п»ї GAFAの知恵、日本の企業経営者はその経営手法を勉強しよう『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第194回 | ニュース屋台村

GAFAの知恵、日本の企業経営者はその経営手法を勉強しよう
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第194回

5月 21日 2021年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

o バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住23年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

GAFAとはIT業界に君臨する米国の四つの巨大企業グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の頭文字を取って名付けられた4社の総称である。いまや私たち日本人はこれら4社のサービスなしで生きていくことは考えられない。それほどにこの4社のサービスは私たちの生活の奥底に入り込んでいる。また昨年来、新型コロナウィルスが世界中に蔓延(まんえん)してからは、この4社はますます好調のようである。コロナ禍でこれら4社の業績は伸長しており、旧常態に生きる企業とは対照的な様相を見せている。しかし、これら4社の業績好調の理由は「IT企業だから」というだけでは決してない。その好調な業績の背後で、彼らは極めて科学的で合理的な「勝ちゲーム」を展開しているのである。

■異なったタイプの経営本を3冊読む

バンコック銀行日系企業部では新たに採用した行員向けに「小澤塾」と名付けた6カ月の研修コースがある。この期間に塾生は銀行商品や貸出の基本などを英語による宿題回答形式で勉強する。さらに講義と並行して塾生に3冊の経営学の本を読ませ、英語でプレゼンテーションを行わせる。このプレゼンテーションのあと、英語での質疑応答も行わせる。

経営学の本と一口に言ってもさまざまなタイプの本がある。大学教授やコンサルタントなどが編集した網羅的な経営学の本、いわゆるMBAコース(社会人マネジメントプログラム)の解説本。ピーター・ドラッカーや稲盛和夫などが著した経営哲学。トヨタ生産方式に代表される生産管理関連の書籍。フィリップ・コトラーで有名なマーケティング理論。無印良品やナイキなどを取り上げた企業成功物語。果ては自分自身のサクセスストーリーを自慢げに語る企業人が出版した本など千差万別である。

私は塾生に対して、なるべく異なったタイプの本を3冊選ばせて読ませるようにしている。人は経営学の本を1冊読むとそれだけで満足し、その本に書かれていることを鵜呑(うの)みにして信じてしまう。しかし塾生には、これらの本を3冊読ませることで「経営学でも色々な考え方がある」ことを肌で感じさせる。

さらに塾生のプレゼンテーションのあと、私はその本の書かれた時代背景やその考え方が生まれてきた経緯などを説明する。経営のやり方は時代とともに変わってきた。経営学の本もその書かれた時代の産業構造や社会の仕組みが反映されている。

こうした作業を続けるうちに、私は100冊以上の経営学関連の本に触れ合うことができた。何度も繰り返し読んだ熟読本もあれば、斜め読みした本も数多くある。そんな私が今、読みあさっている経営学の本がGAFA関連の本である。

■グーグルを描いた本と映画

そもそも私が最初にGAFAに興味を持ったのは2014年4月に日本に出張した折である。日本での顧客訪問の合間に時間つぶしで本屋に立ち寄った。そこで目にしたのが、米国の経営コンサルタントであるカレン・フェランが書いた『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』(大和書房、2014年3月)という本である。コンサルタント嫌いを自認する私から見て、まさに「買ってください」と言わんばかりの上手な題名がつけてある。平積みしてある出版したての本をその場で購入し、私は半日で読みきってしまった。(ニュース屋台村拙稿第23回「コンサルタントに丸投げする会社に将来はない」(2014年6月20日付ご参照)。

このカレン・フェランの本の中にグーグルが2009年に独自に行った、「チームのパフォーマンスを高めるマネジャーの特性」を調査・分析する「プロジェクト・オキシジェン」について簡単に触れてあった。グーグルは当時から最先端企業の呼び声の高かったが、その実態はベールに包まれていた。私はこの「プロジェクト・オキシジェン」について「グーグル検索」を使って調べてみたが、日本語ではヒットしない。わずかに英文で米紙ニューヨーク・タイムズに掲載された記事が見つかっただけである。この内容については、ニュース屋台村の拙稿第 24回「優れたマネジャーの条件とは何か?」(2014年7月4日付)を参照していただきたい。いずれにしても気味が悪いくらい、当時の日本ではグーグルの実態がわかっていなかったのである。

さらに偶然は重なるものである。同じ14年の4月の日本出張で、タイに帰る飛行機の中で「インターンシップ」という映画に巡り合った。2013年に米国で製作されたグーグルを舞台としたコメディーである。アナログな時計会社のセールスマン2人がスマートフォンに押されて会社倒産の憂き目に遭い、その復讐(ふくしゅう)の意味を込めてグーグルのインターンシップに応募するという内容だ。グーグルの情報に飢えていた私は、5時間半の飛行時間の間に英語版のその映画を2回も見てしまった。映画では実際のグーグル本社が撮影現場として使われており、グーグルの実像が垣間見える。私は米国に10年ほど勤務したことがあり、広い敷地にゆったりとしたビルディングが立つグーグルの外観は見慣れた風景である。加えて同社の社内も広くゆったりと造られている。

