п»ї 「面会拒否」に込めた市長のプライド-原子力半島は「核のゴミだめ」? 『山田厚史の地球は丸くない』第178回 | ニュース屋台村

「面会拒否」に込めた市長のプライド-原子力半島は「核のゴミだめ」?
『山田厚史の地球は丸くない』第178回

12月 18日 2020年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「2050年温室効果ガス実質ゼロ」。「カーボンニュートラル」と呼ばれる政策が打ち出され、エネルギーをめぐる動きが慌ただしさを増している。避けて通れないのが、原子力発電をどうするか。そんな中、「原子力半島」と呼ばれる青森県の下北半島で、使用済み核燃料の「中間貯蔵」をめぐって地元自治体と電力業界との間でもめごとが起きている。

◆中央は決まったことを押し付けてくる

宮下宗一郎むつ市長は12月15日、電気事業連合会(電事連)からの面会要請を断ったことを明らかにした。14日に電事連から電話があったが、面会の要件を尋ねても「内容は言えない」と明かしてもらえなかったという。

「誰が来るのか、何の話かもわからないでは(面会のための)日程調整はできない。物事が結論ありきで進むのはよくない」と語った。

発端は、10日の新聞各紙に載った「中間貯蔵施設の共同利用を検討-電事連」の記事だった。

「原子力発電所の使用済み核燃料を一時保管する青森県むつ市の中間貯蔵施設について、大手電力会社でつくる電気事業連合会が、原発を持つ各社で共同利用する案を検討していることがわかった。施設の有効活用に加え、老朽原発の再稼働をめぐって福井県から中間貯蔵施設の県外候補地を示すよう求められている関西電力を支援する狙いがある。」(朝日新聞)

宮下市長は3年前のことが蘇ったのだろう。似たような出来事があった。何の相談もなく、電力業界と政府で話を決め、地元は新聞報道で初めて知った。

「結論ありきで進むのはよくない」という市長の言葉に、大事なことはいつも中央で決まり、現場である「地方」はカヤの外。決まったことを押し付けてくる中央のやり方に、市長は強い違和感を抱いている。

原子力発電所から出る使用済み燃料の貯蔵は、政府や電力業界にとって頭の痛い問題だ。「使用済み」でも高熱を発し、放置するとメルトダウン(炉心の溶融)を起こす。水を循環させるプールに沈め、厳重に管理することが必要だ。いまのところ原発敷地内に「仮置き」されているが、遠からず満杯になる。3・11東京電力福島第一原発事故では、4号基の隣にあった燃料プールが崩壊寸前となり、大惨事が起きかねない状況だった。

原発は「トイレのないマンション」と呼ばれるように、核廃棄物の処分方法は決まっていない。原発を抱える自治体は「使用済み燃料は県外に」と電力会社の尻を叩く。最終処分地は決まっていないが、とりあえず運び出し、一時的に(50年くらい)保管するのが「中間貯蔵施設」だ。

◆地域に染みつく原子力行政への不信

東京電力と東海村の日本原子力発電はむつ市を口説き落とし、2005年10月、「使用済み核燃料中間貯蔵施設に関する協定」を締結した。むつ市・青森県と電力2社による協定だが、2017年、関西電力が相乗りすることが新聞で報じられ、むつ市は態度を硬化させた。中間貯蔵地が決まらない関電は、むつ市に相談もなく「共同利用」を画策していたのである。

むつ市には原子力船「むつ」の母港があった。横浜が母港になるはずだったこの船は、地元の了解を得られずやむなく、むつ市にやってきた。漁民の反対を押し切って試験航海に出たものの、放射線漏れを起こした。1973年のことである。大騒動になり、やがて「むつ」は廃船になる。安全性に問題のある原子力船を貧しい地方に押し付けた原子力行政への不信は地域に染みついている。

中間貯蔵の受け入れにも「反対」はあったが、原発マネーへの期待はぬぐえず、やむなく受け入れた。貧しい地方に、札ビラで頬を叩くように「迷惑施設」を押し付ける。そんなやり方に、下北半島の人々は複雑な思いを抱いてきた。

◆抵抗があっても押し切れる

今回は、業界団体である電事連が表に出ているが、裏に政府と関電の思惑が働いている、と関係者は見ている。きっかけは「2050年カーボンニュートラル」だ。風力や太陽光など再生可能エネルギーだけでは化石燃料の穴を埋め切れない。経済産業省は、原発再稼働で火力発電を代替しようと考えている。

政府の方針を受け、関電は休止中の原発を再稼働する構えだ。ところが地元の福井県は、再稼働の条件に「使用済み燃料の県外搬出」を挙げている。関電は、何としても中間貯蔵地を確保したい。

原子力規制委員会は今年11月、むつ市にある、原発の使用済み核燃料を一時保管する中間貯蔵施設「リサイクル燃料備蓄センター」について、安全対策の基本方針が新規制基準に適合すると認める審査書を正式決定した。電事連は、ここを業界全体の共用施設にする方向で地元を説得する考えだ。しかし、むつ市にとって電事連は、協定外の第三者でしかない。いきなり面会を求め、業界の要請を伝えたいのだろうが、「筋が違う」「身勝手」というのが地元の思いだろう。

電事連の池辺和弘会長(九州電力会長)は12月17日には梶山弘志経産相に申し入れ、「業界の総意」を伝えて全面的な賛意を得た。18日には電事連の清水成信副会長(中部電力副社長執行役員待遇)が青森県の三村申吾知事と面会した。

むつ市長との面会は「中央で決め、地元の同意を得る」という筋書きに沿ったものだ。話はすでに、電力業界と経産省でついている。あとは手順を踏むだけ。抵抗があっても押し切れると考えているのだろう。いままでそうしてきた。

◆抵抗しても最後はカネで解決

産業がなく見捨てられたような下北半島には、他の地域で受け入れてもらえない原子力施設が集まっている。MOX燃料(使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを、ウランとまぜた混合燃料)を利用する大間原発、東北電力と東電がそれぞれ建設中の東通原発、六ケ所村には使用済み燃料からプルトニウムを取り出す核燃処理場など。自然に恵まれても産業がなく、人口はまばらで繁栄から取り残された地域。さながら「原子力半島」。抵抗しても最後はカネで解決、というやり口が定着している。

「面会拒絶」はせめてもの抵抗のように見える。貧しさに耐える人々を軽く見る「中央」への複雑な思いは、原発反対派・容認派を超えて共有されていることを強者はどれほどわかっているだろうか。

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