п»ї 「兵器爆買い」と北方領土 交渉迷走、膨れる防衛予算 『山田厚史の地球は丸くない』第131回 | ニュース屋台村

「兵器爆買い」と北方領土 交渉迷走、膨れる防衛予算
『山田厚史の地球は丸くない』第131回

12月 28日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

◆日米首脳間の「口約束」

ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」2基で1757億円、最新鋭ステルス戦闘機F35Aが681億円など米国の兵器産業が喜ぶ予算項目が並んでいる。これらは序の口だ。「防衛計画の大綱」では19年度から5年間の防衛予算の総額を27兆4700億円程度としている。18年度まで5年間の24兆6700億円から3兆円近く膨張している。

11月30日、ブエノスアイレスで安倍・トランプの日米首脳会談が行われた。会談後の会見で、「シンゾウが米国の戦闘機F35などを数多く購入すると言ってくれた。非常に感謝している」と大統領は語った。

この発言に首相に同行した政府高官は「新たな購入を決定した事実はない。将来の戦闘機体系全体の在り方について防衛省で検討を進めている」と説明した。

検討事項となっているのは、戦闘機F35A42機、護衛艦「いずも」の空母化で、垂直に着陸できるB型を20機。ミサイル迎撃システムは「イージス・アショア」だけでなく改良型の「SM3ブロック2A」、F35に搭載する長距離巡航ミサイルなどだ。

「決定した事実はない」と言い張っても、トランプ大統領が「感謝」を述べたのは、首脳会談で安倍首相が「表明」し、これが首脳間の「口約束」となったからだろう。

兵器爆買いの背景には、新年から始まる日米FTA交渉がある、といわれる。農産物などへの風圧を和らげるため先手を打った、という解釈だが、もう一つ見落とせない要因がある。北方領土である。

政府は「4島一括返還」の旗を降ろし、政府は歯舞・色丹の「2島返還」で成果を挙げようと動いているが交渉は行き詰まっている。交渉相手はロシアだけではない。立ちはだかるのが、日米安保条約を結ぶ同盟国アメリカだ。安保条約に「米軍への基地提供義務」が謳(うた)われ、日米地位協定で「米国は日本の施政権が及ぶ地域に軍事基地を置くことができる」とされている。

「返還された島に米軍基地ができる、ということがあってはならない」というのがロシアの立場。歯舞・色丹に米軍施設ができないことを保証しろ、と要求している。

◆トランプとプーチンに迫られるシンゾウ

日本は「基地を造れるというのは、あくまで原則論で、返還された領土に基地が置かれることは現実にはない」と説明するが、基地をどこに造るかは米国が判断することだ。

交渉の打開には、米国から「基地を置かない」という意思表明を取り付ける必要がある。

沖縄返還交渉は「糸で縄を買った」と言われている。本土復帰の代償となったのが対米繊維輸出の自主規制だった。1960年代以降、日本の繊維産業は世界に躍進し、米国の繊維産業は悲鳴を上げていた。当時の佐藤栄作内閣は、繊維輸出を抑えることを約束し、沖縄返還を実現した。

北方領土を高く売りたいロシアには択捉・国後での共同事業やシベリア開発への資金・技術支援で対応する。日本にとってもう一つの難題が、領土の返還で米国に発生する「権利」。日米安保条約で認められている米国の基地設置権をカネで買い取る。その代償が「兵器爆買い」である。縄を糸で買った、あの構造だ。

沖縄返還は表向き「繊維交渉とは無関係」となっている。裏で密約があっても表には出さない。首脳会談の舞台裏で「戦闘機もイージス・アショアも言い値でどんどん買いますから、北方領土に基地は造らないと約束してください」と日本側が持ちかけたとしても、それは表には出ない。政府は「新たな購入を決定した事実はない」と言い続ける。

当事者が日米だけなら「密約」は可能だ。しかし、ロシアという第三者が介在する北方領土はそうはいかない。

「トランプ大統領と話を付けたからもう大丈夫です」と安倍が言っても、プーチンは納得しないだろう。

返還した後にトランプが心変わりしたら、プーチンはどうすることもできない。安倍とトランプの密約を前提に交渉を進めるほどプーチンはお人好しではない。交渉関係者によると、プーチンは「基地を置かないという約束を、トランプ大統領の書面で頂きたい」と求めている、という。

米国は日米地位協定の例外を大統領が書面にすることはまずしないだろう。確約がなければロシアは動かない。

安倍首相は、米国の内諾を取るために巨額の兵器購入を約束した。だが、これだけでは領土は返ってこない。交渉が不調に終わっても、米国からカネは戻らない。トランプは「最新兵器を日本が欲しいというから売ってやっただけ」と言うだろう。

「米軍基地を造らない保証を」と求めるプーチン。「シンゾウ、兵器をもっと買ってくれ」と迫るトランプ。領土交渉は新年も迷走し、防衛費は更に膨張する。

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