コロナ禍で目前に迫る日本の財政崩壊
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第175回

8月 21日 2020年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

oバンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住22年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

新型コロナウイルスの市中感染者が3カ月にわたり確認されておらず、マレーシアの研究所から「新型コロナの回復指数」で世界一の評価を得たタイ。そのタイから日本の新型コロナ対策の現状を見ると、日本政府の迷走ぶりに目を覆いたくなる。経済と感染対策の両立を掲げ「Go Toトラベル」キャンペーンを強行する政府に対し、医療現場に近い地方自治体は独自に緊急事態宣言を出す混乱。一部の政治家やマスコミは経済・資金支援の必要性を強く主張するが、国・中央政府はこれに対し「だんまり」を決め込み、国民に対応を丸投げする。しかしそれも「むべなるかな」である。日本は財政政策の面で万策尽きているのである。

日本政府はここ数十年にわたり国民の税金をさんざん無駄使いし、財政再建を先送りしてきた。そのあげく、ついに日本は来年以降いつ財政破綻(はたん)してもおかしくない状況に追い込まれてしまったのである。今回は客観的なデータを使い、日本の財政状況を分析するとともに目前に迫る日本の財政崩壊の可能性について述べたい。(注=本文中の図表は、その該当するところを一度クリックすると「image」画面が出ますので、さらにそれをもう一度クリックすると、大きく鮮明なものを見ることができます)

 1.深刻な日本政府の財政状況

日本政府の借金総額

※出所:財務省「財政に関する資料」               ※財務省主計局:国の「財務書類」より筆者作成

数値は一般政府(中央政府、地方自治体、社会保障基金を合算)ベース

これまでも頻繁に語られてきたが、日本政府の債務状況はきわめて深刻である。表1の通り、日本のGDP(国内総生産)に占める債務比率は200%を超過しており、国際的に突出して多い。債務残高のうち、日本の国債及び借入金残高、つまり日本政府の借金額は、2018年では約1094兆円にまで膨張している(表2参照)。政府の借金額の大部分は建設国債、赤字国債が占めており、全体の約78%となっている。

また、日本政府の借金額(地方自治体を含まない)を日本国民の人口で割ると、1人あたり876万円となっており、財政状況が悪いと言われる米国の約720万円、イタリアの500万円と比較しても高い数字となっている。現在の日本政府の借金額は、通常の方法では返済困難な金額まで達している。

2.日本政府の借金額が増加に至った経緯

(1) 日本の財政収支

A)2018年度の財政収支

※財務省主計局:「平成30年度予算のポイント」より筆者作成

日本政府の財政収支尻を見ていくと、深刻な状況に置かれていることがわかる。

図1の通り、2018年度の税収(約59兆円)から歳出(約97兆円)を差し引きすると約38兆円の赤字となっている。過去の発行してきた平均残存期間30年の国債償還資金23兆円のほか、社会保障関係費や公共事業費などの割合が高いことに気付くだろう。

B) 財政収支の暦年推移

※財務省主計局「我が国の財政事情」より筆者作成

※財務省主計局「我が国の財政事情」より筆者作成

図2より、日本政府の財政収支は毎年赤字が続いており、表3の過去14年間の金額ベースでは毎年数十兆円もの赤字額となっている。要因は以下の2点が挙げられる。

① 人口高齢化などによる一般会計歳出額の増加と財政不均衡の放置

一般会計歳出額は社会保障関係費などを中心に毎年増加してきた。財政健全化を目指す財政構造改革法が1998年に実質棚上げされ、歴代政権は国民に不人気な税制改革を積極的には取り組んでこなかった。直近でも安倍政権が消費増税の実施時期を2度先送りしたことは記憶に新しい。年々増加する歳出額に対し国民から徴収する税収は十分でなく、財政不均衡が毎年拡大をしてきていることを図3は示している。

※出所:財務省主計局「我が国の財政事情」より筆者作成

※出所:財務省主計局「我が国の財政事情」より筆者作成

② 金融危機がもたらした税収減と一般会計歳出額の増加

図3、表4の通り、アジア通貨危機やリーマン・ショックなどの金融危機が発生した直後に税収が大きく減少している一方で、歳出額は増加しており、財政収支バランスが大きく崩れている。金融危機などの際に一時的に財政出動をすることに異論はない。しかし、こうした財政出動の資金は数年内に返済をしていかなければ財政に健全化は保てない。歴代内閣はこうした努力を怠り、緊急時の財政出動資金の回収を行ってこなかった。

(2) 一般会計歳出額の主な内訳

※財務省主計局「我が国の財政事情」より筆者作成

※出所:平成30年度社会保障関係予算のポイント

一般会計歳出額の主な内訳は、社会保障関係費と公共事業関係費に大きく分けられる。図4の通り、特に社会保障関係費は1980年から増え続け、表4からは、年金給付費の占める割合が35.4%と最も大きい。高齢化社会の中で、今後も年金給付費が増え続けると同時に、国の負担が今後も大きくなっていくことは免れない。

