п»ї 「戦う覚悟」を政治家が叫び始めた 『山田厚史の地球は丸くない』第244回 | ニュース屋台村

「戦う覚悟」を政治家が叫び始めた
『山田厚史の地球は丸くない』第244回

8月 18日 2023年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

果たしてこれを「放言癖のある年寄り政治家の妄言(もうげん)」と片付けていいのだろうか?

訪問先台湾での麻生太郎自民党副総裁の発言である。

「日本、台湾、米国をはじめとした有志国に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている。戦う覚悟だ。お金をかけて防衛力を持っているだけではダメなんだ。いざとなったら使う。台湾防衛のために」

台湾当局に招待され、内外の政治家や外交関係者を集めた席でのスピーチだった。

「台湾海峡の平和と安定は、わが国はもとより国際社会の安定にとって重要な課題だ。 最も大事なことは、台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないことだ」と言いつつ、そのための抑止力として日・台・米の結束を強調した。「抑止力は能力(戦力)がいる。そして、力を使うという意思を持ち、それを相手に教えておく。その三つがそろって抑止力になる」と語った。

◆個人の発言ではなく「日本政府の基本方針」

中国が攻めてきたら日本は米国とともに戦う、と言わんばかりの「勇ましい」演説だった。喜んだのは米国だろう。「平和憲法」を盾に戦争に加わることがなかった日本が、台湾有事に参戦を表明したに等しい。中国に向かって「日本は台湾防衛の一翼を担う」と言ったも同然である。麻生氏は、さぞ高揚したに違いない。

日本は1948年の日中友好条約で「一つの中国」の立場をとり、北京政府を統治者と認め、北京と対立する台湾とは外交関係を持たない。首相や外相が決してできない「台湾を応援する発言」を、政府から離れているが現役政治家の元首相が代わりに言った、という構図である。

同行した鈴木馨祐(けいすけ)元外務副大臣はBSフジの番組で、こう明かした。

「麻生太郎衆議院議員個人の発言ということではなくて、自民党副総裁という立場での講演なので、当然これは政府の内部も含めて、調整をした結果のことです。少なくとも日本政府としてのラインです」

日本政府とは事前に調整済み、で外交方針から逸脱していない、という主張だ。松野官房長官は「政府は預かり知らぬこと」とトボけたが、元首相の演説である。北京政府を刺激するのは間違いない。岸田首相は年内に中国の李強首相と会談する段取りを探っている。演説原稿は首相官邸や外務省に回り、調整が入ったはずだ。それは政府内の内緒の話で、日本が米国と一緒の台湾防衛に加わることが「日本政府のライン(基本方針)です」と元外務副大臣がテレビでしゃべる、というのは完全なフライングである。

何よりも不可解なのは「台湾海峡で衝突が起きたら、日本は参戦し武力を使う」という国民の運命を左右しかねないことを誰が、どこで決めたのか。国会で議論されたこともなく、官邸や外務省で話し合われていたとしても、国民は預かり知らぬ話だ。

自衛隊には「専守防衛」という原則がある。日本は憲法で「戦争放棄」を謳(うた)っている。自衛隊は国土と日本人を守る戦力だ。台湾防衛は自衛隊の任務ではない。

麻生氏はアニメ「ONE PEACE」の主人公ルフィーを引き合いにして、「仲間を裏切らないことの大切さ」を台湾で語った。基本的人権や法の支配など共通の価値観を有する台湾は「『仲間』だ。攻撃を受けたら助けるのは当然のこと」という理屈である。

◆世界の覇権めぐる攻防が背景に

台湾は「仲間」かも知れないが、では中国は「敵」なのか。日本は中国と「友好条約」を結び、唯一の政府としている。北京政府と台湾の対立や協調は、中国の内政問題とされてきた。

対立しながらも海峡を挟んだ中台の往来は盛んで、中国本土に渡って手広くビジネスをする台湾人は少なくない。「平和的統一」は古くからの懸案だが、台湾の一部にある「独立」には北京は「決して許さない」という姿勢を表明し、「独立の動きがあれば武力侵攻も辞さず」と主張してきた。

何もしなければ独立を容認したことになる、ということである。しかし、こうした「悩ましい問題」は今に始まったことではない。統一問題は機が熟すのを待つ、という「先送り状態」になっていた。緊迫感が一気に広がったのは2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が米上院軍事委員会の公聴会で「6年以内に中国は台湾に侵攻する可能性がある」と証言したのがきっかけだった。

中東からアジア太平洋に軸足を移した米軍は、中国の軍事的膨張への警戒感を高めた。

背景には、世界の覇権をめぐる攻防がある。戦後、冷戦期を含め世界の支配者だった米国は、21世紀に入って繁栄にかげりが見えた。14億の人口を抱え成長路線を爆進する中国が米国にとって代わる勢いを見せ、米国は危機感を高めるようになった。台湾海峡は覇権争いの発火点になりかねない状況となっている。

米国は自国の軍隊だけでは中国の膨張を抑えられない、と判断し、日本やオーストラリアなどを巻き込んだ防衛体制の構築を急いでいる。とりわけ日本への期待は大きい。防衛費をNATO(北大西洋条約機構)並みにGDP(国内総生産)の2%へと拡大し、中国を標的にするミサイル網を米軍の代わりに配備させた。米国が売りつけたミサイルや戦闘機で中国に対する軍事バランスの補強を狙っている。

◆国外で表明し既成事実化する「本音」

そうした中で麻生元首相が「戦う覚悟」を強調した。日本の国民にとって晴天の霹靂(へきれき)だった。日本の抑止力を台湾防衛のために使う、という外交・安保の方針の大転換である。憲法違反にもなりかねない。麻生元首相のような考えをする人は国内にも少なからずいる。それは、あくまでも個人的な考えであって、政府の見解ではない。

「台湾防衛のために自衛隊を使う」と言うなら、憲法を改正し、防衛戦略を書き換えることが必要になる。

麻生太郎は衆議院議員である。公務員として憲法遵守(じゅんしゅ)義務がある。その立場を承知の上で台湾に行き、外交安保政策の大転換を自民党副総裁としてぶち上げた。

なぜメディアは騒がないのか。「また、麻生さんだ」「いつもの放言癖がまた出た」「目立ちたがり屋だから」など、敢えて相手にしないことが「大人の対応」であるかのような雰囲気である。

重大問題を国内で議論せず、外国で表明し「日本の本音」を伝える。「国際的な約束事」にすることで「既成事実」が進んでゆく。憲法に触れる、とされてきた「集団的自衛権」も、先にアメリカで表明し「国際公約」のようになってから、憲法解釈の変更がなされた。憲法9条の空洞化は、いつもこの手法だ。アメリカと約束し、歓迎され、既成事実が積み重ねられ、最後が解釈変更。自衛隊創設も海外派兵も集団自衛権も。今度は「専守防衛」の破棄である。

首相を筆頭とする公務員が憲法を踏みにじる歴史が積み重ねられてきた。日本は法治国家なのだろうか。(文中敬称略)

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