п»ї ドバイから4.5億人のイスラム市場へ『夜明け前のパキスタンから』第4回 | ニュース屋台村

ドバイから4.5億人のイスラム市場へ
『夜明け前のパキスタンから』第4回

7月 03日 2015年 国際

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北見 創(きたみ・そう)

日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

パキスタンは、従来のアジア地域の視点でみると、「インド市場の先」であるため存在感がない。一方、「ドバイ周辺の国々」としてみれば距離的・心理的に近いものがある。ドバイを基点に、イランやアフガニスタンを含めて、手付かずの4.5億人の大型市場としてアプローチしてはどうか。

◆東より西から攻めるべき

先日、事務所に来訪いただいたお客様はドバイの駐在員だった。「安全性を考えて日帰りで来ました」という。あまり知られていないが、パキスタンの最大市場であるカラチは、ドバイから飛行機で約2時間で着く。エミレーツ航空は1日6便、毎日就航している。パキスタンへの足掛かりにはドバイの日帰り出張から始めるのが手っ取り早いかもしれない。

日本企業の地域区分を考えると、パキスタン市場はアジア統括会社の傘下なのか、中東統括会社の傘下なのか、明確でないケースも多い。シンガポールかドバイで管轄するか、特に管轄は決めずに取引ごとに決める「空白の国」であるかのいずれかであろう

まだ、パキスタン市場を狙う日本企業が少ないため、あまり議論になることはないものの、パキスタンをインドの延長として扱うのは考えものである。確かに両国は元々同じ国から分離独立した経緯があるが、ビジネス上は関連性が薄い。

第一に、主な宗教がパキスタンではイスラム教、インドではヒンドゥー教と異なる。第二に、印パ間では3回戦争が起こったうえ、いまだにカシミール問題で衝突を繰り返している。一般市民レベルでも根強い反感を抱いている。第三に、ヒトの移動は入管で厳しくチェックされており、心理的にも行き来しづらい。第四に、モノの移動においては、輸入禁止・制限品目が多い。自動車や電化製品などはもちろん、部品の相互補完もできない。

◆古代からの中東パキスタン交易

パキスタンを中東地域に入れたらどうなるだろうか。パキスタン人はMENAPという地域区分に自国を含めるが、これはMiddle East and North Africa and Afghanistan and Pakistanの意である。ちなみに国際通貨基金(IMF)ではこの区分が採用されているようだ。

パキスタンと中東の通商の歴史は古い。古代インダス文明(前2600年~前1800年ごろ)の大都市モヘンジョ・ダロ(現在のパキスタン・シンド州)やハラッパー(同・パンジャブ州)から出港した交易船は、ペルシャ湾を通り、メソポタミア文明のアッカド王朝(現イラク)まで紅玉髄(べにぎょくずい)などを輸送していた。アッカドの碑文によると、同国の港にはメルッハ(インダス文明)や、ディルムン(現バーレーン)、マガン(現アラブ首長国連邦〈UAE〉~オマーン)の交易船が停泊し、アッカド王朝との間に行き来していたという。これだけ古くからある通商ルートが重要でないはずがなく、周辺地域の市場開拓のヒントになりそうである。

つまり、ペルシャ湾~アラビア海北岸の三つのイスラム大国であるパキスタン、アフガニスタン、イランを一体として捉え、ドバイから攻勢をかけていく、という図が描けないだろうか。

パキスタンは将来的に2億7000万人近くまで伸びる市場であり、アフガニスタンは現在の3000万人から6000万人へと増え、イランは8000万人から1億1000万人へと伸びる。この3カ国でざっと4.5億人の市場ができあがる。そのつながりは南アジアより強固な物になるはずだ。実際、こうした考え方に基づいて布石を始めている日本企業もある。

アフガニスタンの最大の輸出国・輸入国はパキスタンであり、両国は市場のリンケージがあるため、一貫して市場開拓ができるだろう。一方のイランについては、シーア派が主体の国であるため、スンニ派が主流のパキスタン人からすると、少し違和感を覚えるようだ。しかし、他の宗教よりは親和性は高いといえよう。

◆密接な関係にあるUAEとパキスタン

UAEとパキスタンの現在の関係に話を戻すと、ヒト、モノ、カネの3面から考えた場合、ヒトの面では、多くのパキスタン人がUAEで働いている事実がある。その数は160万人といわれており、世界で最も多くパキスタン人が就労する国なのだ。同じ単純労働、コック、運転手などでも、給料がパキスタン国内に比べて倍以上になるため、出稼ぎ先として人気がある。

モノの面から考えると、パキスタンのUAEからの輸入額は、2014/15年度7月~翌4月の間で63億ドルである。輸入全体の18.4%を占め、最大の輸入相手国である。カラチに住む一般消費者の感覚として、食べ物や化粧品は「中東から来た物はハラルなので安心」というイメージがある。

カネの面では、前述の通り、UAEには出稼ぎのパキスタン人が多く、その送金額は35億ドル(2014年)に上る。これはパキスタンの送金受け取り額の17.7%を占めている。しかも、実際の送金額はさらに多い。両国の間では、手数料の安いフンディー(アラビア語でハワラ)という非公式の送金が一般的で、これによって相当な金額が送られている。これはパキスタン人の仲介業者がパキスタンとUAEに支店をもち、独自に送金を仲介するというものだ。

また、パキスタンへの直接投資額(2014/15年度7月~翌4月)では、UAEは1億8400万ドルと、全体の22.3%を占めて第3位である。投資家としてもUAEは存在感を示している。

このように、様々な切り口からみても、パキスタンにとってUAEは重要かつ密接な関係にある国である。ドバイはパキスタン市場の玄関口となりえる。アジアという区分にこだわるあまり、パキスタン市場が「空白」になっているのだとすれば、アプローチ方法の変更も検討すべきだろう。

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