ICT社会を抗いながら生き抜く
『四方八方異論の矛先-屋台村軒先余聞』第2回

7月 21日 2021年 社会

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記者M(きしゃ・エム)

新聞社勤務。南米と東南アジアに駐在歴13年余。座右の銘は「壮志凌雲」。新型コロナ禍に伴う在宅勤務が1年以上続く現在の日課は、夜明け前から歩き始める10キロウォーキングと夕方の5キロ程度の散策。不要不急の外出は控え、休みの時は動画配信サービス「ネットフリックス」で見る韓国ドラマにどっぷりハマっている。

「ニュース屋台村」はfacebookのアカウントを持っている(https://www.facebook.com/newsyataimura)。新着の論考を公開する折に、より広範な読者の関心を集めたいと開設したもので、一部を除いて毎回、日本時間午前6時のアップロード公開の直後に、その時期の旬の花の写真を載せている。実はこの写真の大半は、筆者が毎日、夜明け前後に行っている10キロウォーキングの途中で目に入った花をガラケーのカメラで接写し、帰宅後にパソコンに移してアップロードしたものだ。時に刻一刻と変化する朝焼けの濃紺、青、オレンジ色などのグラデーションを楽しみながら、いつも歩いている江戸川沿いの遊歩道のそばに咲く花もあれば、民家の軒先で見つけた花、わが家の庭の花もある。つい先日、百日紅(サルスベリ)が今年最初の白い花をつけた。残念ながら解像度がイマイチなのは、ガラケーのカメラ性能におのずと限界があるからだ。

◆地球上の最後の1人になるまで

 「ニュース屋台村」のPR策として、LINE(ライン)やツィッターなど他のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も使えば読者層はさらに拡大する可能性はあろうが、筆者はふだん、LINEもツィッターもやらない。スマートフォンを持っていないのだ。スマホをライバル視しているわけではないが現在使っているのは、4G機能を搭載しWi-Fiも使える「ガラホ」と呼ばれるガラケーの最終機種。家族間の連絡はLINEを使うことがあるが、自宅のパソコン経由。ウォーキングから戻ってきて早朝にパソコンをのぞいた時に一方的に書き込むくらいで、独立して離れて暮らす子どもたちとの双方向のやり取り(即レス)はなかなか成り立たない。

しかしこれまで、スマホを持っていなかったことで不便を感じたことはまったくない。むしろ、まさかこちらが持っていないことなど考えもせず、写真や図版など容量の大きなファイルを添付して送ってくる相手には不便だろう。こちらの返信がなくしびれを切らして問い合わせてきた人には「ガラケーだからいまは外にいて読めません」と断っている。

コロナ禍で去年から中断しているが、かつてブラジル・サンパウロに共に駐在した異業の先輩たちと定期的に都内のシュラスカリア(いわゆる、わんこ焼き肉屋)で歓談する機会がある。ある時、先輩の1人は「こんなに便利なのに、持ってないの? なんで?」と驚くと言うより、哀れむような目であきれ返っていた。「地球上の最後の1人になるまでガラケーで通します」と笑って返したが、もはや、意地のようなものである。とことん、抗(あらが)っていく。

いまやスマホ派が世の中の大勢を占める中、疎外感を抱くことがないでもない。しかし、「スマホがなくなったら死んじゃう」と真顔で言う若者や、食事や会議の席でスマホの画面をのぞいたりフリックしたりする者を見るたびに、「スマホなんぞに操られてたまるか」といつも思うのだ。もちろん便利なことはわかるが、今のガラケーの機能とパソコンを使えば、本業でも十分に事足りる。

◆日常の「必需品」?それとも「ごみ」?

