п»ї ジャズ喫茶復活、「祈り」という詩『ジャーナリスティックなやさしい未来』第4回 | ニュース屋台村

ジャズ喫茶復活、「祈り」という詩
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第4回

2月 28日 2014年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

仙台市出身。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長などを経て、株式会社LVP(東京)、トリトングローブ株式会社(仙台)設立。一般社団法人日本コミュニケーション協会事務局長。東日本大震災直後から被災者と支援者を結ぶ活動「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。企業や人を活性化するプログラム「心技体アカデミー」主宰として、人や企業の生きがい、働きがいを提供している。

前回に引き続き、全国のコミュニティFM局に番組を配信している衛星ラジオ局「ミュージックバード」の「未来へのかけはし Voice from Tohoku」の放送内容をお届けする。

今回は岩手県陸前高田市のジャズ喫茶、ジャズタイムジョニーの店主照井由紀子さんからの思い。地域や全国のジャズファンに愛されてきた店は津波で流されたが、全国のジャズファンからの支援で店舗は仮設として復活した。しかし、詩の朗読中にむせび泣く照井さんの心に宿る悲しみは深い。まずは、ラジオ放送の内容を紹介する。

◆集まったレコード

東日本大震災からまもなく3年。このコーナーでは、被災地の今を、現地の方々ご自身が綴った思いを、生の声で語っていただきます。

今日お伝えするのは、岩手県陸前高田市のジャズ喫茶「ジャズタイムジョニー」の店主、照井由紀子さんです。

1975年に陸前高田市中心部に開業したジョニーは、ジャズレコードを聴かせる喫茶店として全国のジャズファンや市民に親しまれてきました。

大津波に店舗は流されましたが、全国のジャズファンやジョニーの復活を望む方々からLPレコードなどの寄付が届けられ、その数、LPレコード2500枚以上、CD2000枚以上、オーディオセットも贈られました。現在は仮設店舗で営業しております。

今回は、照井さんご自身が書かれた詩を、ジャズが流れる店内で朗読していただきました。

【照井さん朗読】

祈り

突然に引き裂かれ、何もかもが散り散り
地球、巨大な生き物
その地表に人はかろうじてしがみつき
生きている、と思い知る

地球の、永遠の巨大を視野に人は立てないのだから
あの日と折り合いをつけるなどできない
生かされた感謝、生きる義務
振り絞った理性が、相反する思いをおしとどめるのがやっと

永遠の砂時計、一粒
悲しみと一緒に、きっと光を見つけさせてくれる
一粒、心の中にあなたたちがいると感じる
一粒
せめて
一粒

【エンディング】
 避難所や仮設住宅暮らしで、毎日のように聴いていたジャズがなかった日々。照井さんが聴きたかったのは、ハスキーボイスの女性ボーカリスト、ニーナ・シモンだそうです。

歌は人の心を癒やすことができるのでしょうか。悲劇のディテールを織り交ぜ、震災の風化を食い止めようとつくられたこの歌、『気仙沼線』。支援活動は「気仙沼線普及委員会」のフェイスブックでご覧ください。
(以上放送内容終わり)

◆一粒の重なり

ジャズ喫茶には思い出がある。高校時代、故郷の仙台では「カウント」「アバン」、名取の「パブロ」、時には遠征して岩手県一関市の「ベイシー」、秋田市の「ロンド」に足を運び、異国の圧倒的な音の迫力と旋律に心踊らされ、コーヒーの香りと紫煙に包まれた。それが大人への階段のような気がして、熱心にジャズ月刊誌「スイングジャーナル」を読み、論評で見識を蓄えた。

高校を卒業した後は、東京では「メグ」「いーぐる」「マイルストーン」、大阪では「しぶんきゅうふ」「ブルーシティ」。特にブルーシティには通い続け、大学1年時、1カ月ほど米ニューヨークでアパートを借りて、ジャズを聴き続けた日々は、このブルーシティの店主の手ほどきがあってこそだった。

この原体験から、震災が起きてから、陸前高田のジョニーがどうなったかが気にはなっていたが、震災直後は沿岸部の民家や避難所まわりに追われ、確認する時もないまま、時間だけが経過した。

そんな時、新聞記事でジョニー復活に向けた動きを目にした。全国からレコードが寄せられている、という内容だった。これが音楽の持つ力だろうか。コーヒー1杯でジャズレコードを高音質で聴けるこの手の店が、採算性を維持するのは至難の業である。しかし、私のように、一時代の思い出とともに、人生に大きな影響を与える空間として、今も人の心に生きつづける存在が、ジャズ喫茶なのかもしれない。だから、人は支援をするのだと思う。

照井さんの詩は、音楽を聴いてきた人ならではの、情を織りなす深い呻(うめ)きが込められている。仮設店舗で営業するジョニーには、喫茶店がほぼなくなったこの地域において、地元の方々が気軽に集える場所として機能している。来訪者は、地域の未来や抱える将来の不安を口にしながら、ジョニーは確実の地域のコミュニティーを形成している。

ジョニーの店内のお年寄りを見ながら、外野にいる私も、ジョニーにレコードを送ってくださった全国の方々への感謝がこみ上げてくる。小さな想いと活動が、やがてはきっと人を幸せにする。照井さんが朗読した「一粒」とは、そんな善意であるように思えてならない。

今回の照井さんの放送内容とジャズタイムジョニーの様子はユーチューブでご覧いただけます。

One response so far

  • KachiHideo より:

    素晴らしい記事をありがとうございます。
    また、伺いたく思います。

    2012年に、ダンサーたちと、土砂降りの雨の中、石巻の楽器や修復のボランティアを終えて、海岸沿いの壊れた道を釜石仮設での訪問演奏に向かっていた。道がめちゃくちゃに変わっていたので、迷いに迷って、ふとたどり着いたのが、陸前高田の仮設・Jazz喫茶”JONNY”だった。311以降、B.E.キングも激励に来てくれたお店だ。>

    となりの、たから石のお店でも、歓迎を受けた。「がんばれ、ジョニー!!」

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