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正しく理解しよう!中国経済の実力(その2)
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第113回

2月 16日 2018年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住19年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

2010年に日本を追い抜き世界第2位の経済大国となった中国。すでに日本の3倍の経済力を保持しているが、その実態はよく見えていない。日本の報道を見ると中国経済の危機をあおる記事にあふれており、中国に追い抜かれた日本の焦りや悔しさが透けて見える。前回に続いて、中国経済のデータを客観的に見ることにより、中国経済の本当の実力を読み解いてみたい。今回は、前回第112回の内容を補足するために、特に所得水準と地方債務に関するデータについて考察する。(注:本文中のグラフ・図版は、その該当するところを一度クリックすると「image」画面が出ますので、さらにそれをもう一度クリックすると、大きく鮮明なものを見ることができます)

◆中国の所得水準について

(1)1人あたりGDP~格差の激しい中国では実態に即していない

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2015年末時点の中国の1人あたりGDPは約8千ドルと、世界銀行が集計している全世界平均の約1万ドルを下回っている。一方、所得格差の状況を示すジニ係数をみると、2016年末の中国のジニ係数は0.465と、ピ-クの08年(0.491)から改善傾向にはあるが社会不安が生じるとされる警戒ライン(0.4)を依然上回っており、中国は所得格差の激しい国である(15年時点の日本は0.392)。そのため、名目GDPを全人口で除して算出する1人当たりGDPを以って、中国全土の所得水準を把握することは難しく、実態に即していない。例えば、首都北京に限定した1人当たりGDP(2015年)は1万7099ドルと、中国全土の2倍以上の水準となっている。

(2)可処分所得~都市部・農村部の1人当たり可処分所得

中国統計年鑑では、都市部(Urban Area)と農村部(Rural Area)とが区別されて人口が公表されている。2015年時点の中国人口(約13億7千万人)のうち、都市部人口は7億7千万人(56%)、農村部人口は6億人(44%)である。
この都市部・農村部を五段階の所得階層に分類した1人当たり可処分所得をみると、農村部において8.4倍(最も裕福な農村部の所得層4177ドル÷最も貧しい農村部の所得層495ドル)、都市部において5.3倍(1万449ドル÷1,964ドル)の所得格差が生じており、中国統計年鑑において公表されていることから、中国政府もこの事実を認めている。

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もっとも、中国政府による「都市」の定義を確認すると、都市とは行政決定によって設立された「直轄市」、「市(地級市、県級市)」及び「鎮(ちん)」である。「鎮」とは、農村地域のうち、工商業が一定程度発達し、非農業人口が比較的集中している地域や行政の中心地を切り出す形で設置された行政区画を指す。そのため、都市部すなわち北京や上海などといった大都市のみを指すわけではなく、いわゆる「田舎」にも都市部が存在する。統計上明らかにされていないが、「鎮」レベルの所得水準は都市部における相対的に貧しい「LOWER」や「LOWER MIDDLE」に属するものと考えられる。

(3)戸籍制度~都市戸籍・農村戸籍保有者数を元にした推計

中国の所得水準を的確に把握するためには、都市部と農村部の所得状況に加え、中国の戸籍制度を確認する必要がある。中国では、全国民が農村戸籍と都市戸籍に分けられており、農村戸籍保有者は勝手に都市部へ籍を移すことが出来ないほか、農村戸籍保有者は都市戸籍保有者と比較して、社会保障・就職・教育面で大きな制約を受ける。この戸籍制度が共産主義国家である中国において格差が生じる大きな要因となっている。

一方、都市部には都市戸籍保有者に加え、農村戸籍保有者が出稼ぎ労働者(農民工)などとして混在しており、これらの農民工は上述の都市部人口としてカウントされている。中国政府は都市戸籍保有者数と農村戸籍保有者数に関する統計を公表していないが、北京市海淀区に所在する清華大学による調査では、2013年時点で中国全土の都市戸籍保有者が3億8千万人(27.9%)、農村戸籍保有者が9億8千万人(72.1%)であることを報告している。当比率を2015年の人口にあてはめると、都市部人口7億7千万人のうち、①都市戸籍者保有者は3億8千万人であり、残りは②農村戸籍を保有しながら出稼ぎなどを理由に都市に居住している人口(都市部にいる農村戸籍保有者)は3億9千万人となる。

