п»ї 怒れ愛国者諸君!! 盗聴されて抗議できない同盟関係『山田厚史の地球は丸くない』第51回 | ニュース屋台村

怒れ愛国者諸君!! 盗聴されて抗議できない同盟関係
『山田厚史の地球は丸くない』第51回

8月 07日 2015年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「仮に事実であれば、同盟国の信頼関係を揺るがしかねないものであり、深刻な懸念を表明せざるを得ない」

これが精いっぱいの表現らしい。安倍首相が電話した相手はバイデン米副大統領だった。ウィキリークスが暴露した盗聴へのリアクションがこれだ。米諜報(ちょうほう)機関が日本政府や大手企業の要人を盗聴していた。

なぜオバマ大統領に電話しないのだろう。「バラク・シンゾウ関係」ではなかったか。米国議会で演説までさせてもらい「新時代の日米関係」をアピールしたのに、盗聴が明るみに出ても電話で話さえできない。

◆自立も誇りもない「戦後レジームからの脱却」

首相の同格は副大統領? 盗聴暴露から5日かけてやっと電話口に副大統領が出た。舞台裏で折衝があったのだろう。「副大統領が対応します」とあしらわれたのか。

ドイツやフランスで首脳への盗聴が明るみに出た時、メルケル独首相は「友人を監視してはいけない」と批判し、オバマ大統領に電話して説明を求めた。オランド仏大統領もオバマ大統領に直接、抗議した。

日本の首相は、抗議ではなく「懸念の表明」で済ます。「仮に事実であれば」と腰は引けている。事実かどうかの確認を米国に委ね、日本で調べることさえしない。ドイツは自前で調べ、抗議した。

こんな日米の同盟関係が強化される。米国が攻撃を受けたら、日本の自衛隊が反撃できるようにしようというのが安保法制のキモだ。米軍の戦争に日本が参加することになる、という懸念が強まっている。

地球の裏側の戦闘に「日本も加われ」と言われた時「断れるか?」。首相は「判断するのは日本」と答えるが、今回のリアクションを見れば、日本は断れないだろう。断る口実は憲法9条の精神だった。

安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法改正を主張している。「日本国憲法は占領軍が8日間で書き上げたシロモノだ」と問題にし、憲法を自らの手でつくることで日本の自立と誇りを取り戻す、という文脈で語ってきた。

自由民主党の結党の精神というが、盗聴されても抗議さえできない日米関係では、自立も誇りもあったものではない。自主憲法を制定すればこの関係が代わるわけではあるまい。

◆改憲論の底流にある「片務性」の疑義

ところがそうでもないらしい。改憲論者の話を聞くと、「日米安保条約の片務性が不平等な日本関係の根底にある」という意見をよく聞く。片務性とは、片方だけが重い責任を負っていること。日米安保条約で、米国は日本の防衛義務を負っているが、日本はアメリカが攻撃を受けても軍事行動は行わない。この不平等=片務性を解消しない限り、日本は米国と対等になれない、というのが改憲論の底流にある。

先般、日本記者クラブで安保法制を語った森本敏・元防衛相は「日本の危機に米国の若者が血を流すことがあっても、日本はそれに応えることをしないということでは、バランスが取れない」と語った。

日本の若者がアメリカの戦争で血を流せるようになって初めて日米は対等になれる、という理屈。互いに血を流すことで成り立つ同盟というのである。

「日米安保の片務性」が決まったのは、安倍首相のおジイさんである岸信介が首相の時だ。朝鮮半島で戦争があり、ソ連(当時)とにらみ合う米国にとって日本の軍事基地は重要だった。1960年に改訂された安保条約は、米国が日本の防衛に責任を持つ見返りに、日本は米軍に基地を提供する、と約束した。若者の血と基地提供がバーターとなった。

それが今になって「バランスを欠く」との声が日本側からも上がっている。俗にいう「安保ただ乗り論」である。尖閣(せんかく)諸島で中国と武力衝突が起きたら、日米安保条約で米軍が出動する。米国の若者が血を流すかもしれないのに、日本は米国のために何もしなくていいのか、というのが集団的自衛権容認の根拠である。

だが、改定された日米軍事協力に関するガイドラインを読むと、尖閣で紛争が起きても米軍は率先して動くことはない。「一義的には自衛隊が行う」と明記されている。米軍は「支援」にとどまる。

「米国は尖閣で若者の血を流すことはしない。衝突が起きそうになったら止めに入るのではないか」。集団的自衛権の容認は憲法違反だと主張する柳沢脇ニ・元内閣官房長官補は指摘する。オバマ政権は、尖閣で日中の衝突に巻き込まれることを警戒している。

片務性解消で日本は、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)討伐の後方支援に駆り出される恐れはないのか。財政難で軍事費に大ナタを振るう米国は、軍のリストラの穴埋めを日本からの派遣に埋めたい。それが「片務性の解消」だろう。

◆アメリカに頼まれたら「NO」と言えるのか

中国の脅威が強調され、尖閣での小競り合いが懸念されるが、それは日本の都合でしかない。米国は尖閣で血を流すことなど念頭になく、手が足らないのは「世界の保安官」の仕事である。

安倍首相は「イラク攻撃のような場面で日本が協力することはない」と繰り返すが、アメリカに頼まれたら「NO」と言えるのか。

軍事基地は沖縄ばかりではない。首都圏に米軍基地があり、治外法権の施設をあちこちに持つ米国の諜報機関は、日常的に盗聴は可能だ。政治家や官僚の私的情報までつかめる諜報システムが、米国に抗えない構造をつくりだしているのではないか。

対中・対ソ外交で米国の枠をはみ出た田中角栄元首相がロッキード事件で失脚した背景に、米国情報があった。政治家が対米関係を気にするのは米諜報機関が握る情報とも無関係ではないだろう。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉と絡み、甘利明経済財政担当相は「盗聴されていることは覚悟で交渉している」と語った。現実はそうかもしれないが、もっと怒れよ!と言いたくなる。「戦後レジームからの脱却」という掛け声と、現実にやっていることが、違いすぎる。

安倍さんを支持する愛国者たちはどう考えているのだろう。

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