п»ї 悪い冗談? 東京五輪『カメラ猫の言いたい放題』第1回 | ニュース屋台村

悪い冗談? 東京五輪
『カメラ猫の言いたい放題』第1回

9月 20日 2013年 社会

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那須圭子(なす・けいこ)

フリーランスのフォトジャーナリスト。1960年、東京生まれ。山口県在住。20年間、山口県上関町に計画される原発建設に反対する人々をカメラで記録してきた。それを知らない占い師に「あなたは生涯放射能と関わっていく」と言われ、覚悟を決めた。人間より、人間以外の生きものたちが好きな変人。

2020年オリンピック・パラリンピックの開催地が決まった9月8日の朝、テレビをつけた私は、「ト・ウ・キ・ヨ・ウ」とロゲ国際オリンピック委員会(IOC)会長が発音する口元を見て、「はぁ~?」と思わず大きな声を出したまま、文字通り開いた口がふさがらなかった。

前夜、安倍首相がIOC総会のプレゼンテーションの場で、東京電力福島第一原子力発電所の汚染水漏れについて「状況はコントロールされており、(汚染水は)東京には何の影響も与えない」「汚染水の影響は原発の港湾内の0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」などと国際社会に向けて「大ウソ」をついたのを見て、相当驚いてはいたものの、まさかそれを鵜呑みにするほどIOCが愚かだとは思っていなかったのだ。

しかし、この安倍首相の言葉に私以上に驚いたのは、当の東電だったらしい。慌てて政府に問い合わせたというから、笑い話にもならない。「え?ほんとうにコントロールされているのですか?」とでも聞いたのだろうか。

◆除染、汚染水対策・・・・・・お金はいくらあっても足りない

あまりの出来事にしばし呆然としながら、私はほんの数週間前に出会った人たちのことを思い出していた。

この夏、私は以前からお手伝いしている京都大学原子炉実験所の今中哲二助教の「飯舘村初期被曝評価プロジェクト」聞き取り調査に、調査員の一人として参加していた。残念だが仕事道具のカメラは車内に置いて、福島県飯舘村の自宅にお盆の一時帰宅をしている村民を一軒一軒訪ね、3月11日の地震と津波の際、どこで何をしていたか、避難するまで何を食べていたか、飲み水はどうしていたか、そんなことを聞きとって記録した。それらの情報と家の位置、空間線量率などから、個人の初期被曝量を推計する。本来なら国がやるべき調査を誰もやらないから、今中先生が始めたのだ。

キノコ採りの名人のおばあさんは、ひと抱え10キロもあるマイタケを採ったことや、原発事故の後も孫娘が「食べられなくてもいいから、キノコを見に行きたい」と言って困らせるのだと、泣き笑いのような顔をして話してくれた。

「帰りたいよ、帰りたいけど、帰ってどうすんの? 畑もでぎねぇ。キノコもフキもワラビも採れねぇ、そんなとこ」「若いもんが帰れないんだ。年寄りだけ帰ってどうすんの?」と逆に質問を浴びせられた。

昨夏は、お盆時期にはいくつも灯りがともったと言うが、今夏は夜になれば真っ暗だった。原発から40キロも離れたこの村でさえ、人々は帰還をあきらめ始めている。国が「責任を持って取り組みます」と言う除染が、いっこうに進まないのだ。いや、そもそも除染するなど無理なのだ。終わったのは県全体で2%に過ぎないと言う。除染にも、汚染水対策にも、補償にも、子どもたちの保養にも、そして廃炉にも、これからお金はいくらあっても足りないはずだ。日本で4番目に広いこの福島県という国土を、私たちは今まさに失おうとしているのだから。

◆マスコミが取り上げる反対意見は福島県民の声ばかり

オリンピックが東京に決まり、浮かれはしゃぐ人たちの映像を見ながら、これはどこの国の話だろうかと言葉を失った。それと同時に猛然と怒りがこみ上げてきた私は、とにかく思いつくことを片っ端から行動に移すことにした。

まず怒りの矛先は、まるで日本中の国民がもろ手を挙げてオリンピックを歓迎しているかのような報道しかしないマスコミへ向けた。ツイッターで見つけられる限りのテレビのニュース番組とそのキャスターのアカウント宛てに、質問ツイ―トを送ってみた。「マスメディアの皆様は、日頃から中立が大切だとおっしゃいます。ではなぜ、オリンピックを東京に招致することに少なからぬ国民が反対していることを伝えないのですか?」

7社ほど送ったが、返事が来たのは1社だった。「本日汚染水の問題も取り上げました」と言う。確かに、開催地が東京に決まった後で、急に取り上げ始めた番組もあった。しかし、開催地が決まる前に、東京のプラス面と同時にマイナス面も伝えてほしかった。決まってからでは遅い。そして取り上げる反対意見は、決まって福島県民の声だ。被災者以外にも、反対の人はたくさんいるはずだ。

◆ネット署名「東京五輪返上と、再投票を」

さて、次は国や都に対して、どんな方法で抗議しようかと考えていたところに、「署名してください」とネット署名が回って来た。タイトルは「東京五輪返上と、再投票を」。宛先は武田・日本オリンピック委員会(JOC)理事長、猪瀬東京都知事、安倍総理、下村文科相ほか。発信者は「2020東京オリンピック・パラリンピック開催取り下げを求める若者有志の会」だと言う。

およその内容は、「IOCの招致プレゼンテーションで安倍首相が行ったスピーチと質疑での説明は、日本の現状とはかけ離れており、世界を欺くものだ。世界の人々に正しく日本の現状を理解してもらい、納得してもらった上での開催でなければ、どんなに日本のメリットが大きくても、意味はない」「今、本当にこれでよいのかと声を上げなければ、違うと知りながら、現実とはかけ離れた首相の説明内容を容認することになる。このような姿勢を、私たちの子どもやこれから生まれてくる世代に、ひとりの人間として見せられるだろうか」「よって日本政府および東京都は、東京でのオリンピック開催の決定を返上し、再投票にかけるべきだ」というものだった。

私は感動した。この国の若者も捨てたものじゃない。それに比べて、大人たちは何をやっているのだ。

◆「原子力緊急事態宣言」はまだ解除されていない

放射能はいつになっても、決して人間にコントロールできるものではない。3・11直後、前政権の菅総理が枝野官房長官を通して「原子力緊急事態宣言」を発令したのを、皆様は覚えていらっしゃるだろうか。あれは、解除されていない。福島第二原発についてはすでに解除されているが、福島第一原発については、今も発令されたままなのだ。そんな国にオリンピックを招致するのは、狂気だ。
 
※写真撮影はいずれも筆者です。
<写真1>津波で流された墓石の山=福島県南相馬市で

 
<写真2>酪農家の長谷川健一さんの牛舎の壁には、今も原発事故の日付が記されている=福島県飯舘村で

 
<写真3>牛がいなくなった牛舎では、牛をつなぐフックにクモの糸が絡んでいた=福島県飯舘村で

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