コンサルタントに丸投げする会社に将来はない
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第23回

6月 20日 2014年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住16年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

『申し訳ない。御社をつぶしたのは私です』。こんなショッキングな題名の本が発刊された。現役の経営コンサルタントのカレン・フェラン氏が著した本(2014年3月初版、大和書房)である。元々、欧米系の経営コンサルタントのやり方に大きな疑念を持っていた私は、日本に出張した時にこの本を見つけ、半日で読み終えてしまった。

米国ではそもそも転職が頻繁に行われ、従業員の定着率が悪いため、社内給与モデルなどない。コンピュータープログラマーや経理職など職務によって給与水準は、市場の需給関係で決定される。また転職が激しいため、社内の人材開発など行われていない。

  個人のスキル習得は、少しでも高い収入を得ようとする個人レベルの動機から行われている。そのため、米国の会社には社内の人事権を差配するような日本流の人事部はなく、わずかに保険、年金、納税などの事務を行う部門があるだけだった。少なくとも私が米国勤務から帰任した1994年末までは、米国の社会はこんな感じであった。

今回は、私自身の米国での体験などを基に、コンサルタントの上手な使い方について述べたいと思う。

◆まるでダイエット商法

アメリカから帰国してみてびっくりした。米国のコンサルタント会社が日本の銀行向けに人事セミナーを行い、その中で能力評価制度、職務給(職務と肩書に合わせて給与が上下する)、人材開発プログラムなどを、米国で一般的に行われている仕組みとして紹介しているのである。

当時の日本には「アメリカで行われていることは全て正しい」とする風潮があったのだろうか? それにしても、売るためには平気でうそをつく欧米系コンサルタント会社(1社だけではない)には、それ以来信用がおけなくなっている。

こうした個人的体験を持つ私にとって、フェラン氏が書いたこの本と出合ったことは、コンサルタント業務についての考え方を整理出来た貴重な機会となった。同氏によると、80年に米国の有名な経営学者マイケル・ポーターによって提唱された「競争の戦略」が当初の経営コンサルタントのツールとなったようである。

この後、コンサルタントたちは開発されたツールで金を稼ぎ終わると、次々と新たなツールを開発し、顧客に売りつけていくようになった。年代順に挙げると、「コアコンピタンス(他社との競争のなかで優位性のある中核事業)」「ビジネス・トランスフォーメーション(業務プロセスや事業構造を抜本的に見直し変革すること)」「リエンジニアリング(ビジネスプロセスを再構築すること)革命」「KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)」「ヒューマン・アセット・マネジメント(効率的な人材管理)」など、なじみ深い言葉が並ぶ。

そして、こうしたコンサルティング理論に次々とはまっていく様子を、フェラン氏は「華麗な言葉で人々の欲望を刺激し、手を変え品を変えて物を売りつけるダイエット商法と同じだ」と斬りつけるのである。

◆経営戦略に画一的な正解などない

では、経営コンサルタントの何が問題なのであろうか? 第一に「経営戦略に画一的な正解などない」ということであろう。人々は「ベストプラクティス(最良の実践方法)」という言葉にだまされて、「永遠の経営戦略」の存在を信じてしまう。

しかし、これが間違いの始まりである。経営戦略を立案するということは、業界の動向や競合先の分析、消費者ニーズなどの情報を収集し、更にシミュレーションを行うことである。こうしたプロセスを経ることによって、いかなる事態にも備えられる準備が出来るのである。

こうしたプロセスを行うことの重要性については、軍事戦略家であった南北戦争当時のユリシーズ・グラント将軍や第2次世界大戦当時のアイゼンハワー大統領を引き合いに出す。「戦闘準備において作戦そのものは役に立たないことは常に思い知らされたが、作戦をたてる行為こそ重要だ」(アイゼンハワー大統領談)。すなわち経営コンサルタントを雇うということは、経営者自らが情報収集したり、シミュレーションを行ったりするなどの思考行為を放棄していることなのである。

経営戦略が軍事戦略に比して更に問題なのは、軍事戦略は斥候(せっこう)などを含め現場からの情報収集に注力するが、経営戦略は流行の理論に基づいた机上の空論でしかないことである。更にフェラン氏は、コンサルタントの間違いとして次の3つを指摘している。
 
①従業員を資産として扱い、平均的従業員にはアメとムチの管理が必要としているが、実際はこの方式は生産性を悪化させる。
 
②報酬評価制度を導入すると、従業員は会社の利益を犠牲にして自己の利益を追求する。
 
③社員は自己の利益を追求するあまり、平気で法律違反を起こす。

こうして新たなコンサルティング理論を導入したことによって失敗した事例は枚挙にいとまがない。モトローラなど「コアコンピタンス」を導入した企業の半数以上は凋落(ちょうらく)してしまった。また「KPI」を導入したエンロン、IBMクレジット、シアーズオートセンター(自動車修理チェーン店)など多数の会社が社内犯罪に遭遇している。

さらに、フェラン氏の知人で報酬コンサルタントであるマーク・ホダック氏の研究(Chief Executive誌 2006年7-8月号)によれば、業績給制度を採用している企業の業績はS&P500社の企業業績に比して3.5%悪いとの結果が出ている。

◆コンサルタントは魔法の玉手箱ではない

それでは、経営コンサルタントを使うこと自体、間違いなのであろうか?

実は私の勤めるバンコック銀行も日タイの会社・銀行数社と共同で「バンコク・コンサルティング・パートナーズ(BCP)」というコンサルタント会社を設立し、運営している。BCPは、タイに進出を計画されている日系企業向けの「進出コンサルティング」と進出後の経営支援を行う「経営コンサルティング」「ビジネスマッチング」を業務の3本柱にしている。

コンサルタント業務に関係する者が、その業務の問題点を指摘するのは奇異に映るかもしれない。しかし、BCPが提案するサービスは極めて限定的になっている。「進出コンサルティング」においては、①主に行政・法律面を中心とした進出手続きと申請支援②会社立ち上げに必要な土地・建設・人材などのあっせん――だけである。

進出の基礎検討材料である顧客ニーズや競合先の研究などは、基本的にお客様の仕事としている。また「経営コンサルティング」業務についても主に「マーケット調査」や「生産技術指導」に絞り、経営資源の不足しがちな中小企業を想定して行ってきている。

コンサルタントは貴社の問題をすべて解決してくれる魔法の玉手箱ではない。専門的な知識の供給や基礎データの収集・分析を手助けしてくれる補助者なのである。「コンサルタントに丸投げする会社に将来はない」と私は思う。

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