中野靖識(なかの・やすし)
株式会社船井総合研究所上席コンサルタント。メーカーから小売業まで幅広いコンサルティングフィールドを持つ。一般消費者向けの商材を扱う企業の現場レベルでの具体的な販売手法の提案を得意とする。
2016年(平成28年)12月現在の国内人口は1億2692万人で、緩やかな減少傾向が続いている中、日本人の平均寿命は、ついに80歳を超え、男性80.79年、女性87.05年(厚生労働省の平成27年簡易生命表の概況より)になった。
消費を拡大してきた世代の現役卒業と同時に、定年後人生20年時代が鮮明になり、生活防衛意識が高まって節約志向が拡大することから、日本国内の流通業にとっては一般消費財の価格を上げにくい環境が続くものと考えられる。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、平均世帯所得は緩やかな減少傾向が続いていたため、昨年多少回復したとはいえ、ピークであった1994年(平成6年)の平均所得金額664.2万円を超えていない。
◆「20兆円以上に成長」が見込まれる電子商取引
一方で、加齢に伴い行動範囲が狭くなると、コンビニエンスストアや宅配を前提とした電子商取引が強くなる傾向が高まるが、ともに10兆円を超える市場規模に成長している。
電子商取引に関しては、シンクタンクや経済学者などが将来予測を発表しているが、共通することは、将来的には20兆円以上に成長するという点である。
同業界では低価格と利便性が並立しているが、宅配を前提とした小口配送を含め、拡大するコストをどのように吸収するかが課題である。
IOT(すべてのモノがインターネットにつながる)の振興によって自動倉庫を含め、多くのバックヤード作業が軽減されてはいるものの、最終消費者へは宅配という最も労働集約的な要素が残っている。
昨今のドライバー不足は深刻であり、職業としての環境改善や処遇改善を進めればコストアップに直結するため、20兆円分の宅配という巨大なサービスをいかにして合理的に維持するのかということに対する対策が期待されている。
電子商取引に関しては低価格が売り物の一つであるが、コンビニエンスストアに関しては原則定価販売なので、安く売っているわけではない。このことから、昨今の消費者は、近くて便利、小ロット、気軽という利便性は、距離のある低価格に勝るという認識が強いということになりそうだ。
また、消費全体としては節約志向が高まって低価格購買をしようとする傍らで、生活利便性コストを容認するという状況が見て取れる。
例えば、家事代行サービスがビジネスとして成長しつつあるが、これはかつての富裕層向けサービスである家政婦と同質で、本来は自分自身でできることである。
女性の社会進出や、人口全体の高齢化に伴い「やむを得ず利用」する層は一定数存在しているとは思われるが、自分自身の生活が楽になるという領域にはコストを支払う意識があるということであろう。
国としてもこの領域については様々な検討を進めているが、利用者負担軽減についての議論も進められている様子である。
◆「誰かの既存市場を奪取して成長する」
ここまでに見てきた消費市場の主な動きから、内需を戦場とした戦う事業者は「誰かの既存市場を奪取して成長する」ということを意識せざるを得ないということである。
まだそれほどのダメージを感じていない方も多いが、それは人口が減っても世帯数が増加しているからに他ならない。
つまり、個人消費は減っても世帯消費は増加している限り、人口減少ダメージは顕在化しにくいということである。
転換点は人口と世帯数ダブル減が始まる2019年。分岐点に勝つためには今から備えをしておきたいものである。
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