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政治のセロトニンはどこへいった
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第55回

8月 28日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆「進撃の巨人」化

安全保障関連法案の参院での審議の最中、国会前のデモも連日、にぎわいをみせている。シュプレヒコールをあげているだけではない。法案が成せる行動を想像し、戦争を知らずに育った若者が、戦争を想像し、それに拒否反応を示す意味ある内容の演説もある。それがソーシャルメディアで拡散している。ライブのデモが新たなコミュニケーションツールで全国に広がる様相を示している。この声に9割以上が「戦争を知らない」政治家たちはどう応えるのだろうか。

このまま法案を突破させてしまうのならば、政治は正常な判断ができるのかと疑いたくなる。それは、社会生活を営むために必要な脳内神経伝達物質である「セロトニン」の分泌が止まった、脳としての機能が低下した凶暴な怪獣に過ぎないのではないか。今風に言えば、政治や国会は「進撃の巨人」である。このイメージに従えば、市民はただ踏みつぶされていくぼろ雑巾のような犠牲者でしかないことになる。

◆包み込む度量は

「巨人」を想像してしまったのは、「セロトニン」機能について考えたから。人の思考・行動は脳の脳内神経伝達物質によってコントロールされており、50種類以上が確認されている神経伝達物質のうち代表的なものが「ドーパミン」「ノルエピネフリン」「セロトニン」。このうちセロトニンは「制御」「調整」する役割を持ち、人のストレスを軽減するのに役立つので、ストレスによりうつ症状になる人はセロトニンを分泌させるために、一定のリズムで歩くなどの運動が効果的だといわれる。そして恐ろしいことに、このセロトニンがなくなると人は凶暴になる。

有田秀穂・東邦大医学部教授の『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)などによると、セロトニン神経を破壊したラットとマウスを一つのケージに入れておくと、普段はおとなしいラットがマウスをかみ殺して食べるという残虐行為を見せたという。その後に、そのラットにセロトニンを補給すると、もとの残虐性は消えてしまったという報告がある。

今の国会、そして政治が安保法案の可決に向けてひた走っている姿は、セロトニンという調整機能を無くした凶暴なラットと重なり合う。55年体制で強固な地盤を築いた自由民主党は、94年の非自民党の連立政権、2009年の民主党政権にそれぞれ政権の座を明け渡したものの、やはり存在としては巨大な本流。その位置づけは変わらなかった。巨大な存在は、タカ派やハト派の表現に象徴されるように、党内に左右の立場が存在し、それを包み込む度量があった。

人によっては、共産党よりもマルクス主義者だったり、誰より軍縮を唱えたり、護憲を訴えたりしながら、その中に「セロトニン」機能を果たす人たちがいたのである。与党が巨大なのは、議席の数の上では以前もあったが、セロトニンは破壊されていなかったから憲法は守られ続け、法治国家としての基本ルールを為政者も国民も共通ルール、不文律の中で政治が行われてきた、と思っていた。

◆尊い声に耳傾けよ

そして、今。自民党のセロトニン、国会のセロトニン、政治のセロトニン、はすべて消え失せ、凶暴性だけがむきだしになってきている。ここで期待されるはずの平和の党、公明党の動きも期待はずれである。戦中の弾圧を経験してきた母体である創価学会へは、その経験があるからこそ期待してきたが、今は失望しかない。市民は、若者は、お年寄りは、労働者は、「食われるかもしれない」とおびえながら、反対の声を上げている。彼ら若者は私たちの国の社会資本である、未来への資本である。その声に耳を傾けない政権は、やはり恐ろしい。

だから、市民がセロトニンになるしかない。政治家が給与をもらいながら、国会で静かに時間が過ぎているのを待つ間に、学生はバイト代を電車賃に充てて、国会に繰り出す。傷病により就職がなく日雇いのビラ配りで生計を立てている私の知り合いも、電車賃だけ確保して国会前に通い続ける。これらは尊い社会のセロトニン。国会はどう向き合っていくのだろうか。

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