トランプが世界を壊す?
そして巻き込まれる日本
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第316回

4月 24日 2026年 国際

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住27年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

最近のドナルド・トランプ米国大統領の狂気は、私の想像をはるかに超えている。今年初めのベネズエラ強襲作戦によるマドゥロ大統領拘束。独立国の大統領を公然と米国に連れ出したのである。これには度肝を抜かれた。これまで先人たちが地道に作り上げてきた「国際法」による世界の秩序体系が揺らいだことを感じた。

しかし歴史を振り返れば、私たちはこうした事件を何度か経験している。米国のブッシュ大統領によるイラク侵攻(イラク戦争)や、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵略などは大国による力の横暴を感じさせる事件であった。

だが今回のイラン攻撃は、私たち日本人の目から見れば「度が過ぎている」行為である。米国はイランとの間で核開発の中止などを巡って外交交渉を行っていた。その交渉の最中(さなか)の2月28日、最高指導者ハメネイ師を含めたイランの政権中枢の高官ら40人余りを爆撃によって殺害した。「だまし討ち」である。イランに対する宣戦布告もせず、米国議会の承認も得ていない。この世界から「法も秩序も消滅」した瞬間であった。

これ以降の事態の推移はすでに多くのメディアで伝えられている通りであるが、トランプは「イランに対する威圧と前言翻しの連続」で今や何も信じられない状況である。トランプはいったい何を考えているのであろうか? また、こうした中で日本はどのように対処したらよいのであろうか?

◆トランプ2期目の政策目標

私は2025年8、9月に米国を訪問。その時の見聞録を「ニュース屋台村」に4回にわたって寄稿した。25年10月24日付の拙稿第303回では「暴走を続けるトランプ」として、彼の施策の解説を試みた。

25年1月に2度目の大統領に返り咲いたトランプは、ご承知のように矢継ぎ早に「大統領令」を連発し新たな方針や施策を打ち出した。不法移民の強制送還▽連邦政府職員の大量解雇▽大学への教育補助金の大幅カット▽ロシアの肩を持ちウクライナのゼレンスキー大統領いじめ▽日本や欧州に極端な防衛費増額を要求▽高額な輸入関税を提示して各国に貿易不均衡の早期解消を要求――。

日本のメディアは「トランプの方針や施策に連続性を感じられない」としてトランプを「狂人扱い」した。確かに日本の報道だけ見ていると「彼がどのような思想の下に施策を繰り出しているのか?」よくわからなかった。この理解し難いトランプの政策目標について考えてみたのである。

日本のマスコミはトランプを単なる「狂人」として扱ったが、当時の彼には明確な政策目標があった。ジェトロ(日本貿易振興機構)・ニューヨーク事務所がまとめた資料「米国の通商政策と貿易投資」の中に「トランプ大統領の米国第一の優先事項(ホワイトハウス発表)」とする簡潔なペーパーがある。それによると、トランプ大統領の基本施策は以下の4つになる(筆者の見解も一部挿入している)。

(1)「米国を再び安全に」=不法移民の取り締まりと強制送還、およびフェンタニルなど薬物の取り締まりを通して米国のコミュニティーを守る
(2)「米国を再び手ごろな価格でエネルギー大国に」=データセンターなど急増する電力需要に対応するため、エネルギー緊急事態を宣言し炭素エネルギーを含めたすべての米国資源を有効活用する
(3)「既得権益の一掃」=政府官僚機構を改革して官僚機構が持っていた既得権益を民間に戻す。小さな政府により効率的な国造りを目指す
(4)「米国の価値の復活」=急進的なジェンダーレス主義をやめ、古典的な世界観を復活させる。また経済的には中国など一部の他国に搾取(さくしゅ)されている現状を改め、米国を再び豊かな国にする

トランプの政策目標はこの4つの優先事項に収斂(しゅうれん)するようである。そして、これらの優先事項を見るとわかることがある。トランプの政策目標はあくまでも「米国第一主義」(識者の中には「トランプ第一主義」と揶揄〈やゆ〉する人もいる)で貫かれている。米国以外の国に何が起こっても構わないのである。具体的に見てみよう。

