п»ї 3億人の胃袋をつかむ各国の布石 『夜明け前のパキスタンから』第18回 | ニュース屋台村

3億人の胃袋をつかむ各国の布石
『夜明け前のパキスタンから』第18回

10月 14日 2016年 国際

LINEで送る
Pocket

北見 創(きたみ・そう)

%e3%80%8e%e5%a4%9c%e6%98%8e%e3%81%91%e5%89%8d%e3%81%ae%e3%83%91%e3%82%ad%e3%82%b9%e3%82%bf%e3%83%b3%e3%81%8b%e3%82%89%e3%80%8f%e5%8c%97%e8%a6%8b%e3%80%80%e5%89%b5%ef%bc%88%e3%81%8d%e3%81%9f%e3%81%bf
 日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

今年は味の素、森永乳業といった日本の大手食品メーカーが、パキスタンの大手企業グループと合弁を組むという発表があった。将来的に3億人を超すパキスタン人の「食」を開拓する布石が見られる。他国に目を向ければ、ベトナムはナマズ、オーストラリアは乳牛と、各国の持ち味を生かしながら、パキスタン市場へ取り組んでいる。

◆ICIが森永との合弁事業を発表

9月27日、化学大手ICIパキスタンは、森永乳業と合弁会社を立ち上げ、森永ブランドの調製粉乳の製造工場を設立するとプレス発表した。ICIパキスタンが51%を出資し、森永乳業と現地販社のユニブランズ社が残り49%を出資する。投資額は48億ルピー(1ルピー=約1円)を予定し、2018年にも工場は稼働する見込みだ。元々、ユニブランズが森永の粉ミルクの輸入販売をしていたが、14年からICIパキスタンの子会社が輸入販売権を買い取った。

ICIパキスタンは現在、4事業(ポリエステル短繊維、ソーダ灰、化学、ライフサイエンス)を展開。1944年に英国ICIの子会社として設立されたが、2012年に現地財閥のユヌス・ブラザーズが買収し、傘下に納めた。同財閥は、ラッキー・セメント社という国内最大手のセメント会社を中核に、近年、急速に成長している企業グループだ。

今年4月には、味の素が、同じく有力財閥のラクソン・グループと合弁会社を設立すると発表している。食品など、特にマーケティング、流通が重要となる消費財産業で、日本企業とパキスタン財閥のパートナーシップ締結が、今後も増える可能性がある。

◆ベトナム産ナマズが高級ホテルへ

国連の推計によると、パキスタンの人口は現在1億9000万人で、2050年までに3億1000万人に増加する見通し。現在、食品市場ではネスレ、ユニリーバ、ペプシコといった多国籍企業が優勢だが、パイはまだ拡大する余地が大きい。パキスタン人の胃袋をつかもうと、取り組みを始めているのは日本企業だけではない。

9月25日、アジア・オセアニアの24カ国/地域の貿易振興機関が加盟する「アジア貿易振興フォーラム(ATPF)」の第29回CEO会議がラホールで開催された。同会議で耳に挟んだ、各国のパキスタンに対する取り組みが興味深かった。
ベトナムはパキスタンへ、「パンガシウス」という魚の冷凍切り身を輸出している。パンガシウスはナマズの一種で、日本でもフィッシュフライなどの原料になっている。あっさりした白身で、おいしい魚だ。

ベトナム商業省貿易促進庁(VIETRADE)は、カラチ、ラホール、イスラマバードといった主要都市の他、ハイデラバードなど中堅都市でも、この魚の売り込みを続けている。その結果、カラチの大手スーパーの多くでパンガシウスが販売されるようになっており、パキスタンの高級ホテル内レストランでも、一般的に使われるようになっている。

パキスタンでも、海に面しているシンド州やバロチスタン州では魚(タチウオ、イシモチ、シロギスなど)は捕れるのだが、コールドチェーンの開発が遅れており、新鮮で衛生状態の良い魚は入手が難しい。それに比べるとベトナム産のパンガシウスは安全でおいしく、値段も手ごろなので、富裕層を中心に購入が進むのだろう。

◆豪州は畜産業を育成

オーストラリア貿易投資委員会(AUSTRADE)は、パキスタンの畜産に目をつけている。パキスタンは知られざる畜産大国で、水牛の飼養頭数は世界2位、ロバ世界3位、ヤギ4位、牛7位、ラクダ7位、鶏9位、羊9位と、多くの家畜を保有している。畜産はGDP全体の15%を占める。

パキスタンの乳業は、個人農家が50~100頭の乳牛を飼育して行っているものが大半で、搾乳(さくにゅう)施設やコールドチェーンの近代化も遅れている。近年、大手企業が数千頭の農場を造成し、近代的な施設を設置して、大規模事業として着手する計画が相次いでいる。ニシャットやサファイア、インターループなど、これまで農業ビジネスに縁のなかった繊維系企業グループが、次々に乳業市場へ参入している。農家から1リットルあたり50~56ルピーで買い取られた牛乳は、パッキングされ、小売価格120ルピーで売られており、利幅の大きいビジネスだ。

しかし、パキスタンの乳牛は搾乳量が乏しく、乳の栄養成分も良くなかった。AUSTRADEが2006年に主催した視察ミッションで、その問題点に気づいたオーストラリア農村輸出社(AUSTREX)は、07年にホルスタインの雌牛2100頭をパキスタンへ輸出した。現在では交配によって、パキスタンの環境に適したオーストラリア系乳牛が10万頭飼養されている。

乳牛以外に、オーストラリア産のアンガスなど、肉牛種の輸入ビジネスも活況になっている。また、土壌の改善(塩分が多いため)、牧草の品種改良など、オーストラリアが持つ畜産関連技術が、パキスタンへ導入されつつある。

本稿では、ベトナムとオーストラリアの事例を紹介したが、他にも様々な国が、各国の持つ農林水産・食品、外食ブランドをパキスタンに持ち込み、事業化に取り組んでいる。食事を何よりの楽しみとするパキスタン人の、舌と胃袋をどう満足させるか。今後、一層熾烈(しれつ)な競争が繰り広げられるに違いない。

コメント

コメントを残す