 NTTドコモ系列の研究機関「モバイル研究所」が今年4月に発表した調査結果によると、日本国内でスマホ、ケータイの所有者のうちスマホ比率は1月時点で92.8%になった。調査を始めた2010年当時はわずか4.4%だったというから、この10年余で様変わりである。1人で複数持っているケースもかなりあるから、10人のうち9人までがスマホ派、とまでは言えないだろうが、世の中はすでにスマホを持っていることを前提に物事が動いている。そして、そのことが深刻な「情報格差」をいっそう増幅させている。

現在はなんとか落ち着いているようだが、新型コロナのワクチン接種で当初、インターネットに限定して予約を受け付けたため、高齢者から「ネットやスマホではよくわからない」との声が相次いだ。接種の対象となる高齢者が、パソコンやスマホの取り扱いに慣れているか否かで予約の順番を取るのに差が出てしまい、中には「ネットはわからん」と言って予約を諦めた人もいたという。

 たとえ独り暮らしでも、離れて暮らす子や孫が代行してくれる人はまだいい。しかし、身寄りがなく、パソコンを持たずネットの知識がない人はまずお手上げである。霞が関と政府の配慮を欠いた「泥縄式の施策の典型」の一つと言っていいだろう。

筆者が高校卒業まで暮らした、いまだに携帯の電波も通じない不感地帯にある兵庫県赤穂の超限界集落の住人たちはいったい、どうしたのだろうかと案じていた。90歳を超えた独り暮らしのお年寄りもいるが、近所同士で声を掛け合い、わかる人に予約の申し込みを代行してもらって事なきを得たという。都市部でしばしば報告される「孤独死」とは無縁の、毎日声を掛け合うのが習わしの人口13人の小さな村ならではの利点である。

 話は、寒村からいきなり宇宙に飛ぶ。7月初め、宇宙飛行士の星出彰彦さんが滞在中の国際宇宙ステーション(ISS)から、「コーヒーと牛乳は宇宙でも混ざるか?」をテーマに実験の様子をライブ配信した。小中学生に1人1台のパソコンやタブレット端末を配備してICT(情報通信技術)を活用した教育を進める「GIGAスクール構想」を主導する文部科学省が企画した特別講座の一環である。実験結果(宇宙空間で球体となったコーヒーと牛乳は、接すると互いに混ざり合って「木星のような模様」になり、飲むと「おいしいコーヒー牛乳」になる)もさることながら、子どもたちはパソコンやタブレット端末を使ってISSにいる星出さんとリアルタイムでつながり、宇宙がいっそう身近に感じたことだろう。

子どもたちにはICT教育を進めるのと同時に、インターネットリテラシーの大切さについても丁寧に教える必要がある。デマやフェイクニュースがたれ流し状態のSNSは、影響力や浸透速度などの観点からも両刃(もろは)の剣となる。ICTは使い方次第で、日常の「必需品」にも「ごみ」にもなり得る、相反する二つの側面を持っている。

◆デジタル庁発足と安全網への不安

コロナワクチンの接種予約に関する混乱に絡んで、9月1日に発足するデジタル庁のことがにわかに心配になってきた。デジタル庁は、菅義偉首相肝いりの組織だ。

今回の混乱の原因は、初歩的なミスと言える。予約システムのパンクは予想できたはずだが、事前にフェイルセーフ機能を準備しておらず、危機管理対策が十分でなかった。何より、優先接種の対象となる高齢者への周知や、ネット社会で弱者になりがちな高齢者の扱いをどうするかという基本的なセーフティーネット(安全網)すら整備されていなかったことに起因する。

ワクチン接種の予約の時とは到底比べられない膨大なデータを行政側が丸ごと扱い管理するデジタル庁は、行政のデータ管理を一元化し簡便化できるとされるが、果たしてわれわれにとって本当に便利なものなのか、判断できない。個人情報はきちんと守られるのか。住んでいる場所や年齢などによるデジタル格差をさらに拡大させてしまうことにならないか。

菅政権の支持率は、政権運営が困難な「危険水域」とされる30%前後で推移し始めている。よもや途中で投げ出したりはしないだろうが、いつも「国民の安全安心を最優先にする」と繰り返す首相には、流ちょうでなくとも国民に届くわかりやすい言葉と態度で、説明責任を果たすことを最後まで肝に銘じていてほしい。

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