п»ї JR西日本、スバル、神戸製鋼……そして、あなたの会社は? 『山田厚史の地球は丸くない』第107回 | ニュース屋台村

JR西日本、スバル、神戸製鋼……そして、あなたの会社は?
『山田厚史の地球は丸くない』第107回

12月 22日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

日本企業は大丈夫なのか。そんな疑念が高まった一年だった。「安全」への配慮が欠落したことをうかがわせる事件が相次いでいる。

◆のぞみ34号の「重大なインシデント」

新幹線の「のぞみ」が台車に深刻な損傷を抱えながら運転を続けていた。JR西日本の保守要員が異常に気付きながら、新大阪で運行を引き継いだJR東日本の乗務員に「異常なし」と伝えた。

台車は車体の重量を受け止め、車輪とつなぐ骨格をなす部位。鋼鉄の骨組みに16×17センチの亀裂があり、あと数センチでポッキリ折れる状態だった。

「脱線につながる恐れがあった」と専門家はいう。時速200キロで疾走する新幹線が脱線したらどうなるだろう。

幸いJR東海の乗務員が異常に気付き、名古屋駅で停車して事なきを得た。「よかったね」で済む話ではない。

新幹線は東京五輪が開かれた1964年に開業してから大きな事故は起きていない。ほぼ10分ごとの過密ダイヤで整然と走るシステムは、日本の車両技術や運行管理の水準を世界に誇る象徴でもあった。

国土交通省は「重大なインシデント」と指摘した。アクシデントは「事故」、インシデントは「事件」を意味する。「事故になりかけた事件」であることを婉曲(えんきょく)に表明したのである。

なぜ亀裂が入ったのか。現時点で原因は不明だが、重い車体を支え走り続ければ経年劣化はあるだろう。ちょっとした傷が酷使に耐えられず大きくなる。機械ならあっておかしくないことだが、深刻な状態になるまで見過ごされたのはなぜか。定期点検があり、作業員は始業時に安全を確認していたはずだ。今回は油漏れもいっしょに起きていた。

人のやることだから見逃すこともあるだろう。だが異常に気付きながら運転を続けたことは重大な過ちである。

博多発の「のぞみ34号」は最初の停車駅の小倉を出た時、乗務員が異臭に気付いた。岡山駅で乗り込んだ保守担当者が異音を確認。「次の駅で止めて確認したら」と提案したが、JR西日本の輸送指令の判断で走行を続けたという。

新大阪まで走って2分間停車し、JR東海の乗務員に引き継ぐ。「異臭があったが検査班が乗り込み、異常がないか確認した」とし、車両について「異常なし」と伝えていたという。

JR東海の輸送指令が「念のため」と、異臭の確認を求めたところ、京都駅を出たところで乗務員が異変に気付き、名古屋駅で点検したところ亀裂が発見された。以上が経過である。
止めて点検すれば、数珠繋(つな)ぎのような過密ダイヤが乱れていまう。運行の効率と秩序を歪(ゆが)めないことは輸送指令が背負う十字架となっていたのかもしれない。

2005年、宝塚線(福知山線)の事故で107人が死亡、562人が負傷した。ダイヤの遅れを取り戻そうと運転士が無理してカーブに高速で入ったころで大事故となった。日本が誇る「定時運行」は、現場に大きな負荷をかけている。

問題は、負荷に耐える組織力・マンパワーが現場に整っているか、ということだ。

「背景に設備の老朽化・複雑化に加え、現場要員の高齢化や若手技術者の不足などの構造的な問題もあると考えられる」

石井啓一国土交通相は12月19日の会見で語った。

◆相次ぐ構造的不正

同じ日の新聞に、自動車メーカーのスバルが「無資格検査」の報告書を国交省に提出したことが載っていた。

資格のない社員が安全審査を行っていただけではない。日産自動車と同様、監査や社内試験の不正が横行していた。そればかりか、検査で基準を満たさない車両はデータを改ざんして合格にしていた可能性が浮上した。

スバルは衝突防止など安全性能を売り物に販売を伸ばしていた。社内の安全無視をどう説明するのだろう。

燃費データの偽装は三菱自動車で発覚し、検査の手抜きはスズキ自動車でも判明、日産で無資格検査や構造的不正が明らかになり、スバルに波及した。

鉄鋼業界では神戸製鋼所が21日、執行役員3人を「検査データの改ざんを知りながら見逃していた」として処分したことを発表した。銅・アルミ部門で工場長などを務め常務執行役員まで上り詰めた人たちだ。組織ぐるみの検査偽装が現場で受け継がれていたのである。

◆「弱い経営・強い現場」

2000年代に入って企業による「偽装」が次々に明らかになった。発端は食肉偽装だった。輸入牛肉を国内産と偽ったり、豚肉を牛肉にしたり。「怪しげな会社は何をするかわからない」というのが世間の評価だった。