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続いて、②都市部にいる農村戸籍保有者3億9千万人の1人当たり可処分所得を(2)で確認した農村部の1人当たりの可処分所得(階層別に495~4177ドル)と同様であると仮定すると、加重平均により都市人口7億7千万人のうち、①都市戸籍保有者3億8千万人の可処分所得は、階層別で「LOWER」層 3472ドル ~ 「HIGHER」層1万6886ドルと推計できる。

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日本の都道府県別1人当たりの可処分所得(2014年)をみると、沖縄県民の1人当たりの可処分所得は1万5905ドル、宮崎県民のそれは1万7171ドルであり、都市部のうち最も裕福な階層(1万6886ドル)は、日本人と概ね同様の所得水準であると言える。中国の1級都市(北京、天津、上海、重慶など)の都市戸籍保有者の多くは、この階層に属しているものと考えられ、その人口は1~2億人程度とされる。

『データで読み解く中国の未来―中国脅威論は本当か』(東洋経済新報社、2015年)の著者である川島博之・東京大学准教授は、都市戸籍を保有している3億8千万人の1人当たりGDPは2万ドル程度、都市部にいる農村戸籍保有者3億9千万人は5千ドル程度、農村戸籍を保有し農村に居住している6億人は2千ドル程度と推測している。なお、それぞれの1人当たりGDPを加重平均すると約8千ドルとなり、中国全土の1人当たりGDPと概ね一致する。

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上の表は、国際決済銀行(BIS)統計をもとに中国の政府部門債務残高の推移を示したものである。BIS統計において、中国の政府部門債務額は国際通貨基金(IMF)による推計数値が採用されているが、IMFは中国財政部公表計数に中国審計署調査による地方政府債務計数を加算・調整して政府部門全体の債務残高を推計している。

政府部門債務は2008年以降、増加の勢いが加速している。債務額の対名目GDP比をみても、08年の27.1%から翌年は34.5%へ増加し、16年では46.4%となっている。

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これは、08年後半から、中国国務院による「4兆元の景気刺激策」構想に伴い、中国では全国各地でインフラ計画が勃興した結果、政府会計から独立した法人(地方政府融資平台公司、以下「地方融資平台」)の債務が急増し、結果的に地方政府債務が急増したことが背景にある。

本来は地方政府から独立していたはずの地方融資平台の債務について、地方政府が保証の提供などにより実質的に返済責任を負っている事例が相当数あることが判明し、14年12月末時点で、地方政府が負っている債務が、偶発債務を含め約24兆元、GDP比37.2%あることが判明している。

最近では、「地方政府性債務の管理強化に関する意見」に基づき、省・自治区・直轄市レベルの政府が債券を発行(借換債を含む)することで、発行代わり金を公共資本向けの支払に充当させることを可能となっている。これにより、オフバランス化されている債務を低金利の地方債に借り替える形で処理が進められている。

一方、地方政府が債務の弁済において、土地譲渡収入に依存した地方政府の財政状態が中国の不動産市場にゆがみを生じさせているとの指摘がある。地方政府は国有地の使用権を譲渡する権限を有しており、不動産開発後は使用権の譲渡収入が入る。譲渡収入が返済財源となっているため、今後の可能性としては、不動産市場の動向次第では、地方政府による返済が厳しくなる恐れがあり、地方債の主たる債権者である商業銀行が、多額の不良債権を抱える可能性が否定できない。また、生産性の低い国有企業を中心とした企業部門債務を中国は他国に比べ多く抱えており、これらの債務が不良債権化した場合の中国国内金融への影響は小さくないだろう。

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り
第112回 正しく理解しよう!中国経済の実力(その1)
https://www.newsyataimura.com/?p=7164#more-7164

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