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「全天候型友好国」中国の躍進
『夜明け前のパキスタンから』第15回

7月 15日 2016年 国際

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北見 創(きたみ・そう)

『夜明け前のパキスタンから』第15回
日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

中国は、パキスタンにとって最大の貿易相手国、最大の投資国、最大の経済援助国となった。1962年の中印戦争以来、インドを共通の敵対国として、主に軍事面で協力関係を構築してきた両国だが、近年では経済面での協力関係が目立つ。国民の対中感情は良好で、中国製品も評価されている。中国企業と協力してビジネスする日本企業も現れ始めた。

◆貿易、投資、経済援助で首位

パキスタンにおける中国の勢いは、すさまじい。2014/15年度(パキスタンの年度は7月~翌年6月)の中国との貿易総額は93億ドル。8年前の2006/07年度と比べて3.3倍になった。貿易相手国としては、アラブ首長国連邦(UAE)を引き離して首位。直近の15年7月~16年5月の合計では、中国は輸出相手国としては2位だが、輸入相手国としては1位に躍進した。

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外国直接投資で見ても、中国からの投資額が最も大きい。15年7月~16年5月までの11カ月間では、5.8億ドルと前年同期比の2.4倍になった。米国、英国、UAEといった主要国からの投資が振るわない中、中国は投資額全体の52.7%を占める。

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15年4月、習近平国家主席がパキスタンに来訪した際に発表した「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」は、着々と進んでいる。CPECでは、電力や道路などのインフラ開発プロジェクトが盛り込まれている。事業総額は合計460億ドルと発表されている。この経済回廊の開発に伴い、中国の経済的プレゼンスがますます高まっている。

中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の第1号案件は、CPECの一部である道路の整備案件に決まった。

15/16年度のパキスタンへの援助・融資の実績額では、中国は1430億ルピーと国別では首位となった。援助主体としては、国連の専門機関である国際開発協会(IDA)が1795億ルピーに次ぐ2位。なお、アジア開発銀行(ADB)は1340億ルピー、日本は186億ルピーだった。

国内では中国人労働者が増えている。多くはパキスタンのインフラや鉱山の現場で働いている。推測では、その数は1万人を超えるという。外務省の海外在留邦人数調査統計(16年)によれば、パキスタンの在留邦人数は15年で968人で、長期滞在の民間企業関係者は142人であるから、パキスタンで働く人数だけでみると、日本人より中国人の方が圧倒的に多い。

◆持続する中パの協力関係

09年ごろ、ジェトロ・カラチ事務所の駐在員はセミナーで、「パキスタンを理解する上では、三つのAが重要です。Allah(アッラー)、Army(軍)、America(米国)の三つです」と説明していた。

16年現在、アッラーと軍は変わらず重要であるものの、米国の存在感は以前に比べて薄くなっている。Aの代わりに、最近のパキスタン経済では「China(中国)」「Corridor(回廊)」「Construction(建設)」「Consumer(消費者)」といったCの方が重要になりつつある。

パキスタンは独立以来、インドという巨大な敵対国を前に、米国、中国という二つの大国の間で振り子のように揺れ動いてきた経緯がある。

パキスタンは米国の従属国(Client State)ともいえるが、米国からの経済援助や投資の流入が増えるのは、米国の戦線にとって、パキスタンが有用なパートナーになり得る時期に限られる。独立以降では、1960年代の冷戦初期、79年~89年のソ連のアフガニスタン侵攻時、2000年代の9・11テロから続くアフガニスタン戦争時などだ。

2000年代は、米国を中心にパキスタンへの外国直接投資が増え、景気も高揚し、自動車販売台数も大きく伸びた時代であった。2010年代は、米国のパキスタンへの関心が比較的薄れている時期と言えるかもしれない。

一方、中国との関係は、1950年1月に、パキスタンが非共産主義国としては3番目に早く中国を国家承認して以来、一貫して良好である。62年の中印戦争で、インドが共通の敵対国、中国がパキスタンの「全天候型友好国」となり、主に軍事面で協力が進んだ。72年のニクソン大統領の訪中に当たっては、パキスタンが米中の橋渡しに尽力した。

近年では中国の経済成長に伴い、前述のとおり、経済面での台頭が目立つようになってきた。中国=パキスタンの回廊は、(1)中国が中東の石油を輸入する際、マラッカ海峡を封鎖されても、パキスタン経由で輸入できる(2)中国海軍がインド洋で抑止力を発揮できる(3)アフガニスタン=パキスタン圏での未開発資源(銅や金などの鉱物)を確保できる――など、中国側のメリットも大きい。今後とも両国の協力関係は、強固に持続する見通しだ。

両国の懸案事項としては、中国の新疆ウイグル自治区(イスラム教徒)の分離主義者が、パキスタン領内で軍事トレーニングを受けているという点で、中国はパキスタン政府に対して更なる取り締まりの強化を求めている。

◆大好きな中国と日本のコラボを

パキスタン国内における対中感情は良好で、Pew Research Centerの2014年の調査によれば、調査対象者の78%が中国に良い感情を抱いている、という結果が出ている。

一方、米国は14%と低い。2001年~2010年の援助実績合計額では、米国が32.8億ドルと、中国(8.6億ドル)の4倍近く拠出しているにもかかわらず、対米感情は中国とは対照的だ。

なお、通常は米国陣営と見なされる日本だが、パキスタン国内における対日感情は良好だ。51%のパキスタン人が、日本に対して良い感情を抱いている。

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中国製品への評価も、「安くて品質もそれなりに良い」と話すパキスタン人は少なくない。中国からの急速な輸入拡大は、中国製品が評価されていることへの証左でもある。

中パ関係に精通する、パキスタンの経済団体パキスタン・ビジネス・カウンシル(PBC)のサミール・アミール調査部長は「パキスタンで事業を行うのであれば、中国企業と協力する方が良い」と指摘する。実際、日本企業が出資する中国企業がパキスタンに進出するケース、中国子会社の中国人スタッフと一緒にパキスタンでの調達先を探すケースなどが見られている。

日本と中国の共同事業やコラボレーションした商品は、パキスタン人にとっては魅力的に映るだろう。日本の対中感情は良好とは言い難いが、中国企業とパートナーシップを築いている日本企業は、パキスタンでは有利と言えるかもしれない。

※本稿は、Christophe Jaffrelot編「PAKISTAN AT THE CROSSROADS ? Domestic Dynamics and External Pressures」(Columbia University Press, 2016年)を参考に執筆しました。

■過去関連記事

・中国パキスタン経済回廊は長い目で(2015年12月18日)
https://www.newsyataimura.com/?p=5000

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