豪で2027年W杯 ラグビー人気の現実
シドニーの冬景色点描(その7完)
『四方八方異論の矛先-屋台村軒先余聞』第35回

9月 02日 2026年 国際, 文化, 社会, 経済

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元記者M(もときしゃ・エム)

元新聞記者。「ニュース屋台村」編集長。南米と東南アジアに駐在歴13年余。座右の銘は「壮志凌雲」。2023年1月定年退職。これを機に日本、タイ、ラオス、オーストラリアの各国を一番過ごしやすい時期に滞在しながら巡る「4か国回遊生活」に入る。日本での日課は5年以上続けている15キロ前後のウォーキング。歩くのが三度の飯とほぼ同じくらい好き。回遊生活先でも沿道の草花を撮影して「ニュース屋台村」のフェイスブックに載せている。

◆シドニーの冬に白旗揚げる

シドニーでのひと冬が過ぎようとしている。8月第5週の24日から9月に入った現在まで連日、朝から晩まで一日中晴れマークが続き、日によっては日中の最高気温が28度にもなり、春本番を一気に飛び越えて初夏を思わせる陽気になってきた。

梅雨の東京からシドニーに降り立ったのは6月半ば。渡航前にシドニーの気温を毎日チェックし、「どんなに寒くてもせいぜい5度前後、日中は18度くらいになる」と踏んでいた。しかし実際に生活し始めてみると、東京なら「比較的温かい冬の日」並みなのに、身体が次第に“冬モード”になり、10度に届かないとかなり寒く感じるようになってしまった。

シドニーに来る前は「寒いといっても、まあせいぜい涼しいくらいだろう」と、たかをくくっていた。が、背中が痛くなるほど激しくせき込み、鼻水がどうにも止まらなくなるにいたって、「負けた」と心の中で白旗を揚げざるを得なかった。朝方、この冬最低の2度まで下がった時には、さすがにダウンジャケットが手放せなかった。

東京の猛暑を避けて、意気揚々と冬のシドニーに乗り込んだはずだった。が、9月に入って冬から一気に夏の兆しが少しずつ感じられるようになって、今年の夏のように日本ではなくシドニーで過ごすという選択を来年以降も踏襲するか、と自問すると、正直なところすぐに「イエス!」とは答えられない。

ヒトの身体はとても正直だ。季節で気分や眠りが変わる感覚は、身体のリズムと深くつながっている。とくに、異常気象傾向が強まっているとはいえ日本は四季がはっきりしているから、健康な人なら体内時計や睡眠、気分、食欲、自律神経の季節変化がうまく循環している。私自身もその1人だと思っている。

冬は睡眠が長めになりやすいし、気分も落ち込みやすい。夏は暑さで眠りが浅くなりがちだが、日照時間が長く薄着で過ごせるから、心身が軽く感じられる――。春夏秋冬で日の長さが変わると、睡眠のタイミングやホルモン分泌、活動しやすさも変化する。日本でずっと健康な生活していれば、バイオリズムはほぼ正確に循環するはずである。

東京の夏>シドニーの冬

海外駐在を終えて2007年に帰国して以来すでに19年。日本の四季の移り変わりにすっかり順応した身体を取り巻く環境を、この夏は恣意(しい)的に変えてみた。とくに2025年の夏の暑さといったらがまんの限界を超えていて、「不要不急の用がなければ日中の外出は控えるように」と連日注意を呼び掛けられていたので、同年10月にシドニーに滞在していた時点で26年6~9月は冬のシドニーで過ごそうと航空券を早々とおさえた。

そして実際、その通りに過ごしてみた。毛布の上に布団をかけたベッドに潜り込むととても心地よく、寝入ってしまう前に身体が温まった。朝は日本ならたいがい午前4時すぎには目覚めるのに、シドニーでは7時すぎまで寝ていることがたびたびあった。

半面、日照時間が短くなったぶん、日の入りの時間を気にしながら早足に歩くことが多かった。そして予期せぬことに、冬のオーストラリアではよくある「短時間型ウイルス性胃腸炎」にもかかり、ひどく厄介(やっかい)な目に遭った。

「暑いのが好きか、寒いのが好きか」という究極の2択の問いには、間違いなくこれまでずっと答えは一貫してきた。もちろん、「暑いほうがいい」に決まっている。

そして、日本の夏を、冬のシドニーで試しに過ごしてみた結論――。やっぱり、暑いほうがいい。だから、夏がいい。シドニーでも、夏がもう手が届くところまで来ている。ひと冬を過ごしたからこそ、春そして初夏のありがたみをいっそう強く感じる。