社員はラフな服装で思い思いの格好で考えごとをしたり、本を読んだりしている。いたるところに透明なアクリルボードが置かれており、人々は思いついた考えをその場でボードに書きつける。やたら数式が並んであり、働いている社員たちは天才や秀才ばかりだと思わせる。カフェテリアやジム、レクリエーションシステムも充実しており、社員はいつでも自由にこうした施設を使える。もちろん、食べものはすべて無料である。映画ではアナログな中年おやじ2人が、学力ではほかの社員に全く歯が立たない。しかし「スポーツの能力」と「あふれる人間性」でグーグルの社員たちの団結力を強め、グーグルの経営陣に認められる、というコメディーである。

残念ながら、この映画は日本では劇場公開されなかった。そのためほとんどの日本人はこの映画の存在を知らない。日本の会社とは全く異なる経営手法をとるグーグル。その経営実態が垣間見えるこの映画が日本で公開されなかったことに、私は意図的なものを感じる。まさにイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラットが日本の製造業の実力を恐れ、自著『ザ・ゴール』(1984年)の日本での出版を2001年まで許可しなかったのと同じ理由ではないだろうか。

GAFAの実態活写した3冊

いずれにしても、GAFAの経営手法は日本では長い間知られてこなかったが、最近になり少しずつ、GAFAの実態を描き出した本が出版されてきている。このため「小澤塾」でも、GAFA関連の本が塾生の課題本として読まれるようになってきた。もちろん、GAFAについて皮相的にしか描かれていない本もたくさんある。産業分析や業態分析、決算分析など外部情報だけに頼った本である。多くの大学教授やコンサルタントは、こうした類の本を出版する。しかしこうした外部情報だけではその会社の本質には迫れない、と私は考えている。GAFAの実態が把握できる本として、私は以下の3冊を推薦したい。

①『Amazonで12年間働いた僕が学んだ未来の仕事術』(パク・ジョンジュン、PHP研究所、2020年7月)

②『世界最高のチーム:グーグルで学んだ「働きがいのある会社」ナンバー1の秘密』(ピョートル・フェリクス・グジバチ、朝日新聞出版、2018年8月)

③『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(スコット・ギャロウェイ、東洋経済出版社、2018年7月)

 ①と②はタイトルからもわかる通り、それぞれアマゾン、グーグルで長年にわたって中核として働いた人が書いた本である。内部の人間だけが知りうる両社の成功と成長の秘密を解き明かしてくれる。GAFAの中枢で働く人たちはかなり少ない。2019年9月時点での米証券取引委員会の開示資料によると、アマゾン75万人、アップル13万人、グーグルの持株会社アルファベット11万4千人、フェイスブック4万3千人である。彼らの業績規模から考えると、決して大きな数字ではない。しかも、アマゾンには同社の物流を支える配達業や倉庫管理業などの単純作業員が数多く含まれる。アップルも同様に世界各国に展開する直営店に数多くの販売員がいる。アルファベットはユーチューブ、グーグルマップなどいくつも会社を抱えるコングロマリットで(複合企業)ある。

フェイスブックはこの4社の中で最も従業員数が少ないが、過去5年間に従業員が5倍に増加した。この大半はSNS上の不正を監視するための人材である。こう考えると、各社とも中核人材と呼ばれる人は多くても1万人程度だと私は推測している。限られた人たちだけがGAFAの内実を知っている。これら2冊はこうした人たちが書いているだけに興味深い。

一方、③ついては、「ニュース屋台村」で『視点を磨き、視野を広げる』の屋号を掲げて論考を展開している古川弘介氏が推薦された本である。古川氏は既に、「ニュース屋台村」の「資本主義の現状:『GAFA』について考える」(第26回、2018年12月25日付)の中で、この本を取り上げている。まさに慧眼(けいがん)である。著者のスコット・ギャロウェイは直接GAFAで働いたことはないが、自身で九つの会社を起業した経験を持つ。さらにニューヨーク・タイムズに役員として乗り込み、グーグルを相手に闘った経緯もある。こうしたビジネスを熟知した人が書いた本である。企業人としてのGAFA分析はさすがである。

■「勝ち組になった理由」どこに

企業体として現在、世界第1位の座を競っている巨人GAFA。日本の企業経営者たちのうち、どれぐらいの人がこれら4社のことをわかっているのであろうか。

最先端技術を取り込み、経営環境や金融環境を味方につけて、「勝ち組」として君臨しているGAFA。日本の企業経営者の人たちには、ぜひこうした勝ち組GAFAが「勝ち組になった理由」について勉強してほしいものである。

※「ニュース屋台村」過去の関連記事は以下の通り

▽『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』

第23回「コンサルタントに丸投げする会社に将来はない」(2014年6月20日)

第24回「優れたマネジャーの条件とは何か?」(2014年7月4日)

▽『視点を磨き、視野を広げる』

第26回「資本主義の現状:『GAFA』について考える」(2018年12月25日)

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