが危ないと伝えられた「地方融資平台」は一体どこへ消えてしまったのであろうか? 津上氏は、地方政府が地方債を発行することにより、この「地方融資平台」の債務を肩代わりしていると見ている。2014年初めには全く残高がなかった地方債は2015年9月には3.3兆元にまで膨れ上がっている。中国の国債発行残高が9兆元しかないことを考えると、地方債が急膨張していることが分かる。この地方債は今後ますます増加していくことであろう。

そして津上氏は、これら地方債の引き受け先となっているのが銀行だと見ている。低金利の地方債を銀行に引き受けさせることにより実質的な債務カットを促しているのである。

◆世界経済の牽引役は期待できない

投資主導型によって成長を図ってきた中国経済であるが、今後バブルの崩壊はあるのだろうか? 川島氏、津上氏とも急激な経済崩壊はないと見ている。それは中国が「統制経済」の国であり、不動産価格の暴落を意図的に抑え込むと予想されるからである。しかし、実質価値の低い不動産を高値表示することは当分取引が発生しないことを意味する。

今後10年かけて価格調整が図られるのであろう。銀行が保有する地方債についても同様である。銀行が長期に渡って不良債権を保持することは、この間、健全な金融機能が期待できないことを暗示する。いずれにしても今後10年近く中国の国内経済は停滞が続くことになろう。

では、中長期的に中国経済をどのように見ていけば良いのだろうか? 川島氏、津上氏とも指摘されるのが、中国と日本の人口ピラミッドの相似形である。日本は戦後のベビーブームで生まれた団塊の世代(1947-49年生まれ)が人口ピラミッド上のピークを構成するが、中国も毛沢東の強引な指導のもとに行われた農民を使った工業化政策である「大躍進政策」の失敗により大量の餓死者が発生。その人口減を取り戻そうとベビーブームが発生(1961-64年)した。

更に日本の少子化と中国の「一人っ子政策」が重なり合い、川島氏、津上氏とも「中国の人口ピラミッドは日本の15年から25年遅れ」と説明されている。現に、日本の生産可能人口(15-64歳)は1995年(厚生労働省発表)にピークアウトしたが、中国の生産可能人口も2010年にピークアウトしたとされており、この差は15年となる。

そして両氏が指摘されているのは、中国が「日本の失われた20年」と呼ばれた時代状況に突入したということである。中国が2004年以降の過剰投資により、住宅の過剰在庫と地方債という不良債権を持っていることはこれまで見てきた通りである。更に経済成長のエンジンとも呼ばれる、人口ピラミッド上の人口ボーナスのメリットをこれ以上生かせないとなると、今後中国には世界経済を引っ張っていくような牽引(けんいん)役は期待できない。

◆「一帯一路」政策は中国の経済侵略

それでは、これまで見てきたような状況が今後日本ならびに日本企業にどのような影響を与えるのであろうか? 第一に、中国の国内向けビジネスは投資関連など大きな期待が持てないだろう。中国は社会主義体制であるがゆえに、国民に大きな痛みを伴うバブルの崩壊は価格統制によって抑え込むであろう。

しかし、逆にそのことが今後長期にわたっての経済停滞を引き起こす。ただし、中国が今「日本の失われた20年」に突入した当初であるとすれば、当面は中国企業や中国人による「海外投資」や「海外消費」は続行されるであろう。

思い出してほしい。日本人もバブル崩壊以降も経済停滞の痛みをあまり感じずに過ごした10年程度の年月があった。経済停滞がボディーブローのように効き、真に中国人による消費停滞が起こるまでは時差がある。そしてこの間は、中国は政治的・軍事的・外交的には大国として日本を含めた近隣国に対し高圧的に振る舞うであろう。

それにも増して、日本及び日本企業が強く危惧(きぐ)しなくてはならないことがある。それはいまや世界一となったその工業力であろう。中国国内経済の回復が当面望めない中、中国は余った生産能力を輸出に振り向けることに全力を傾注するであろう。習近平の「一帯一路」政策はまさに中国の経済侵略政策だと私は考えている。日本企業はこうした中国企業と、世界市場において真っ向勝負を仕掛けられる。日本企業のまさに正念場である。

*『バンカーの目のつけどころ、気のつけどころ』過去の関連記事

目の前のバブル崩壊に備えよう  2016年2月19日
http://www.newsyataimura.com/?p=5161

アベノミクスが日本を壊す    2014年12月26日
http://www.newsyataimura.com/?p=3598

今こそ日本再生を真剣に考えよう  2014年3月28日
http://www.newsyataimura.com/?p=1902

今だからこそ問うアベノミクス(下)2013年8月22日
http://www.newsyataimura.com/?p=471

今だからこそ問うアベノミクス(上)2013年8月8日
http://www.newsyataimura.com/?p=302 

コメント

コメントを残す