п»ї 初めての修了式から「自分の人生」を生きる 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第206回 | ニュース屋台村

初めての修了式から「自分の人生」を生きる
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第206回

3月 22日 2021年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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◆「学ぶこと」の希望

1月に行われた文部科学省との共催の共生社会コンファレンスでの分科会「当事者の言葉からデザインする新しい学び―『学ぶ』を体感する学生シンポジウム」の動画を登壇者の了解を得て、1か月間公開した。精神障がいや発達障がい、知的障がいなど、それぞれ社会とのかかわりの中で、支援が必要な方ではあるが、それは誰もが一緒に学び合うことで楽しい人生がイメージできる、幸せな気分になれる動画である。

ただ、この1か月という限定も非常に現実的な課題があるからで、やはりネット上で拡散されてしまい、将来的に知らない間に何かしらの被害の可能性を考えてしまうからである。その中で、みんなの大学校から登壇した水越真哉さんは、自分と同じ境遇の方にも希望を伝えたい、と決意し、自分が変わった「学ぶこと」について、自身の思いを赤裸々に語ってくれた。

動画を見逃した方向けに、ここで紹介し、その文面から「学び」の可能性を考えてほしいと思う。

◆型に押し込められる、から

水越さんは、40代からみんなの大学校の基礎課程の学生となり、今年度で修了論文を提出し、基礎課程を修了した。今回の分科会では、学びに来る前の自分の心の状態を「障がい者」に押し込めようとしていた、と告白する。

「私は一時期、障がい者としてただ、細々と生きて行こうと思っていました。落胆して、ある意味では決意さえしていた時期もあります。障がい者として、型に押し込められる、自分自身でもはめ込んでいく感覚に襲われていたのです。それが、学ぶことにより、自分の人生を生きようと思えるようになりました。学びから、ものごとを見る視点が客観的、多角的になり、新しい生き方が見えてきたのです。それは、将来に対する開けた視界であり、この世界を生きていきたいと思える感情なのです」

水越さんが開いた学びの扉は自分の人生につながったという感想は、私にとっては頼もしく、希望の言葉である。

その学びについて、水越さんはこう述べている。

「わがままに夢を追う自由という学びではなく、現実を見据えるための、生きていくための学びとしてなのです。学ぶほど現実は厳しく時に残酷であることを気づかされますが、それらを乗り越える力、希望もまた、学びから得られるのだと考えています。私のこれからの一歩として、社会にどう受け入れてもらうかという課題があります。これまで私は、自身に足りないことを知識で克服しようと背伸びをしてきました。もちろん、知識から得られるものは大きいです。しかし、経験を積み重ねたものには及ばないと思います」

もちろん、学びは座学だけではないし、多くの人と交わることも大事なポイントである。集合して体験するスクーリングができない状況下でも、ウェブ上でできることも工夫しながら、その体験は広がっている。水越さんは基礎課程を終えた後は、その後2年が予定されている専門課程に進学する予定だ。

◆自己実現の道へ

「大学校の残りの時間、これまでの知識を体系的に学問として学ぶことで、表面よりももう少し深いところまでの気づきに変え、社会に入っていくときの緩和剤としたいと思います。そして、経験のない私が少しでも周りに溶け込むには、何を経験すればよいか、注目していけばよいかの足掛かりとできればよいと願っています」

そして最後に「学びに関する思い」として、こう結んでいる。

「大切なのは自己実現だと思っています。『自己実現への道』とは『社会』の中で責任を持って生きるための力をつける過程だと考えています。自己完結な自己実現に終わらないためにも、その途上にいるときこそ、『社会』と関係を持ち続けることが大切であり、自己実現に向かうことだと思います。この『自己実現への道』とつながることイコール、『社会』とつながることであり、それは、特に障がい者にとっては、どの時点からでも始められる、生きられる人生がある社会であってほしいと心から願っております」

水越さんの人生、修了式を終えて、また新たな「学び」の旅、自分の人生が始まる。

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