触法障がい者への支援に目を向けることを考える
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第209回

5月 24日 2021年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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◆支援をしていた人の逮捕

 支援をしていた障がいのある男性が逮捕された。

昼間のテレビニュースの映像ではそのなじみのある顔はその格好から手錠をされている様子で、警察に連行される不安な表情は「詐欺容疑の男逮捕」の見出しが付けられると、たちまち罪人のようにも見えてくる。

しかし、彼は私にとっては支援が必要な施設の利用者であり、気の優しい施設の仲間だった。逮捕容疑はお年寄りに多額の現金を送るよう迫った詐欺とのことだが、彼の性格からはにわかに信じられない。

彼はそのような犯罪をする巧妙な発想も行動も持ち合わせていないはずで、誰かの指示によりなされたトカゲのしっぽに過ぎず、彼の映像をメディアに撮影させるという捜査機関のサービスを考えると、彼が世の中の「ちょうどよいところ」に、はめ込まれ、使われてしまったようにも思う。被害者も気の毒ではあるが、彼もまた障がいによって判断が他者と比べ、正確にできなかったことが今後の公判で明らかになっていくだろうか。

◆受刑者が示した現実

 日本の刑務所にいる受刑者の約2割はIQ69以下の知的障がい者であるとの統計がある。さらにほかの障がいがある人と受刑者の高齢化により、受刑者の中でも福祉的支援が必要な者の割合が多いという。

刑務所の内側の福祉が必要な状況をつまびらかにしたのは、2000年に秘書給与詐取事件で逮捕、実刑判決を受けて栃木県の黒羽刑務所に服役した山本譲司さんであった。

山本さんが書いた『獄窓記』や『触法障害者』のルポルタージュに詳細は述べられている。この作品は刑務所の中の福祉的な支援が必要な状況を社会問題として提示し、その刑務所から出てきた「支援が必要な人」への支援が行き届いていない現実も突き付けた。

本に登場する受刑者はこんなことを言ったという。

「刑務所が一番暮らしやすかったと思ってるんだ。誕生会やクリスマス会もあるし、バレンタインデーにはチョコレートももらえる。…ここは、障害者だけじゃなくて、恵まれない人生を送ってきた人間にとっちゃー天国そのものだよ」(『獄窓記』より)。

◆更生も「学び」

 精神障がいについては、精神鑑定の専門家である岩波明・昭和大学医学部精神医学講座主任教授は「精神医学あるいは精神医療にとって『触法精神障害者をどのように扱うか』という問題は最も重要な課題の一つであった。あるいは、精神医学はこの問題とともに生み出され、発展してきたと言っても言い過ぎではない」(『精神障害者をどう裁くか』より)との見解だ。

さらにこれら触法障がい者が「更生」できずに犯罪を繰り返す累犯障がい者になるケースも問題視されている。この負の連鎖を断ち切ろうと奮闘しているコミュニティーは多くはない。

社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県諫早市)は2014年の全国知的障害者関係施設長等会議の報告で、触法障がい者の「更生」に向けた受け入れを行った結果として、こう提言した。

「障がいのある人にとって、執行猶予や保護観察の判決は、『おとがめ無し』と勘違いしてしまう。せっかく、いただけた更生の機会・期間を有効に“生き直し”につなげるためには、法的システムとして学習の機会が必要である」。

そう、更生にも学び、なのである。

◆コミュニケーション学習から

 しかしながら、触法障がい者がこれだけいるのに、支援の手は少ない。

就労移行支援事業所など、企業に就労させようという組織や事業所が増えており、福祉事業所の総数の増加でも触法障がい者への対応は鈍い。触法障がい者への対応に困った自治体や社会福祉協議会が、「受け入れ先」として、私に相談のあったケースは少なくはない。その都度「どこも受け入れられない」からだという。つまり担い手もいないのである。

罪が悪いこと、ということを意識してもらうためのコミュニケーション学習は誰でもできるものではない。他者との関わりによって自分が生きていることを実感してもらうこと、このアプロ―チは経験も必要で簡単ではない。それでも入所した人が、他者とともに豊かな暮らしのするための支援は確実に必要だ。

学びで君が花開く、とのキャッチフレーズのみんなの大学校が、コミュニケーションの専門的見地を駆使し触法障がい者のコミュニケーション改善に役立てないか、現在思案中である。

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