п»ї 所得分布と家電・輸送機器の普及状況 『夜明け前のパキスタンから』第19回 | ニュース屋台村

所得分布と家電・輸送機器の普及状況
『夜明け前のパキスタンから』第19回

11月 17日 2016年 国際

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北見 創(きたみ・そう)

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日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

パキスタンでは公表されている統計が限られており、調査資料などの情報がまだ少ない。今回は統計局から入手したデータを基に、所得分布を集計し、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、携帯電話/パソコン、扇風機、エアコン、バイク、自動車の普及率を、世帯所得別に計算した。マーケティング、事業立案にお役立ていただければ幸いである。

◆月収15万円超の世帯は1%

2016年は消費財分野で日系企業進出が報じられるなど、日本企業によるパキスタン市場への前向きなアプローチが見られている。ジェトロへの相談状況、日系企業へのアンケート調査結果などから、今後も日本企業のパキスタン市場への取り組みは、緩やかに増えていくことが予想される。

日本企業は様々なビジネスのアイデアを持っている。しかし、初期段階で障害にぶつかる。パキスタンでは市場調査が難しい。確かな情報が少なく、インターネットで公開されている統計資料、調査資料は限られている。

そこで、今回はパキスタン統計局(PBS)より家計収支調査(HIES)2013/14年度の個票データ(1万7989世帯分)を取り寄せ、世帯の所得状況の調査を試みた。その一部を紹介したい。

本調査によると、パキスタンの世帯所得(2013/14年度時点)の平均は、月額3万999ルピー(1ルピー=約1円)である(注)。世帯の平均人数は6.3人。同年度中のパキスタンの推定人口は1億8619万人(出所:IMF)なので、国内の総世帯数は2955万世帯ほどと見込まれる。

図1は、パキスタンの各世帯の所得を筆者が再集計し、分布状況をグラフにしたものだ。この中で「富裕層」と呼ぶべき、世帯月収が15万ルピー(1ルピー=約1円)を超える世帯は、全体の1%しか存在しない。約30万世帯である。

パキスタン市場への参入を検討する際、「最初は1%の超富裕層をターゲットにせよ」とよく言われている。1%の富裕層に浸透した商品・サービスは、その他99%の憧れの対象となり、次第に上の層から普及が進むという寸法だ。

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「上流層」というべき、世帯月収6万~15万ルピーの世帯は、全体の7.8%を占める。約230万世帯である。次の世帯月収4万~6万ルピーの「中上流層」は12.0%で、355万世帯となっている。

その下の、大多数のBOP(ベース・オブ・ピラミッド)層は、世帯月収4万ルピー以下で暮らしている。世帯月収2万~4万ルピーの「中流層」は34.5%で、1020万世帯。世帯月収2万ルピー以下の「下層」世帯は44.6%。1318万世帯と最もボリュームが大きい。

◆余裕ある家庭しか冷蔵庫を持てない

続いて、三種の神器(テレビ、洗濯機、冷蔵庫)の普及状況を、世帯収入別に調べた。月収4万ルピーを超える世帯では、テレビ、洗濯機、冷蔵庫の普及率に差は少ない。所得が増えるにつれて普及率が上がり、60~95%となっている。

一方、全体の約8割を占める4万ルピー以下の世帯(中流層~下流層)では、購入する優先順位は、テレビ、洗濯機、冷蔵庫の順となっている。パキスタンでは電気代が高く、冷蔵庫を維持するには一定の所得が必要となる。

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◆8割のBOP層はエアコンを使えない

次に、携帯電話/パソコン、扇風機、エアコンを調べた。携帯電話については、現在は廉価なものも入手可能であるため、月収2万ルピーを超える世帯では90~100%の普及率となっている。2万ルピー以下の世帯においても、55~85%の普及率であり、大多数は保有している。

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扇風機もおおむね、携帯電話/パソコンと似たような状況だ。しかし、大量の電気を消費するエアコンは贅沢品だ。世帯月収5万ルピー以下の世帯では、普及率は10%以下となっている。8万~20万ルピーの世帯では、25~35%となっており、月収20万ルピーを超える世帯でも、普及率は50~65%にとどまっている。

◆自動車の普及はこれから

最後に、輸送機器の普及状況について。パキスタンのバイク生産台数は、2015/16年度で205万2049台と、200万台を突破した。世界的にも有数の市場となっている。バイクの普及状況は、月収との比例関係が顕著だ。
月収8万ルピーの世帯までは、収入が増えるにつれてバイクの普及率は高くなる。しかし、月収8万ルピーを超える世帯では、60~70%の普及率で横ばいとなる。全体の8割を占める月収4万ルピー以下の世帯では、まだバイクを保有していない世帯も多い。収入が増えるにつれ、今後もバイクの購入は進むだろう。

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自動車の普及率は、エアコンに似た曲線を描いている。月収6万ルピー以下の世帯では、普及率は10%に満たない。6万ルピー超~15万ルピー以下の上流層になると、20~40%へと増える。月収15万ルピー超の富裕層においても、普及率は40~65%にとどまっている。本格的な普及は、まだまだこれからだ。

(注)パキスタンでは世帯所得が年間10%ほど増加する。本稿での世帯所得データと2016年11月現在の所得分布には乖離がある。

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