日本で再びがまんできないほどの暑さに見舞われたら心がちょっと揺れ動くかもしれない。が、シドニーでひと冬を過ごしながら堂々巡りの自問自答を繰り返してきた。そして、たどり着いたのは、四季の変化の中で順に巡ってくる夏をそのまま素直に受け入れること。いまは率直にそう思っている。

◆2027年豪でラグビーW杯開催

シドニーでの今年の回遊生活も第4コーナーを過ぎ、いよいよゴールが目前に見えてきた。来年の渡豪の時期は、シドニーに今年来る前からすでに予定を決めていて、9月中旬あたりから12月初旬ごろまでの間を計画している。シドニーの冬を嫌ったわけではなく、ジリジリと肌が焼ける音が聞こえてきそうなほどの真夏の酷暑を避けたわけでもない。豪州でのラグビーのワールドカップ(W杯)開催(2027年10月1日~11月13日)に合わせた日程である。これがたまたま、シドニーの春から真夏の入りという時候のよいタイミングにうまく重なっただけのことである。

といっても、ラグビーに特別関心があるわけではない。従兄が生前、役員をしていた神戸製鋼のラグビー部として創設されたコベルコ神戸スティーラーズ(現ジャパンラグビーリーグワン所属)の試合を、建て替え工事前の東京・明治神宮外苑の秩父宮ラグビー場で2度観戦したことがある。が、ラグビーファンなら必ず一度は行ったことがあるだろう国立競技場でラグビーの試合を見たことはない。

ラグビーW杯といえば、2015年のイングランド大会でのこと。日本代表は強豪の南アフリカ代表に34-32で逆転勝利し、「ラグビー史上最大級の番狂わせ」と、大きな注目を集めた。イングランド・ブライトンで試合があったこの年9月19日の翌日、私はシドニーから日本に戻る予定だった。

空港の全日空のカウンターでチェックインしようとしたところ、オーストラリア人の男性スタッフから「きのうの試合、すごかったね。ニッポン、おめでとう!」と英語で興奮気味に声を掛けられた。実はその時は何のことだかさっぱりわからず、私は「ありがとう」と言って曖昧(あいまい)な笑みを返したのだが、あとで搭乗口のテレビでニュースを見て、「はは~ん、このことだったのか」と納得したのだった。

なので、来年のW杯期間中、シドニーのスタジアムで観戦できそうな試合で最安(40豪ドル)の当日券が手に入れば行ってみようかな、という程度の関心度である。当日券が入手できなくても、スタジアムの近くまで行って外からでもW杯の雰囲気が味わえれば、それで十分満足である。

◆日本代表の対サモア戦観戦、どうする?

もし、どうしても日本代表の試合を見るとしたら、私くらいの関心度なら、シドニーの北約150キロに位置し電車で2時間40分ほどのニューカッスルで27年10月3日(日)午後零時15分キックオフのサモア戦が最も安くあがる。

試算してみると、試合のチケットは一番安い席で40豪ドル。シドニー~ニューカッスルの往復の電車代や食費を入れても合計80豪ドル(約9200円、1豪ドル=115円で計算)あればシドニーから日帰り観戦できる。

私くらいの関心度だから、この程度の予備知識しかない。ところが、来年のニューカッスルでの日本代表の対サモア戦観戦を誘っている一番下の義妹から連絡があって、「お兄さん、ホントに試合当日にスタジアムでチケットが手に入るの? 信用していい? 大丈夫?」と疑いのまなざしがありあり、の問い合わせが来た。なるほど、調べてみると、なかなかの人気らしく、1年以上も先だというのに、すでに先行予約販売分は売り切れているらしい。

義妹はラグビーに関する関心は皆無(当然のことながら、来年のW杯は15人制だとは知らないし、「知ったところでそれがどうしたの?」と聞き返してくるほど)なのだが、事前に調べてくれたようで、来月(10月)1日から予約販売が始まるので「事前に買っておいたほうがいいんじゃないの?」と提案してきた。

うむ。そうだな、そうするか。ラグビーに対する関心度は、皆無の義妹に比べれば私のほうが確かに高いが、チケットの入手方法などといった技術的な手続きについては、ラグビーを含めてすべての分野で、ど素人の私に対し義妹は(私から見ると)プロフェッショナルの領域にあるから、これは任せるしかなさそうだ。「じゃあ、お願い。よろしくね」と、素直に従ったのだった。

ブリスベンでのフランス戦(27年10月9日)やアデレードでのアメリカ戦(同年10月15日)となると、なにせ日本の国土の20倍以上あるオーストラリアのこと、シドニーからの航空券代や宿泊代などがかなり高くつくし、チケット入手の競争率の高そうだ。いずれにせよ、はなからそこまで日本代表の試合観戦にこだわってはいない。

