п»ї モンゴルにも及ばず 報道の自由 日本はアジア5位『山田厚史の地球は丸くない』第67回 | ニュース屋台村

モンゴルにも及ばず 報道の自由 日本はアジア5位
『山田厚史の地球は丸くない』第67回

4月 22日 2016年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

国境なき記者団が毎年発表する「報道の自由度ランキング」で、2016年の日本は順位を11位落として72位に後退した。秘密保護法の施行、政権に批判的な放送に電波停止をちらつかせけん制する政府、自主規制ムードが広がる報道現場。狭まる日本の報道の自由に、海外から警鐘が発せられた。

◆安倍政権の登場で際立つ急落ぶり

報道の自由度が一番高いのは、今年もフィンランドだった。7年連続で首位。オランダ、ノルウェー、デンマークとベスト10の常連が続く。ニュージーランド、コスタリカ、スイス、スウェーデン、アイルランド、ジャマイカまでがトップ10だ。

G7諸国を見ると、ドイツが16位、カナダ18位、イギリス38位、アメリカ41位、フランス45位。77位のイタリアだけが日本を下回った。世界を仕切る大国が必ずしも上位ではない。中国は176位でビリから5番目、ロシアは148位。アジアの先端国であるシンガポールは154位で、ロシア以下だ。

そのアジアで、報道の現状どうなのか。台湾の51位がトップだ。モンゴルが60位、香港69位、韓国70位で、アジアで5番目だ。日本はアジアで先頭を走る民主主義国ではなかったのか。東チモールが99位、カンボジア128位、インドネシア130位、インド133位、タイ136位、フィリピン138位、ミャンマー143位、マレーシア145位、パキスタン147位、ベトナム175位、となった。

日本の急落ぶりは世界でも際立っている。民主党が政権を取っていた2011年は11位だった。翌年22位に下がり、自民党政権が復活した13年は53位に。その後は59位(14年)、61位(15年)、71位(16年)と転げ落ちた。5年で60位も下げた先進国は珍しい。安倍政権の登場と無関係ではないだろう。

第一次安倍政権は2006年9月に発足したが、翌年のランキングを14位下げ51位に後退している。翌年に退陣したことで順位は徐々に上がり、菅政権でベスト10一歩手前まで来たが、安倍政権の再登場で逆流した。

民主党時代に「報道の自由度」が上昇したのは、「記者会見の開放」だった。政府や議会・政党が行っている定例の記者会見は、記者クラブの主催であることがほとんどだった。日本新聞協会加盟の新聞社、大手の通信社、NHK、民放などマスメディアの記者に限定されていた。個人で仕事をするフリーライターや雑誌、インターネットメディアの出席は認めない、という慣行が続いていた。

大手メディアが会見情報を独占する慣行が政権交代で見直され、フリーや外国人の記者が参加しやすくなったこと。記者クラブを媒介に権力とメディアが裏で癒着することが弱まる、とみられ、「報道の自由度」は高くなった、と判断された。

「一歩前進」とみられた日本の報道の自由は、自民党の政権復帰で「二歩後退」となった。

◆報道の自由をけん制する政権の姿勢

日本の報道の自由が悪化した原因は大きく分けると三つある。

第一は、政府の姿勢だ。安倍政権は徹底した「マスコミ対策」に力を注いでいる。メディアがどう報じたかを執拗(しつよう)にチェックし、「権力を監視するメディアが、権力から監視される」という状況をつくった。「政府が右ということを左とは言えない」と公言するような人物をNHK会長に起用されたことが象徴的だ。「偏向報道が続けば電波停止もあり得る」と国会で発言する政治家が総務相におさまっている。政権に復帰した自民党はこれまでにもましてメディアに強圧的態度を取る一方で、新聞・放送局のトップや編集幹部と頻繁に会食し、メディアを上層部から調略にかかっている。

第二は、マスメディアが分断されたことだ。政府の与党・野党と見まがうほどに新聞・放送の論調が分かれるようになった。読売・産経・NHKが政府寄りの与党、朝日・毎日・東京が、どちらかといえば野党に見える。系列の民放はおおむね新聞社の論調に沿った作り方である。インターネットの普及と広告不況で経営が苦しいメディア経営にとって、与党化することは財界を通じた広告収入や、政府広報予算の還流などがある。取材記者も官邸や省庁からリークネタを得やすい。分断は、「悪貨が良貨を駆逐する」という現象をメディアに起こし、権力監視を弱体させた。

第三は、政治の右傾化にともない、メディアを狙い撃ちする「右翼運動」が資金力と暴力性を秘めて登場してきたことだ。「放送法順守を求める視聴者の会」という団体が、新聞の全面広告を出し、TBSとニュース番組を担当する岸井成格(きしい・しげただ)キャスターを「偏向」と攻撃した。

さらに公開質問状でTBSのスポンサーに圧力をかけることを示唆し、TBSが「スポンサーへの圧力は許されない」と反論した。

放送局への圧力の前に展開されたのが「朝日新聞叩き」だった。慰安婦報道で朝日が誤りを犯したことをきっかけに、販売店や本社に様々な攻撃が起きた。その一つが、広告主やテナントへの圧力だった。朝日が大阪・中之島に計画しているタワービルの入居者(予定者)に対し「御社は慰安婦タワーに入るのか。入るなら慰安婦問題にどんな考えなのか」という問い合わせが組織的に行われた。こうした「いやがらせ」や圧力が、朝日の報道姿勢を後退させた一因でもある。

背後には報道の自由をけん制する政権の姿勢がある。「イヤな時代になったな」では済まない時代状況である。

One response so far

  • 関 淑子 より:

    日本のジャーナリストの覚悟が不足しているのでしょう。

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