п»ї IR汚職、国会議員の職務権限―本丸に手をつけない特捜とカジノの闇 『山田厚史の地球は丸くない』第155回 | ニュース屋台村

IR汚職、国会議員の職務権限―本丸に手をつけない特捜とカジノの闇
『山田厚史の地球は丸くない』第155回

1月 17日 2020年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

元内閣府副大臣でカジノを含む統合型リゾート(IR)事業担当だった秋元司衆議院議員が収賄容疑で再逮捕された。他にも5人の衆議院議員が中国企業から現金を受け取っていた。事件は北海道で起きた。人口が2千人を割り、消滅危機がささやかれる留寿都(るすつ)村を巻き込んだ統合型リゾート構想はあっけなく萎んでしまった。その影で飛び交った現金。こうした動きは各地で噴き出るカジノ騒動の一角ではないのか。

◆見えてきた幕引きのシナリオ

カネを配ったのは中国・深圳でオンラインカジノを営む「500ドットコム」という企業だ。インターネットを利用したカジノの取り締まりに中国政府が乗り出したため海外に活路を求め、リアルなカジノの解禁に沸く日本に目を付けた。

攻略できそうな自治体に狙いを定め、影響力のありそうな政治家にカネを配った。中国ではありそうな手口だが、明け透けなやり方だった。違法に持ち込んだ札束をこれ見よがしに掲げる写真をネットにアップ。国税・検察の監視体制であえなく一網打尽になってしまった。

秋元議員には、前回衆院選の直前である2017年9月、現金300万円が議員会館で手渡しされ、さらに200万円が同じ月に振り込まれている。12月にはプライベートジェットで深圳、マカオに招待された。白須賀貴樹(しらすか・たかき)衆議院議員(自民)、勝沼栄明(かつぬま・しげあき)前衆議院議員が同行した。

工作資金を受け取ったのは秋元議員だけではない。自民党では前防衛相・岩屋毅(大分3区)、中村裕之(北海道4区)、船橋利実(ふなはし・としみつ、比例北海道)、宮崎政久(比例九州)に、日本維新の会は下地幹郎(しもじ・みきお、比例沖縄)の各議員にそれぞれ100万円ほどが配られていた。

このなかで「500社からの授受」を認めているのは下地議員だけ。宮崎議員はカネを受け取ったことを否認。中村議員と船橋議員は、札幌の観光会社である加森観光(加森公人会長)からの寄付で中国企業からの献金とは知らなかった、と主張している。岩屋議員は「中村議員の後援会で講演した謝礼として受け取った」と主張した。

新聞報道によると「(カネを受け取っていた)5人に職務権限がいないことなどから、特捜部は立件が難しいと判断している模様だ」(1月15日付、朝日新聞)という。国会議員にカネがばらまかれた「IR疑惑」は、担当副大臣だった秋元議員を起訴するだけで幕引き、というシナリオが見えてくる。

だが、カジノ絡みで業者からカネをもらったのは、果たしてこの6人だけなのか。観光業者を仲立ちして寄付として受け取ったり、接待観光に興じたり、政治家の脇の甘さには呆れる。留寿都村はカジノ誘致では「圏外」とされたほどの傍流だ。兆円単位事業が取りざたされる地域では大掛かりな「ロビー活動」が展開されているのではないか。

◆「役に立つ」と見たから贈られたカネ

20日から始まる通常国会ではカジノが争点になるのは必至だ。火に油を注ぐような「疑惑拡大」にさせない、という政権の思惑が感じられる。

カネの授受が犯罪になる「賄賂(贈収賄)」は、カネを受け取った側が相手(カネを贈った側)に、利益が出るような便宜を図ってやれるような「職務権限」があるか焦点になる。IR担当の副大臣だった秋元議員は、複合型リゾートの法案や政令を立案する職務にあった。副大臣のさじ加減で業者に便宜を図ることが可能な立場といえる。本人が「もらったカネは講演料だ」と言い張っても、1回200万円の講演料は高すぎる。賄賂性がある、と見ていいだろう。

では、カジノや複合型リゾートに関係する政府の職務についていなかった5人の国会議員は「カネをもらっても違法性はない」でいいのか。職務権限がないから「カネを渡しても役に立ちませんよ」ということなのだろうか。

危ない橋を渡って1500万円もの日本円を中国から持ち込んで国会議員に配ったが、「6人のうち5人は無駄な献金」だったのか。

カネを渡す側は、「役に立つ」と見たからカネを贈った。その判断に狂いはなかった、と思う。

100万円の授受を認めた下地議員は、沖縄では政府による振興策や公共事業に影響力のある有力者だ。政権でカジノ政策の元締めをしている菅義偉(すが・よしひで)官房長官と近い。菅長官は沖縄の普天間基地移設問題も担当している。米軍基地の跡地にカジノを中心とした複合型リゾートを、という構想は下地議員の周辺から出されている。

中村議員、船橋議員は北海道選出で地元に影響力がある。留寿都村をIRの候補地に押し上げることへの力添えが期待できる。

5人の中で最重要人物は岩屋議員である。超党派議員でつくるIR議員連盟の幹事長だった。

カジノ解禁の突破口は2016年12月に成立した「IR推進法」だ。正式には「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」というが、自民・維新の会・次世代の党が提出した議員立法だった。

カジノ行政のど真ん中にいた岩屋IR議連幹事長

日本で法律といえば、担当する省庁が企画立案する「政府提出法案」がほとんどだが、政府が手に負えない(従来の政府方針とは異なる)政治的な課題は、「議員立法」として国会にかけられる。IR推進法案は、刑法で違法とする賭博をカジノに限って「違法性を阻却する」ための法律なので、議員の手によって法案化された。中心となったのがIR議連、まとめ役が幹事長の岩屋議員だった。「職務権限がない」どころか、カジノ行政のど真ん中にいたのが岩屋氏である。

筆者は2015年に岩屋議員に「カジノ解禁への取り組み」を取材したことがある。AERA(朝日新聞出版が毎週発行する週刊誌)誌上に写真入りでインタビュー記事が載っている。「IRは当面、2ないし3か所」「すくなくとも1か所5000億円を超える投資になる」「パチンコに毛の生えたようなものにはしない」などと基本方針を語った。

違法だったカジノは政治主導で「成長戦略」になった。権限を握るのは政権中枢と国会多数の与党・自民党。権力の中枢のどこかで「カジノ解放」の方針が決まり、競輪競馬のような公営賭博ではなく、外資が参入する「民営賭博」、過当競争で共倒れしないよう「営業できるのは2、3か所」という寡占体制が申し合わされた。

「基本方針」を決めたのは政治であり、その実行部隊がIR議連だった。5人は皆、議連のメンバーである。とりわけ議連幹事長の岩屋議員にカネが渡っていたことは大問題である。特捜が「職務権限がない」と言っているとしたら、「カジノ疑惑」の本筋には手をつけません、と言っているようなものである。

それとも、カネがIR議連の中枢に渡っていることをメディアにリークした上で、捜査を断念し、政権に「貸し」を作ろうというのだろうか。

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