п»ї 秘密保護法とジャーナリズムの後退『山田厚史の地球は丸くない』第10回 | ニュース屋台村

秘密保護法とジャーナリズムの後退
『山田厚史の地球は丸くない』第10回

11月 15日 2013年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

特定秘密保護法案の審議が国会で大詰めを迎えている。秘密を増やせば、権力へのチェックが後退する。主権者に対し権力が強くなり、「国民の知る権利」は制約される。分かりきったことなのに、新聞社や放送局が「秘密保護法反対」と声が大にして叫ばないのはなぜだろう。

全国紙や地方紙が参加する日本新聞協会は10月2日、「『特定秘密の保護に関する法律案』に対する意見書」を発表した。法案の問題点を次のように列挙した。①秘密の範囲が恣意(しい)的に広がる②なにが特定秘密なのかチェックする仕組みがない③厳罰を恐れ公務員が取材に応じなくなる④取材が「教唆」「そそのかし」とされる恐れがあり報道の自由を制約しかねない⑤民主主義の根幹である「国民の知る権利」が損なわれる。

まっとうな指摘だ。新聞協会は「秘密保護法反対」か、と思ったが、結びの言葉はなんと「強い危惧を表明する」にとどまった。

◆「権力の監視より仲間」に傾きつつあるメディア

新聞協会は2011年11月、民主党政権が秘密保全法を制定しようとした時、「反対」を表明した。理由は、恣意的に秘密を拡大され、取材が制約されるというものだ。今回の秘密保護法もこの流れに沿ったものと位置付け、「われわれの懸念が払しょくされたとは言いがたい」としている。それなのに「反対」から「強い危惧」へと後退したのはなぜだろう。

民主党政権なら「反対」と言えるけど自民党政権が復活し、支持率を高い安倍政権には刃向かえない、ということか。

「新聞業界の足並みがそろわない。安倍首相と良好な関係を保ちたい勢力が少なからずいる」と大手新聞の幹部は指摘する。

確かに論調を見ると「足並みの乱れ」は紙面に反映している。「反対」を積極的に展開しているのは朝日、東京、毎日と沖縄の新聞だ。読売、産経、日経は反対を前面に出さず、政府や国会の動きを伝える地味な紙面作りに徹している。14日付の紙面でも「秘密保護、民主が独自案、批判警戒、与党と協議へ」(読売)、「修正協議入り、民主対案を提出方針」(産経)、「自公維が修正協議」(日経)と国会の動向を伝える「客観報道」に徹している。担当記者の視点や、国会論戦で法案の問題点をしつこく追う朝日、東京との違いは鮮明だ。

新聞には「権力の監視機関」という使命がある、と言われてきた。私も新聞社に入って記者の仕事は「健全な批判精神」と教わった。だが、昨今のメディア状況は、「監視より仲間」になることを選ぶ紙面が増えているように感ずる。

国政もそうだが、地方議会での首長と議会の関係に権力とメディアの関係が似ているように思う。

知事や市長は選挙で選ばれる。議会は首長の行政をチェックする役割が期待されるが、現実は首長に群がる議員が圧倒的に多い。首長が行政権限を握り、議員は与党にならないと地元への利益還元を含め、ろくな議員活動が出来ない、という声をよく聞く。

野党に回って首長に批判的な質問をする議員はいるが、多くの自治体で批判派は少数勢力だ。

批判すると、行政と敵対する格好になり、徹底的に干される、ということが少なくない。皆さんも地元の自治体の運営を観察すれば、その事実に気付くと思う。一部には適度な緊張感を持った首長と議会の関係があるが、残念ながら「監視より利権」が津々浦々の現実である。

◆「与党化」するメディアと提灯記事を書く記者

地方議会の「与党化傾向」とメディアの「与党化」はよく似た構造だ。

政権にすり寄ることが経営の安定につながる。例えば、今なら消費税の軽減税率だ。日本新聞協会は消費税の軽減税率を新聞に適用することを強く求めている。購読者の減少、広告収入の低迷で新聞経営は悪化している。消費税引き上げが「紙離れ」を一段と加速すると心配されている。消費税が10%になった時、新聞購読料の税率を5-8%にとどめてもらいたい、と協会は陳情している。決断は首相次第だ。

軽減税率にとりわけ熱心なのは読売新聞で、今の新聞協会会長は読売新聞グループ本社代表の白石興二郎氏である。

税率と並び新聞業界は、見かけの部数を増やすため実売を上回る新聞紙を販売店に押しつける「押し紙問題」を抱えている。「押し紙はどの新聞社にもあるが、とりわけ酷(ひど)い読売」と業界では言われている。

水増しした部数で広告料金を決めるのは、不当表示や詐欺にもなりかねず業界の恥部とされてきた。権力者がその気になれば違法行為と認定することも可能だ。権力と良好な関係を保つことが新聞社の安全保障になっている、という指摘も業界内にある。

権力を監視する報道機関でありながら、大きな企業体を維持するには政権との関係が経営上大事。そんな状況が、権力と対峙(たいじ)する気迫をなえさせているのではないか。

経営者だけではない。日々、取材活動する現場の記者でも「権力へのすり寄り」が露骨になっている。記者は情報を取るのが仕事だ。情報の出し手は権力者である。「与党」となり権力者が喜ぶ記事に仕立てる記者は、便利な記者とされ、情報をもらいやすい。

「批判的な記事を書く記者は干し、提灯(ちょうちん)記事を書く記者に情報を流す」という日常のマスコミ操作が、サラリーマンである記者に与党化を強いる。権力の監視というメディアの機能が、取材競争の中で「悪貨が良貨を駆逐する」という状況を生んではいないか。

◆やせ細ってゆく民主主義

話を秘密保護法に戻そう。「野党の衰退」は権力取材だけでない。国会で顕著に表れている。大詰めを迎えた国会審議は自民・公明の提案に対し、日本維新の会が修正協議に応じ、民主党やみんなの党がこの流れに引きずり込まれそうな展開だ。法案をちょっぴり変えれば、秘密保護法は成立する情勢になってきた。

秘密は30年経っても、政府が秘密のままにしておきたい秘密は継続される仕組みになっている。永遠に公開されない国家秘密は「国民の知る権利」を否定するもので、すべての野党がこの点を問題にしている。修正協議は「秘密保持は原則として30年」という文言を入れるか、が焦点となっている。

だが原則には例外がある、ということだ。例外的に秘密のまま、という秘密を認めることにもつながる。こうした「文言の操作」に国会の攻防が収れんするところに、今日の野党勢力の衰退がにじみ出ている。

「反対」だった新聞協会が「強い危惧」という表現に変えたように、日本の民主主義がやせ細ってゆくことが心配である。

なぜ今、秘密保護法なのか。そこに立ち返って議論をやり直すべきではないだろうか。

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