п»ї 今こそ日本再生を真剣に考えよう『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第18回 | ニュース屋台村

今こそ日本再生を真剣に考えよう
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第18回

3月 28日 2014年 経済

LINEで送る
Pocket

小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住16年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

タイ在住16年。最大の親日国であるタイに暮らしていても感じることは、最近の日本の国力の低下である。既に10年くらい前から電機製品の主役はサムスンやLGなどの韓国に取って代わられていたが、音楽や映画などでも日本は韓国の後塵(こうじん)を拝している。また、昨年はタイを訪れる外国訪問客のトップの座は中国となり、街には中国人観光客があふれ、買物にいそしんでいる。

一方、外交面では靖国神社参拝問題や従軍慰安婦問題などで中国・韓国の非難を浴び続け、米国からも距離を置かれているような気がする。今週に入り、タイの新聞には、1週間訪中をしているオバマ・アメリカ大統領夫人の写真が連日掲載されている。

最近の日本人はこうした世界の現実から目を背け、内向きになっているのではないかと私は危惧(きぐ)している。そしてその姿勢が日本の考え方を世界の常識から少しずつ乖離(かいり)させてきている危険性を感じている。日本という国家が今何をなすべきか、世界の常識に照らしあわせて考えてみたい。

◆「敗戦国」「戦争加害者」である日本

そもそも国家とは何のために存在するのであろうか? 国家の在り方を議論するだけで優に1冊の本は書けてしまうが、古くはアダム・スミスの国家論の中では「国家ならびに植民地財産の保護」「土木などインフラ整備」「司法」の三つが挙げられている。

後世になると自由放任経済の誤謬(ごびゅう)が指摘され、国家による一定程度の経済介入が必要とされ、経済の安定と富の再分配、更にケインズなどに代表される積極的な財政介入なども国の役割とされるようになる。

しかし、古今東西を問わず最も重要な国家の役割は「外敵の侵入から守り、国民の生命と国家の財産を守ること」なのである。ところが日本の政府広報を見ても、こうしたことは書かれていない。

また、日本では金科玉条のごとく奉られている「日本国憲法」を読むと、その第1条は天皇主権の否定であり、第2条は戦争放棄である。まともに国家の役割としての「国民・財産の保護」が規定されていないのである。

こう書くと一部の政治家たちからは「だからこそ今我々は憲法改正をし、軍隊の保持を目指しているのだ」と言われるであろう。だが、ちょっと待ってほしい。なぜ日本はまともな国家の役割が明言されていないのであろうか? 

それは日本が第2次世界大戦において「加害国」であり、かつ「敗戦国」である証しなのである。近年の日本のテレビや雑誌を見ていると気になることがある。第2次大戦において日本は空襲や原爆による「被害者」であるかのような論調が見えるからである。

中国が喧伝(けんでん)するような南京大虐殺があったかどうかはわからないが、第2次大戦によって2千万人のアジアの人が亡くなったのである。そして第2次大戦の「敗戦国」となった日本は「加害者」として断罪されたのである。これは世界の共通認識であり、この認識を否定することは同盟国であるアメリカを含めて世界中を敵にまわすこととなる。

多民族、多宗教で構成されている世界で秩序を保つための道具は、武力と論理になる。一度世界中で決めた日本の「敗戦国」「戦争加害者」という論理が否定されたら、同盟国アメリカでも日本を攻撃するであろう。日本が世界の中で協調して生きていくために唯一出来ることは、上述の世界の共通認識を認めた上で、戦後とってきた日本の施策を宣伝し、世界の中での日本の地位を高めていく地道な努力しかないのである。

◆日本はアメリカにとって価値ある国か

さて、国家の役割の議論に戻ろう。国家の役割が「国民の財産の保護」にあるとしたら、日本は戦後の敗戦国という位置づけの中でアメリカの積極的な指示を受けて「自衛隊」という世界でも有数な軍隊を保持し得るところまで来た。

一方で、日本は世界の秩序をつくり上げるためのもう一方の武器である「論理」をうまく使おうとしない。島国で同質国家である日本は古来より「論理」を使う必要性が乏しく、この訓練がなされていない。

しかし「外交とは論理を使った戦争」なのである。中国や韓国から論理を使った外交戦争を仕掛けられた日本は何ら防戦するわけでもなく、一方的に傷を広げている。更に悪いことに、戦後の出発点となった「敗戦加害国」としての日本の立場を否定するような安倍政権の取り巻きの発言が続き、アメリカからも怒りを買う有様である。中国・韓国からの外交攻撃で日本は世界で孤立する危険性が出てきている。

3番目の日本の非常識は、世界中の国が自国の利害関係を考えて動いていることをわかっていないことであろう。衛藤晟一首相補佐官がYouTubeへの投稿動画の中で安倍首相の靖国参拝に対するアメリカの対応について「むしろ我々の方が失望した。米国はなぜ同盟国の日本を大事にしないのか」と発言した。

政府高官がこんな安易な国家観の中で政権運営をしているのかと思うと、うしろ寒くなる。日本はアメリカの植民地ではないのだから、独力で生き方を考えなくてはならない。日本が今しなくてはならないことは、アメリカが同盟国として日本を大事にするだけの価値をつくり出すことである。

2000年までの頃の日本は、それでもアメリカにとって価値のある国であった。その価値とは「製造業における技術保持国」「世界一の資金余剰国としてアメリカへの資金補填」「中国・ロシアに対しての軍事要塞」の三つである。

しかし、製造業の技術はせっせと中国・韓国に提供し、今や日本の技術力の優位性はほとんどない。外貨準備高世界一の地位も中国に譲り渡し、今やアメリカは中国の顔色を気にする。日本の軍事的価値についても沖縄の基地問題に代表されるように日本は全く協力的ではない。更に最近の軍事技術の発展によって対中国・対ロシアへの前線基地は沖縄を引き払い、フィリピンに後退しても影響ないという話も聞く。

こうして見てくると、日本はアメリカにとって価値の低い国に成り下がってしまったのである。それがゆえに最近のオバマ大統領は夫人を中国に派遣するなど日本を素通りして、せっせと中国との直接交渉を行っているのである。

こんなタイミングの悪い時になぜ日本政府は尖閣問題、竹島問題、靖国参拝などと、他国を刺激することを立て続けにやろうとするのであろうか? 日本が他国との外交戦争を仕掛けるのであれば、国力の強い時に味方を多くつけ、陣地を広げていくのが最良であろう。

それが世界のやり方である。歴史を振り返ると第1次大戦以降、日本はアメリカと極めて親密な関係を築いていた。しかし、中国の行った反日キャンペーンがアメリカで火を噴き、日本は孤立し第2次大戦へと突っ走っていったのである。

私は政治の専門家ではない。靖国神社参拝問題や従軍慰安婦問題など何が正しいのかを議論するつもりはない。私が強調したいことは、日本が世界の現実を直視し、世界標準の考え方を受け入れることである。今まで見てきたように、世界の中で日本の地位を高めていくためには、まず経済力や技術力を立て直し、真にアメリカに価値ある同盟国と認められるように努力していくことである。

コメント

コメントを残す