◆「ラグビー愛」あふれる友人

「豪州でのラグビーW杯2027年開催」は大阪出身の大学同窓の友人からの情報で、2025年4月に初めて知った。彼は、ラグビーの試合で常にゲームの中心に絡み続けることが求められるポジション「ナンバーエイト」にちなんで息子に「えいと」と名付けるほどの「ラグビーフリーク」。大学卒業以来ほぼ毎年、大学選手権や日本選手権の決勝のたびに上京し、国立競技場で観戦してきた。2019年のラグビーW杯日本大会では日本代表が初めてベスト8に進んだが、開幕の東京から静岡~豊田~横浜~大分~横浜と7週連続で日本中を駆け回りながら観戦した強者(つわもの)である。

なにごとにも用意周到な彼は25年4月の時点で、27年の豪州でのW杯現地観戦に向けて、下見のために今年は複数回渡豪し計1か月ほど滞在する計画を立てていた。27年のW杯本番では大会期間中ずっと豪州に滞在する予定で、その前後を加えて9月末から11月半ばまで豪州各地で日本代表や強豪国の試合を観戦する計画だ。今年2月半ばに始まったW杯チケットの先行販売では、早々と27年10月1日のパースでの開幕戦や、10月9日のブリスベンでの日本代表対フランス代表のチケットをおさえた。

そして今年の下見の手始めは、妻と孫を同伴して4月にゴールドコーストとシドニーを1週間かけて回った。あとで知ってとても驚いたが、実は彼はこれが初めての海外渡航だった。ラグビーに対するあふれんばかりの熱量はまさに怖いものなし、である。

そして6月には単身フィジーへ2週間の短期語学研修に出かけた。毎日1時間半ほどかけて語学学校に歩いて通っていたという。英語力をつけ、英語環境に慣れるのが目的だったようだが、これもひとえに「ラグビー愛」の為(な)せる業(わざ)であろう。まさに信じられないほどのすさまじい熱量である。

さらに8月には単身ブリスベンへ。そこから日本代表と豪州代表のテストマッチの会場となったタウンズビルへ空路移動し、15日にテストマッチを観戦して、ブリスベン経由で帰国した。私はこの時シドニーに滞在していたが、日本代表の予想外の大敗(豪州代表56-17日本代表)に、彼に掛ける言葉が見つからなかった。

それにしても、である。大学生なら、若さの勢いを買ってこの程度のフットワークの軽さは決して驚きではない。しかし、彼は私と誕生年も誕生月も同じ、まさに同い年。しかも今年4月に初めて日本から海外に出たばかり。その行動力や決断力にはただただ驚嘆するばかりで、平伏するよりほかにない。加齢とともに刺激を受ける人が周りから確実に減っていく中で、私にとっては極めて貴重な存在である。

◆だれも知らなかった来年のW杯自国開催

今回シドニーに来てすぐ、会う人会う人に「来年のラグビーW杯の開催国はどこか知ってる?」と話題を振ってみたが、1人を除いてだれも知らなかった。「なにそれ! オーストラリアでやるんだよ! この国がホスト国なんだよ!」と私が興奮気味に注意喚起しても、相手は「へぇ~そうなんだ」でおしまい、まったく乗ってこない。この話題は長続きしなかった。

唯一、妻の友人の夫が知っていたのだが、それもそのはず。彼は豪州ラグビーリーグの超名門シドニー・ルースターズのファンクラブの会員で、私は2019年9月にシドニーに滞在していた折にクラブハウスへ2度連れていってもらったことがある。

ルースターズは1908年の創設以来、豪州のトップリーグの全シーズンに参加している唯一のクラブで、2018、2019年には2年連続でNRL(ナショナル・ラグビー・リーグ=豪州とニュージーランドを中心としたラグビーリーグ最高峰のプロリーグ)で優勝。ホームはシドニー東部のアリアンツ・スタジアム(全席屋根付き、収容人員4万2500人)で、私はウォーキングの前後にライトレールでよくそばを通っているので、その威容は知っている。

ラグビー通の彼だから、来年のW杯自国開催を知っていて当然なのだが、彼曰(いわ)く「シドニーでラグビーといえば、ラグビーリーグ。W杯はラグビーユニオンなので、みんな知らないのさ」。

◆圧倒的なラグビーリーグ人気

ラグビーリーグとラグビーユニオン。「同じラグビーでもどこか違うな」と薄々感じてはいたが、恥ずかしながら私は今回、初めて知ることがかなり多かった。

豪州では13人制ラグビーのリーグのほうが圧倒的に人気が高く、とりわけニューサウスウェールズ州の州都シドニーとクイーンズランド州の州都ブリスベンでは事実上、国民的スポーツに近い。一方、15人制ラグビーのユニオンは国際大会での存在感が強く、伝統的に私立校文化と結びついた競技として位置づけられているという。

