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日本でも話題の格安EV「宏光MINI EV」
『中国のものづくり事情』第28回

1月 27日 2021年 経済

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Factory Network Asia Group

タイと中国を中心に日系・ローカル製造業向けのビジネスマッチングサービスを提供。タイと中国でものづくり商談会の開催や製造業向けフリーペーパー「FNAマガジン」を発行している。

中国汽車工業協会(CAAM)によると、2020年11月の自動車販売台数は前年同月比7.6%増の277万台で、8カ月連続のプラスとなった。電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)がカテゴライズされる新エネルギー車も好調で、104.9%増の20万台。うち16.7万がEVで100.5%増だった。11月までの累計についても新エネルギー車は3.9%増の110.9万台で、EVは4.4%増の89.4万台だった。

その好調なEV市場の波に乗って販売台数を伸ばしている車種がある。米ゼネラル・モーターズ(GM)、上海汽車(SAIC)、五菱集団の3社による合弁メーカー「上汽通用五菱汽車」が20年7月末に発売した「宏光MINI EV」だ。冷房なしで航続距離120キロの最安モデルが2万8800元(約46万円)と驚きの価格で、日本でもメディアやSNSで話題になっている。

乗用車市場信息聯席会(CPCA)によると、同車種の11月の販売台数は3万3094台で、新エネルギー車のカテゴリーで1位だった。1月からの累計では7万7000台を超え、1位のテスラを猛烈に追い上げている。12月の販売台数は3万5388台で、発売からわずか5カ月で12万台を超えた。

◆補助金に頼ることなく低価格を実現

宏光MINI EVはその名の通り、非常にコンパクトだ。全幅は1.4メートルで日本の軽自動車とほとんど変わらないものの、全長は2.9メートルで軽自動車より50センチも短い。それでも4人分の席を確保している。トランクはないに等しいが、後部座席を倒せばある程度の荷物は積める構造になっている。

搭載できる電池は小さいが、軽量化を追求しているので、ロースペックモデルでも航続距離は120キロを実現している。モデルは3種類あり、冷房なしの最安モデルに加え、冷房付きが2車種。航続距離120キロのモデルが3万2800元(約52万円)で、航続距離170キロのモデルが3万8800元(約62万円)だ。フルスペックでも一般的なEVよりはるかに安い。

充電にかかる時間は、航続距離120キロのモデルが6時間半、170キロのモデルが9時間。冷房の使用など電池に負荷がかかる状態でも、航続距離の7割ほどは走行が可能だという。中国のSNS「微博(ウェイボー)」にはユーザーによる投稿が見られるが、毎日通勤に利用しても週に1回の充電で済むという書き込みもあった。

家庭用電源からも充電することが可能で、充電設備はメーカーが無償提供してくれる。ただし充電設備を駐車場に設置しなければならず、集合住宅が中心の都市部ではハードルが高そうだ。実際、宏光MINI EVは農村部でよく売れている。上汽通用五菱汽車は同車種を「人民的代歩車(人民の足代わりの車)」と位置付けており、長距離移動を想定していない。日常の買い物や子どもの送り迎えなどの足代わりとして、若者や高齢者に人気のようだ。

中国のEV市場は、政府による補助金政策によって拡大してきたが、同車種は補助金に頼ることなく低価格を実現している。その要因は、徹底したコスト削減にある。新エネルギー車に特化した情報サイト「NE時代」は、生産にかかるコストを1万4950~2万3000元(約24万~37万円)と試算している。ある自動車評論家は「EVで最もコストがかかるのは電池だが、コンパクトな電池を積むことで相当安く抑えているのだろう」と分析する。それ以外の部品についても、同社はサプライチェーンの管理を徹底しているほか、ボディの構造を従来と変えることで軽量化とコスト削減を実現しているという。

コンパクトEVは、グループPSAやFCA(フィアット・クライスラー・オートモビルス)などの欧州メーカーをはじめ、トヨタ自動車など世界中のメーカーが開発を進めている。中国はコンパクトカーが売れない市場だったが、宏光MINI EVの登場によって、EVについてはトレンドが変わっていくかもしれない。今後の動向を注視したい。

※本コラムは、Factory Network Asia Groupが発行するFNAマガジンチャイナ2021年2月号より転載しています。

https://factorynetasia.cn/front/thinktank

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