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舛添都知事の「肝いり」障がい者雇用政策の向かう先
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第81回

6月 17日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆3つの施策検証

政治資金の公私混同疑惑で釈明や陳謝に追われた舛添要一・東京都知事は、政治家は身を正すべきだという世論の前に結局は辞職に追い込まれた。しかし、新たな知事を選ぶ選挙の費用という公費支出にも納得いかない都民も多い。

政治資金の使途については、私自身も問題の深刻さを指摘しつつ、関係者からは厚労相時代の仕事を評価する声もある。特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所の上昌弘(かみ・まさひろ)理事長は、医師不足解消に向けて既得権者の医師会や厚労省と対峙(たいじ)しながら取り組んだ手腕を高く評価し、ネットメディアで主張を展開している。

厚労相時代の行動を実績とするならば、東京都の政策でも反映されているはずだ、と考えて検証してみたのが、私の領域である障がい者雇用対策。「舛添知事肝いり」(東京都担当者)の2016年度の新しい障がい者雇用政策が以下の三つである。

◆破格の給付金政策

一つ目の「障害者安定雇用奨励事業」はこの分野での「目玉事業」で、有期雇用により不安定な障がい者の雇用形態を「無期」にすることで、確実な就労定着と生活の安定が目的とし、有期から無期にする企業は1件につき約120万円が支給される。国は2パーセントの法定雇用率の設定で障がい者を企業が雇い入れることを促進してはいるが、申告する毎年6月までに雇用率を達成させる数字合わせや、定着支援が行われないなどの不誠実な態度も散見され、「企業は長い目で面倒を見られない」(東京都内の中規模建設企業担当者)との本音も聞く。この問題点に斬り込み、給付金制度で一気に定着させてしまおうというのがこの施策。1人あたりの給付額120万円は破格だ。

既存の制度では、障がい者雇用に向けてトイレの改修やスロープの設置など環境整備にかかる助成金はあるものの、雇用形態の転換で使用目的が限定されない給付金は、企業にとってはありがたいはずで、同一年度の上限は10人だから、10人の転換もしくは無期雇用で企業は1200万円を得ることになる。

二つ目の「職場内障害者サポーター事業」は、企業内が行政や関係機関に頼らず自立して障がい者支援を行うために、企業の人事担当者や障がい者と一緒に働く職場の社員を対象に「職場内障害者サポーター養成講座」を実施。この講座修了者を「職場内障害者サポーター」として、職場の障がい者のサポートを6か月実施すると企業に奨励金を支給するというものだ。

最後の三つ目の「中小企業障害者雇用応援連携事業」は、障がい者雇用に精通した支援員が、国と連携しながら障がい者雇用に向けて中小企業を個別訪問し企業ニーズに応じた情報提供や支援メニューの提案を行う。年間の支援対象企業として300社を見込む。この二つ目と三つ目は、東京都予算で計上されているもの、実際には公益財団法人、東京しごと財団に委託して実施している。さらに「職場内サポーター事業」は人材派遣大手のパソナが運営を請け負っている。

◆「当たり前」目指したい

舛添知事「肝いり」の三つの施策は、「安定雇用のカンフル剤」であり、企業内の理解を広げる「人材育成」であり、障がい者雇用の覚醒を目指す「中小企業連携」と要約され、必要な個所への取り組みで、どれも東京都らしいスピード感あふれる早期の成果が期待できる内容とも言える(意地悪な言い方をすれば、失敗しにくい施策ともとれる)。

今後は4月施行の障害者差別解消法の浸透とともに、障がい者雇用の「当たり前」を目指したい。この法律のポイントである「合理的配慮」を社会で確立する過程には当事者と運営側とで現場での葛藤も出てくるだろう。それは不完全な感情を持つわれわれ人間が織りなすことだから当然ではある。

この社会変革の過渡期の中で、為政者は見えない部分に光をあて、問題に向き合い、課題を解消していく役割が求められる。だから、それを判断する為政者の政治活動にうそや闇があってはならないのである。いずれにせよ始まった施策は企業も当事者もうまく活用し、東京モデルになるのか、関係者はその所感の声を上げてほしい。

関連記事は以下です。

当事者の声を聴けない為政者たち
https://www.newsyataimura.com/?p=5286

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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