次に、公共事業関係費については図5の通り、1990年代に大きく伸びており、これは1990年の公共投資基本計画、94年の新公共投資基本計画の影響が大きい。バブル崩壊後の日本経済を公共工事でしのごうとした姿勢がうかがえる。

※平成30年度国土交通省・公共事業関係予算のポイントより筆者作成

(3)  建設国債および赤字国債の残高が増加した要因

上記のように、社会保障関係費や公共事業関係費など歳出額が年々増加する中で、日本政府は資金不足(財政赤字)を補うために建設国債や赤字国債等の公債を発行している。公債とは、建設国債、赤字国債や財投債その他から構成され、日本政府が、資金調達のために行う金銭債務である。建設国債と赤字国債の残高が増加した要因については以下の理由が考えられる。

建設国債は主に、国が公共事業費の財源に充てるために発行される。1990年代については、公共投資基本計画などにより公共事業関係費は大きく伸びており、(図5)、この財源として多額の建設国債が発行された。(図6)また、2008年のリーマン・ショックや2013年に発生した水害の景気浮揚対策としても、同様に建設国債が多く発行されてきた。

※財務省「財政に関する資料」より筆者作成

赤字国債は財政の赤字を補てんするために発行される。図7によって98年以降急速にこの赤字国債が大量に発行されていることがわかる。98年は日本の生産年齢人口(15-64歳)がピークアウトした時期であり、これ以降日本の名目GDPはほとんど成長していない。赤字国債は増加する高齢者の社会保障関係費、特に年金給付費の財源に使われた。財源の確保をしないまま増加する歳出を放置したため赤字国債は急激に増加していく。

※財務省「財政に関する資料」より筆者作成

以上見てきたように、高齢化に伴う社会保障関係費の急増や安易な経済対策策としての公共事業などで一般会計歳出額が増加する中、金融危機や消費税増税の見送りなどで税収が伸び悩み、その結果として赤字国債や建設国債の残高が増え、政府の借金額が増えてきたのである。

3.借金の増加がもたらした日本政府の実態

(1) 日本政府の貸借対照表

※財務省主計局:国の「財務書類」より筆者作成

表6は国の貸借対照表の直近3期分である。資本勘定については一般的な企業会計とは異なり、日本政府の場合、「資産・負債差額」部分に計上される。表6を見ると「資産・負債差額」は▲583兆4千億円となっており、この金額が債務超過となっている。主に公債などで構成される政府借金額が増加した結果、債務超過額が膨張している。

(2) 日本政府の実態バランスについて

※財務省:国の「財務書類」より筆者作成

表7を見ると、「資産の部」に計上されている種目には、資産としての価値に疑念のある科目も見受けられる。
① 前払費用には支援金として、原子力損害賠償・廃炉等支援機構へ年間何兆円もの資金が
転貸されている。同機構は大規模な原子力損害が発生した場合において、電力会社へ損害賠償のための資金の交付などを行う目的として東日本大震災以降に設立された。日本政府から同機構へ約13兆5千億円の国債が交付されているが、金額が多額であるため、債権回収が長期に及ぶ可能性が高く、問題を含んでいる。

① 日本政策投資開発銀行(DBJ)あてに多くの出資金や貸付金が計上されている。DBJは日産自動車への融資や鬼怒川ゴム工業への出資金が何百億円と実行されているが、コロナ禍の影響で業績が傾いているため、今後不良債権化する恐れもある。

② 日本高速道路・債務返済機構への出資金が年々増加している。本来、既に高速料金の回収が終了していなければならないが、借入金が回収しきれず、債務の再編成を行ったものである。今後の回収にも疑念が残る。

(3) 日本政府の借金は誰が返済していくのか
日本政府の借金は、私たち日本国民の借金でもある。当然返済していかなければならない。誰がどのように返済していくかについて、以下の3点が考えられる。

① 将来世代からの返済
図8は日本の人口ピラミッドである。現在の若者や子どもたちの世代が将来大人になった時の税収を充て返済していくことが考えられる。たとえば2018年の生産可能人口にいる人たちだけで日本政府の借金を返す場合は1人あたり1450万円の返済額になる。1人あたり1450万円の借金を返済するためには、今後は極端な増税が必要となり、生活に困窮する国民が増えていくことが懸念される。

※出所:Population pyramid net

① 富裕層の多い高齢世代からの返済

※2016年国民生活基礎調査「各種世帯の所得等の状況」より筆者作成

表8を見ると、高齢者が多くの金融資産を保有している。こうした高齢者から相続税を通して資金を回収することが考えられる。表9の通り、日本の相続最高税率は国際的にも高く、相続税による日本の収入も年々増加傾向である(図9を参照)。