第1の「米国を安全にするために」では、①不法移民の強制送還②フェンタニルなど薬物禁止とこれらの輸入元であるカナダやメキシコに対しての懲罰的関税の設定③ウクライナ戦争やガザ紛争への解決干渉などを実行。2番目のエネルギー政策については、①風力や太陽光などの再エネ発電やEV(電気自動車)への補助金廃止②脱炭素を目指すパリ協定からの離脱。3番目は、米EV大手テスラの共同創設者であるイーロン・マスクが主導した連邦政府職員の大量解雇とUSAID(米国際開発局)の解体が記憶に新しい。第4の方針に対しては、①連邦政府の「多様性・公平性・包摂性(DEI)」政策にかかわる事業の廃止②「DEI」を標榜(ひょうぼう)するハーバード大学などへの補助金の停止③相互関税などによる国際貿易収支の改善④欧州・日本への防衛費の増額要求――などが個別施策として展開されている。

拙稿では、トランプの施策について以上のように解説した。

◆攻撃的姿勢と仮想敵国・中国

ところが、これらの優先事項はあくまでも「表向き」のものであったようだ。トランプが打ち出した貿易関税政策仕組みや「国家安全保障戦略」(25年12月)及び「国家防衛戦略」(26年1月)を読み解くと、さらに隠された彼の政策目標が見えてくる。それはトランプが政治的にも、経済的にも、軍事的にも「米国が圧倒的な支配的地位を確保する」ことを目指していることである。「米国第一主義のためには他国の面倒を見ない」といった消極的な姿勢ではなく、「徹底的に競合国をつぶしにかかかる」といった攻撃的な姿勢である。

「国家安全保障戦略」などの中では明確に仮想敵国が記載されている。まず、最大の仮想敵国は中国である。経済的にも軍事的にも中国は米国を追い上げてきている。特に「工業品の安価な製造能力」と「レアアースの調達能力」について、米国は中国に比べ劣っている。中国とは「まずは外交努力によって均衡を保つ」(国家防衛戦略)としているが、最悪、武力衝突も匂わせている。

もし武力衝突が起これば、ロシア・ウクライナ戦争でもわかるように、4~5年にわたる戦争も覚悟しなければならない。そしてその戦争を乗り切るためには、米国内に確固たる製造業が必要になる。これが米国には無い。このためトランプは大統領就任以来、関税政策を使って「米国への製造業誘致」を積極的に図っている。最新の工業品や武器に使われるレアアースについても、米国は中国に比べ大きく劣勢にある。

4400万トンのレアアース埋蔵量を誇る中国に対して米国はわずか190万トン。しかし、米国には起死回生の一手がある。ブラジルには2100万トンのレアアースが眠っているのである。昨年末以来トランプが「ウェスト・ハンプシャー=西半球」(南北アメリカ)を米国のテリトリーと位置付けたことに符合する。今年初めのベネズエラ攻撃は、このはじめの一歩であった。

さらに、米国が中国に比べて優位にあるのが「AI(人工知能)やバイオなどの最先端技術の知識とノウハウ」である。この面でも中国は米国を急追しているが、これは米国に滞在する中国人研究者や中国人留学生が中国に情報が流出させている、とトランプ政権は考えている節がある。このため中国人留学生の入国制限やハーバード大学への補助金縮小などによって、中国への技術流出を回避しようとしている。

◆ロシア、イラン、北朝鮮も脅威に位置づけ

米国の「国家防衛戦略」の中で2番目の仮想敵国と位置づけられているのがロシアである。ロシアの核開発能力、水中探査技術、宇宙航空技術、サイバー攻撃能力は米国をしのぐと分析している。現在ロシアはウクライナとの戦争に忙しいが、いずれ米国はロシアをたたくことになるだろう。

