п»ї 「生きる」ことにつながる生涯学習という視点 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第253回 | ニュース屋台村

「生きる」ことにつながる生涯学習という視点
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第253回

3月 27日 2023年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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◆4つの事業

文部科学省の2022年度「地域連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進」事業で行われた「重度障害者の学習支援の展開と地域と指定管理業者による障害者の生涯学習の場づくりの研究事業」は最終報告会を行い、成果報告書を発表した。

最終報告会では、連携協議会委員やプログラムの参加者、参加した当事者の保護者から意見をいただき、それらを来年度の計画に盛り込み、さらに発展させていきたいとまとめた。今年度の文科省による「要支援者向けの生涯学習」の委託研究の取り組みは、以下の四つの柱で実施した。

「重度障がい者向け講義『おんがくでつながろう』の実践」「遠隔講義『メディア論』の展開」「指定管理業者との学びの場づくり研究」「重度障がい当事者との企画と実践によるオープンキャンパスの開催」。どの事業でも「インクルーシブ」を基本に関わり合うことでの感動が生まれた、と私自身はまた一歩何かが進んだと感じている。

◆楽しみに1週間

最終報告会では関係する方々がそれぞれの立場から発言し、全体を総括して連携協議会委員の山本登志哉・発達支援研究所所長はすべての事業が「生きることにつながるもの」との表現で、これらの取り組みを評価した。

生きるにつながる――。

そんな表現を受け止めて、私がいつもこの学びの中で受けている感動は「生きる」ことを「つかめた」瞬間があるからかもしれない、と考えてみた。実際にオンライン講義に参加している重度障がいのある女性は、一緒に参加する家族が「講座が楽しみで1週間過ごしている」と発言してくれた。

当事者が楽しく参加する、学びの日が待ち遠しくなる日々を過ごすこと、その喜びと触れ合うこと。それを目に見えるものとして受け取ってきた私は幸せである。そして、多くの方が関わってこの感動を共有できたらと、いつも思う。これが「生きる」ことなのだとすれば、今回の事業はそれぞれの「生きる」につながるものだったともいえる。

◆自分たちが考え実行

重度障がい者が企画してオープンキャンパスを実施し、最終的にコンサートで自分たちの作った曲を披露した事業では、企画委員として参加した重度障がい当事者の父親は「これまで特別支援教育の中で提供される一方だった。何かをするときも混ぜてもらうような格好が多かった。それが、今回は自分たちが考え実行するということで新しい可能性が見つかった」と話した。

社会・支援者が重度障がい者に何かを「施す」というベクトルから、当事者が社会に発案するベクトルは水平型のコミュニケーションで展開される条件であり、水平型であることはどちらかに比重がかかることなく、過多もないからストレスが少なくなる。

講師や演者にとっても、そのコミュニケーションで成り立つ学びは、大きな効果を得るはずで、最終報告会では「音楽でつながろう」講義の講師を務めた歌手の奈月れいさんも「大きな力をもらっている」と話した。このベクトルの転換は、講師側に学びの覚醒も促したようだ。

◆SDGsを視野に

この事業も今回が5年目になり、年々発展させ、社会課題を見つけ、その対応を考え、行動し、各地で広がる学びにも関わりながら、少しずつではあるが、社会における障害理解から一歩進んだインクルーシブな学びは浸透した部分もあるが、まだ当事者とその周辺だけにとどまっているという現実もある。

コロナ禍の中で行われた感がある今年度事業から、来年度は社会の様々な制限がなくなる中での事業になる見通しだ。オンラインによる講義で全国的な学びの広がりや、社会教育施設での場づくりの研究、集合型とオンラインを組み合わせてSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを学ぶなどを行う予定だ。

特にSDGsの取り組みには国連が「誰一人取り残さない」こともそのプロセスで重視しているから、一緒に学ぶことは国際社会の必然である。最終報告で得た関係者からの声を希望ある未来につなげたい。

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