やがて設計事務所による耐震偽装や大手企業が免振ゴムのデータを偽装していたことが問題になる。日本を代表するオリンパスや東芝での粉飾決算が明るみに出た。

大企業でも経営者は追い込まれると不正に手を染めることを人々は知ることになる。

さらに自動車・鉄鋼というモノづくりの牙城(がじょう)では、現場の管理職が安全の手抜きを担っている実態が浮かび上がった。

日本企業の特徴は「弱い経営・強い現場」と言われた。サラリーマンあがりの経営者は自分の歩んだ分野のことしか分からず、企業全般を統治する力がない。大企業の多くは縦割り組織で、部門ごと自主管理し、中核となって現場を支えるのが中間管理職、という形態になりがちだ。

私は新聞記者として役所や銀行・自動車業界などを見てきたが、役所は課長補佐、銀行は次長、製造業は課長が支えていたように思う。

課長補佐は課長になったつもりで、課長は部長、部長は取締役のつもりで働け、というピラミッド構造。一階級上の意向を忖度(そんたく)して仕事をしろ、という空気が職場に充満していた。

ホンダがまだ元気が良かったころ、「わいがや」が現場の精神とされていた。試作品や不良品を前に工員たちが地位や職歴を問わず、わいわいガヤガヤと意見を交わすことからモノづくりは始まる、という習慣だった。

「わいがやをやっていると、こいつの発想は面白い、あいつはいい眼をしている、と評価がおのずと生まれ、職人として誇りが育まれる。ものづくりの現場は役員も職工も対等という空気があった」

本田宗一郎から社長を受け継いだ河島喜好(かわしま・きよし)は言っていた。高度成長のころ日本のイノベーションを支えたのは職人気質だった。いい製品を創(つく)ることが全て、「手抜き」などありえないことだった。そんな空気が変わり始めたのは1970年代の石油ショックである。

◆「沈黙の羊」たちの共同犯罪

成長が鈍化した。

節目は中曽根政権による国鉄改革ではなかったか。資本対労働の決戦ともいわれた。国鉄の膨大な赤字がやり玉にあがり、現場を労組が支配し、経営が歪められている、と問題になった。メディアも「現場主導の過剰品質」が糾弾された。国労潰しとも言われた国鉄民営化で、コスト意識が強調され、職人としてのこだわりは時代遅れとなった。

やがてバブル経済が崩壊し、リストラの嵐がトドメを刺す。「コストカッター」と評判が立った日産のカルロス・ゴーン社長が象徴的存在だ。各部門に「削減目標」が割り当てられる。目先の業績やノルマの達成が重視される経営がはびこり、結果を数値で表すことが難しい「安全」はおろそかにされる結果となった。

現場で品質にこだわるより、株式市場の評価を気にする経営者が増える。長期停滞とリストラの20年で、「強い現場」は衰退し、「弱い経営」は安全の手抜きを見過ごしてしまった。

団塊の世代が現場を去ったことも影響してるだろう。高度成長で育ち、日本が世界で輝いていた時、産業を背負っていたのが大量採用されたこの世代だ。リストラの対象にもなった。現場重視を叩きこまれた団塊が去ったことで、職場は深刻な人材不足になっている。

末端にゆとりがなくなり、「リスク管理」を口実に、自らに危害が及びかねない事柄は避ける、という風潮が強まった。

余計なことはしない。危ないことは他に押し付ける。それが身を守ることにつながる、という処世術である。

不正や手抜きがあっても、知らぬふりをする。皆がやっていることに異を唱えれば社内の立場が悪くなる。日産やスバル、神戸製鋼で起きていたことは「沈黙の羊」たちの共同犯罪ではなかったのか。

保安係から「停車して点検を」と提案されながら運転を止めなかった輸送指令は、「円滑なダイヤ維持」という自分の職分しか考えなかったのか。新大阪駅で「異常なし」と言ってJR東海に引き継いだ運転士は、これで厄介払いをした、とでも思ったのだろうか。

企業だけではない。日本全体が、目先の不利益から逃げ、大局に目を瞑(つぶ)る、という傾向はないか。名だたる企業で起きる不祥事は、他人事だろうか。あなたの所属する組織は、大丈夫ですか?

One response so far

  • 北村 透 より:

    JR西日本はあれだけの事故を起こした後に運用マニュアルの見直しをしていないのだろうか。現場(運転手 車掌 実車に登場した保守要員)の判断に、遠く東京の運行管理者の判断が優先される体制が信じられない。運行管理者は運行管理を優先するので、判断を求められれば運行を優先した判断をする。現場に列車を止める権限を与え、運行管理者はその報告を受け、列車を止めるという新しい事態に対応した、最善の運行管理方法を考える体制が必要だ。
    安全に責任を持つ役員部長クラスの責任を追及しなければまた、同じことが繰り返される。
    また、異常を感じた時に勇気をもって列車を止めた現場の職員は、たとえ、軽微な故障であっても、安全への真摯な取組を評価する体制が必要だ。黙っていれば厳罰、報告し、判断が誤っていてもその勇気をたたえる文化をJR西は構築し、利用者の安全への期待に応えてほしい。

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