※出所: 土地総合研究「各国の相続税制について

※出所:財務省「相続税の改正に関する資料」

今後は更に相続税の課税率を高くして政府の借金の返済に充てるという方法が、国民全体を考えれば最も痛みが少ない施策だと考えられる。しかしこの施策が完了するためにはあと数十年の期間が必要となり時間との競争となる。

② ハイパーインフレーションが発生した場合

日本は第2次世界大戦後の敗戦により、国家の存続が危ぶまれ、ハイパーインフレーションを経験した。ハイパーインフレーションが発生すると物価は数十倍から数百倍に跳ね上がる。国民の円建て金融資産の価値も暴落するが、赤字国債などの公債の実質価値も大幅に減価する。海外投資家が政府財政の悪化による信用リスクを取れなくなったとき、円は売られ、大暴落し、ハイパーインフレーションを引き起こす。日本は現在約340兆円の対外純資産国となっているが、長年放漫な財政運営を行ってきたため近い将来「実質的な対外純負債国」となってしまう可能性がでてきた。こうした状況で海外の投資家が一斉に日本から資金を引き揚げると、ハイパーインフレーションが発生するリスクが顕在化する。

4.新型コロナが日本の国家財政に与える影響


※出所:時事ドットコムニュース

世界的に流行している新型コロナウイルスの影響は、日本の国家財政に更なる追い打ちをかけている。2020(令和2)年の合計歳出額は約160兆円となり、国債発行額は90兆2千億円と過去最大の規模である、予算のおよそ56.3%を国債で賄うという驚異的な数字となっている。今年度、日本国家の財政収支は大幅な赤字を計上することになる。また、新型コロナウイルスの影響は今年だけにとどまらない可能性が高い。来年以降も税収が大幅に落ち込めば、日本の国家財政はいっそう悪化する。

5.国家財政の検証について

(1)日本全体の資金繰りが赤字となる可能性

日本全体の資金繰りの状況は以下の図10で表されている。「日本は政府が借金をしていてもその財源が主に個人の預金などから賄われているから問題がない」と言われてきた根拠である。

※日本銀行「資金循環統計」より筆者作成

※財務省「対外資産負債残高の概要」より筆者作成

図10の通り、日本は海外に約340兆円の資産を保有しているため、日本国全体では資産超過となっている。現状の海外資産の内訳を見ると、証券投資が44%となっている(図11参照)が、そのうち米ドル建債券が約半分の210兆円あり、米国政府との関係上、すぐに現金化できないものが含まれている。差し引きすると、実質的な現金可能化資産は約130兆円となる。

一方、今年は新型コロナウイルスによる政府借金額は約100兆円増加するため、この調達は海外資産の切り崩しなどに頼る可能性が高く、実質的な現金可能化資産はほぼなくなるかもしれない。もしそうなった場合、日本は来年度以降実質的な対外純負債国となる可能性が高く海外投資家からの投機対象となる。政府借金額の増加に歯止めが利かない、という日本の弱点を見越した海外投資家が一気に資金を引き揚げると、日本はハイパーインフレーションを引き起こす可能性がある。

(2)年金の持続可能性についての検証

※厚生労働省「財政検証関連資料」より筆者作成

図12は今後100年間において、年金に必要な給付と財源の金額をバランスシート(2019年:財政検証)にしたものであり、日本政府が5年ごとに検証している。国庫負担額とは、国が支出しなければならない金額であるが、約750兆円となっている。これまで見てきた日本の財政状況を考えると、今後、これ以上の支出は難しい状況である。仮に、国が年金支出額(約750兆円)を出せない状況となると、私たちの年金は失われる可能性も大きい。また、現状の日本の経済成長率を考えると、所得代替率、つまり年金の受け取り額も目安となる50%を下回っており、今後は年金世代の生活水準の低下が予測されるなど、年金の持続可能性が危ぶまれる。

さらに、国の貸借対照表には、これら将来に必要な年金の支払い金(約3480兆円)、国民より徴収が予定されている保険料(約2400兆円)については計上されていない。表10の通り、仮に計上すると年金債務は約959兆円となる。年金の持続可能性については別途詳細な検討を行いたい。

6.最後に

日本の国家財政の危機については、私はこれまで何度もこの「ニュース屋台村」で取り上げてきた。しかし今回の新型コロナウイルス禍によって、ついに日本の財政破綻が来年以降に現実の出来事になる可能性が出てきた。日本政府はこの危機を国民に早急に知らしめるとともに、血を流す歳出削減策を実行する必要がある。一方で、新型コロナ禍をきっかけにして変わる新たな産業構造を先取りし、先進的な規制緩和と構造改革に着手しなければならない。日本に残された時間は長くない。

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