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菅版「デジタル庁」は大丈夫か?-侵入する犯罪者、情報握る権力者
『山田厚史の地球は丸くない』第171回

9月 11日 2020年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

住まいが変わったことで、不動産登記の修正が必要になった。登記簿の住所変更が必要、というのだ。申請書は法務局もホームページにある、それに従って手続きせよ、ということである。ホームページをたどると、「住所変更届」の用紙があった。キーボードを叩いて入力を試みたが反応しない。問い合わせると、「用紙をプリントアウトし、書き込んで法務局に持ってきて」という。

「ネットで届け出はできないのですか?」と聞くと、「受付は窓口でのみ行う」。

言われた通りに用紙を打ち出し、新たな住所を書き、ハンコを押して、東京都新宿区の法務局へ。2千円の収入印紙を貼って提出した。

「手続き完了まで1週間ほどかかります。7日後に確認書を取りに来てください」。また足を運ぶのか、と思い、「住所変更は住民票の届けを半年前にしています。いまさら何を確認するのですか?」と聞くと、「受け付けた以上、確認が必要なので」とわからないことをいう。住所変更は、移転前の自治体、移転先の役所に足を運ぶだけでなく、法務局に2度も出向かなければならない。

◆飛躍的に進んだ「警察情報のデジタル化」

インターネットが普及した今、新しいやり方はないものか、と思っていた時、自民党総裁選で菅義偉(すが・よしひで)氏が「デジタル庁創設」をぶち上げた。

「その通り!」とひざを打ちたいが、その一方で「今まで何をしていたの」と思った。「アベスガ政権」は、行政のデジタル化を考えていたのだろうか。象徴的なのが、「パソコンを使えないデジタル担当相」と揶揄(やゆ)された竹本直一IT政策担当大臣(特命担当大臣)(79歳)だ。竹本IT担当相は今年5月に辞任するまで、自民党はんこ議連(日本の印章制度・文化を守る議員連盟)の会長を務めていた。この人にデジタル行政を任す感覚と、突如ぶち上げた「デジタル庁」がなんともちぐはぐに思えた。

そんな時、NTTドコモが運営する銀行のドコモ口座で重大な欠陥が発覚した。預金者が知らないうちに第三者が勝手にドコモ口座を作り、虎の子の預金を吸い出していた。

「便利なものは危ない」というネット社会の危うさを警告するような事件である。道路や鉄道などのインフラは社会の効率化に欠かせないが、犯罪者も利用する。情報・通信という新たなインフラも新たな犯罪の道具になることは避けられない。犯罪をいかに予防するかは社会の大問題だ。

「犯罪予防」で思い浮かぶのは、「防犯カメラ」のすさまじい普及だ。最近の捜査は、まず周辺の「カメラ」から手がかりになる映像を探すことから始まる。並行して、「顔認証」「DNA照合」などのデジタル技術が捜査方法を一変させた。この分野は、人権意識に乏しい中国が先進国だ。日本は「行政のデジタル化」は甚だしい後進国だが、「警察情報のデジタル化」はアベスガ政権で飛躍的に進んだ。

◆「情報」こそ権力者の「うまみ」

自民党総裁が決まれば、安倍首相に代わる首相が選任され、閣僚も一新され、政界の関心は菅内閣の顔ぶれに集まっている。閣僚人事となると、いつも話題になるのが「身体検査」だ。就任早々スキャンダルが噴き出て辞任する閣僚がいて、「身体検査が甘かった」などと論議になる。

身体検査を担当するのは、内閣官房(別名・首相官邸)にある内閣情報調査室だ。政治家、官僚、メディア関係者などの「素行」に関わる情報を集めている、といわれる。こうした情報を一手に握るのが内閣官房長官だ。菅氏はその職の「史上最長記録」を保持している。

政権に就けば膨大な国家予算を差配することができる。権力者の「うまみ」は納税者が負担する「カネ」を握ること。カネは政権を支える武器にもなる。

高度成長の頃は、右肩上がりで増える税収をどこに配るかが権力者の強みだった。低成長の今、カネはかつてほどのうまみはなくなったが、「情報」という新たな武器が、権力を握る者の「うまみ」になっている。

政敵を倒すには、カネより情報という時代だ。税金を使って集めた情報が、密かにメディアにリークされ、「スキャンダル」となって流れる。「情報テロ」は頻繁に起きている。

加計学園の獣医学部の認定では、文部科学省が慎重だった。「官邸最上層部の意向」と言っても応じなかった。そんな時、当時文科次官だった前川喜平氏は、杉田和博官房副長官に呼ばれ、「出会い系クラブへの出入り」を指摘された。

後に、加計学園を巡る官邸の関与が問題になり、退職した前川氏が事実を公表しようとした直前、読売新聞から取材が入り、同時に官邸官僚の和泉洋人首相補佐官から「すぐに会いたい」という電話が入った。

スキャンダル情報を脅しに、「告発」を阻止しようとした、とみられても仕方ない動きだった。杉田副長官も、和泉補佐官も菅長官の配下である。菅氏に付きまとう暗いイメージは、内閣情報調査室に集まる情報を握っていることと無縁ではない。

安倍首相がほぼ毎日、内閣情報官に会って報告を受けているのも、「情報が武器」という時代の表れだろう。

◆「便利なものは危ない」という警鐘

「デジタル庁」と聞いて、お役所の非効率が少しは改善される、と期待したいが、それだけだろうか。

デジタル庁が何をするのか、何ができる組織なのか。権力者にとって有利なことは何か。何が集められているか国民は知ることができるのか。

「真理は細部に宿る」というが、細部にわたる詰めが必要になることは言うまでもない。

「便利なものは危ない」の例をもう一つ。愛媛県警の裏金作りを内部告発した警察官から聞いた話だ。

「裏金作りを依頼され、拒否したら、第一線から外され、交通管制センターに異動させられた。仕事はなく、毎日交通情報を眺めていたら、特定の車両がナンバー登録され、動きを追尾されていることがわかった。あちこちに設けられているNシステムのカメラで追っているのですが、なんと私のクルマのナンバーまで登録されていた。日頃の行動が監視されていた」

Nシステムは渋滞情報を感知するものだが、事件車両の捜索にも使う。問題は誰のクルマを追尾するか。誰が何を基準に監視しているのか。登録された本人がたまたま発見して驚いた、という話である。

新しいインフラができれば、犯罪者は侵入を試みるだろう。そして情報を握るのは権力者だ。デジタル庁。マイナンバーを軸に個人情報を束ねることが可能になる。あなたは、菅さんに個人情報を託すことはできますか。

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