中ロのこの2か国以外で米国が警戒を強めている国が、イランと北朝鮮である。両国とも核兵器と大陸間弾道ミサイルを保有・製造しており、いつ何時でも米国にこれらを使った攻撃を仕掛ける危険性がある。「米国第一主義」を謳(うた)うトランプにとって「米国本土に直接攻撃が仕掛けられる」脅威は許しがたいものに違いない。

昨年末に発刊された「国家安全保障戦略」の中では「米国は今や世界一のエネルギー大国になり、中東地域の重要性は低いものになった」との記述がある。「中東地域の重要性が低下したならば、米国は中東地域への関与をやめるに違いない」と私は勝手に理解していた。

ところが、トランプの考え方は真逆であったようだ。「イランを攻撃しても、米国への被害は最小限に抑えられる」と、トランプは考えたのかもしれない。米国の安全のためには「今このタイミングでイランをたたく」ほうがトランプにとって得策なのであろう。攻撃を受けているイランは言うに及ばず、トランプは世界中の国々の迷惑などまったく気にしてもいない。

繰り返しになるが、今年に入ってからのトランプの狂気は度が過ぎている。昨年までのトランプは、従来の国家観や世界観を見事(?)に覆しながらも、米国第一主義の論理に則(のっと)った政策を展開していた。2021年1月に第1次政権を追われたトランプは、在野の身にあって次期大統領職の施策について取り巻きとともに検討していた。だからこそ25年に大統領に返り咲いた後、彼は矢継ぎ早に大統領令を公布できたのである。

ところが第2次政権をスタートさせたトランプは、日を追って過激化していく。何が変わってしまったのであろうか? トランプに関する書籍や雑誌などを読むと、第2次政権では、トランプはキャロライン・レビット報道官ら一部の側近からしか情報を仕入れていないようである。

もちろん私には真偽のほどはわからない。しかし人は権力を持てば持つほど「裸の王様」になっていく。人間が誰しも持つ「正常性バイアス」によって、自分が好まない意見には耳を貸さない。またSNSの多用によって他者と直接意見を戦わせることも少なくなる。最近のトランプには正しい情報が伝わっていないようである。

このため、イラン攻撃による弊害については全く予想しなかったに違いない。またSNSの特性ともいうべき「エコーチェンバー現象(自分に近い意見だけがSNSに表示され、意見がより先鋭化する)」によって過激な行動に傾いていくのである。

◆迫る?日本にとって最悪のシナリオ

トランプは「楽観的な情勢判断と過激な行動判断」に取りつかれてしまった。正しい判断ができない人間が、世界最強の軍備を思うように取り扱えるのである。こんな危険な状況はこれまでなかった。さらに悪いことに、世界を見渡せばトランプと同じような独裁者たちが跋扈(ばっこ)している。中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記などである。さすがに米国の軍事力を計算に入れて、すぐにこれらの指導者たちが過激な行動を起こすことはないだろう。しかし、いったん事が起これば別の話である。

それにしても一番怖いのは米国のトランプである。手元には世界最強の軍隊がついている。抑止力が働かない。そして、トランプの次の標的になるのは北朝鮮の可能性が高い、と私は思っている。米国にとって北朝鮮は軍事的脅威にはなっているが、この地域の混乱が米国に直接被害をもたらす可能性は少ない。トランプがイラン攻撃を始めたのと極めて状況は近い。

しかし、このシナリオは日本にとっては最悪である。米国は否応なしに日本を戦争の前面に押し出す。北朝鮮の軍事力は私たちが考える以上に強力である可能性が高い。核兵器や各種ミサイルを持ち、すでに実験済みである。ドローンの生産能力も高く、ロシア・ウクライナ戦争でも導入されている。また、北朝鮮の兵士たちはこの戦争で実戦を経験している。

日本の政府関係者は今こそ的確な情報収集に努め、冷静な判断が求められる。日本の安全は高市首相の双肩にかかっている。(文中一部敬称略)

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り
第303回「暴走続けるトランプ―米国出張記録(その1)」(2025年10月24日付)
https://www.newsyataimura.com/ozawa-184/#more-22730

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