ルールやプレースタイルの違いはざっとこうだ。

リーグは6回のタックルで攻撃が終了→テンポが速い▽タックル後は「プレー・ザ・ボール」で即再開▽スクラムは形式的で短い▽観戦しやすく攻防がシンプル――。一方、日本ではなじみのあるユニオンの場合は、タックル後に「ラック」「モール」でボール争奪▽スクラム・ラインアウトなどセットプレーが多い▽キック戦術が重要で戦略性が高い▽初心者には複雑に感じやすい――といった特徴がある。

得点体系も、リーグがトライ4点、コンバージョン2点、ユニオンはトライ5点、コンバージョン2点、ペナルティ3点と違いがある。ほかにも、同じ楕円形でもボールの形状など細かい違いがあるが、ラグビーに特別関心があるとは言えない私にとってはたいした問題ではない。個人的には、試合のテンポが速いリーグのほうがわかりやすく、おもしろい。

リーグの人気の理由は、歴史的に「労働者階級のスポーツ」として広まった▽プロ化が早く、観客向けにテンポの速いルールへ進化▽シドニー、ブリスベン周辺でクラブ文化が強い――などで、一方のユニオンは、伝統的に「私立校・エリート層のスポーツ」として認知され、W杯などの国際大会では存在感が大きい。国際的な広がりを見れば、ユニオンのほうが欧州、南アフリカ、ニュージーランド、そして日本など世界的だが、リーグは豪州国内での人気が圧倒的(支配的)なので、どうしてもリーグのほうばかりが注目される。

私が滞在している義妹の自宅の近くには、多数のスロットマシンや電子ルーレットを備えたコミュニティークラブ(地域コミュニティーの社交クラブ)がいくつかあり、ピザやステーキを食べに出かけることがある。そこに設置されている大画面スクリーンでも、ラグビー中継といえばもっぱらリーグの試合である。私も食後に義妹たちがスロットマシンで興じている間、コーヒーを飲みながらリーグの試合を観戦することが多い。

◆回遊生活の理想と現実

シドニーでの今年の回遊生活で、これまでとは違ったことがある。「非日常を日常として歩く」という、夢というか目標は年を重ねるごとに自分のものになってきたと実感できる。とりわけウォーキングのスタイル(内容)は徐々に変わってきた。

今年も最初の1か月は、近隣の国立公園の中をひたすら歩いた。日によっては25キロ近く歩いたこともある。私は毎日帰宅後、その日歩いたルートとおおよその時間を日記に付けているので、読み返すとルート上の光景が浮かんでくる。オペラハウスとハーバーブリッジが1枚の絵ハガキの中に収まるような景色はさまざまな場所から楽しんだし、私だけの穴場も見つけた。虹に追いかけられるようなこともあった。フェリーの上で見た虹が下船後に電車に乗り換えた後も、そしてさらにバスに乗り換えた後も見えたことがあった。二重の虹も何度か目撃した。

そして、いつも歩くルートを何度か繰り返し歩き直してみた後、ただひたすら距離を稼ぐかのように意識的に速く歩くのではなく、足を止めて景色や景観をゆっくり楽しむことを覚えた。時には、目当ての景色を見るのに時間を節約するため歩いていくのをやめて、できるだけ近くまで電車やバス、フェリーを乗り換えながら赴いた。そして着いた先で、カフェに腰を下ろして心ゆくまでゆっくりと景色を味わった。そう、ぜいたくな時間の使い方をようやく覚えたのである。

オペラハウスやハーバーブリッジ周辺などシドニーでもとりわけにぎやかな観光名所でも、少し離れただけで静かに景色を独り占めできるところはいくらでもある。雑踏や喧騒(けんそう)から少し距離を置きつつ、自分自身も観光名所の景色の一部に溶け込めるようになれたのは、シドニーを日常として歩けるようになったからだと思う。これはまさに、実際に始める前に思い描いていた回遊生活の理想の姿だといえるだろう。

ただその一方で、ある種の疲れも感じ始めている。単なる肉体的な疲れではない。日本では感じないような、曰く言い難い気疲れのようなものである。なんとなく、落ち着かないのだ。非日常に身を置くこと自体、知らず知らずのうちに言いようのないストレスを生んでいるのだろう。今回初めて、加齢(「老化」とはあえて言いたくない)を実感したのは、まぎれもない事実である。

幸せな悩みには違いない。が、あとどれくらいの間、回遊生活の理想と現実のバランスをうまく保つことができるだろうか、と思い始めている。そして、月並みだが、「日ごろの心身の健康の大切さ」を改めて痛感した。だからこそ、日本での日常をこれまで以上に大切に過ごさなければならない、と強く自戒するのである。

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