п»ї 「社説」に渦巻く乱気流 朝日新聞への取材てん末記『山田厚史の地球は丸くない』第190回 | ニュース屋台村

「社説」に渦巻く乱気流 朝日新聞への取材てん末記
『山田厚史の地球は丸くない』第190回

6月 11日 2021年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

東京五輪に関する朝日新聞の「ダブルスタンダード(二重基準)」について前回、触れた。「中止」を主張する社説と、オフィシャルパートナー(OP)として五輪協賛を続ける経営が矛盾するという指摘は、ネットメディアを中心に広がっている。朝日の社内では「社説」に風当たりが強まっているという。改めて考えてみたい。新聞の社説とは何だろう。

私は、朝日新聞社が東京五輪の協賛企業になっている事実を確認するため、朝日の広報室に「スポンサー契約書(OP契約書)」の開示を求めた。併せて、「協賛企業になったら、言論活動に影響が出ませんか?」などの疑問を投げかけた(5月21日)。広報室から回答が来たのは5月26日。「中止」を主張する社説が出たその日だった。その後のやりとりを含め、朝日新聞の回答には、納得のいかないことが多い。新聞のあり方を考える人たちの参考になればと思い、取材経過をここに公開する。

◆取材の端緒

五輪報道に歯切れの悪さを感じ、巷間(こうかん)言われるように「スポンサーになっていることが足かせになっているのでは」と思い、朝日の関係者に聞き回った。ところが誰一人「オフィシャルパートナー契約書」を読んだことがないというので、それなら「実物」に当たる必要があると思い、5月21日、広報室を訪ねた。

「契約書を見せていただくことは可能ですか」と問うと、広報室長は「山田さん、それは取材ですか?」と尋ねるので、「ジャーナリストが聞いていることは、全て取材です」と答えると、「それなら文書でお願いします」と言われ、疑問に思っていることをまとめ、以下の質問項目を広報室長にメールで提出した。

朝日新聞社が東京五輪のオフィシャルパートナー(以下OP)になったのは事実ですか? 事実だったら、いつ契約したのですか。②なぜOPになったのですか。経営上の利点はなんですか? ③東京大会開催への協力または大会への啓発活動はOP契約書に入っていますか? 差し障りなければ、スポンサー料金など、OPとしての「順守事項(義務?)」を教えてください。④ OP契約書の開示は可能ですか? 読者に開示するお考えはありますか? ⑤自由な言論が命である報道機関が、賛否が分かれる公的なイベントに「スポンサー」として加わることに「報道機関として好ましくない」という意見があります。これについてどうお考えですか? ⑥五輪のスポンサーでありながら「五輪中止」を主張することは可能でしょうか? ⑦「経営と言論の分離」という考えがあります。経営の判断でスポンサーになった東京五輪に、編集サイドが制約を受けることはないと言えるでしょうか?

◆回答が来たのは5日後の26日

【回答】まとめてお答えさせていただきます。

26日付朝日新聞朝刊紙面に「今夏の五輪開催 中止の決断を首相に求める」との内容の社説を掲載位しました。これは朝日新聞社としての声明ではありません。オフィシャルパートナーとしての見解は、朝日新聞社のコーポレートサイトに掲載しました。そちらにもありますように、オフシャルパートナーとしての活動と言論機関としての報道は一線を画しています。五輪に関わる事象を時々刻々、公正な視点で報じていくことに変わりはありません。オフィシャルパートナーといての活動は、新型コロナウイルスの感染状況などを注視し、続けてまいります。なお、オフィシャルパートナーに関する契約書については、守秘義務があり開示できません。 

 再質問しました(5月26日)】

回答、いただきました、ありがとうございます。わからないことがあります。教えていただけないでしょうか? 更問(サラトイ)です。

社説は、「社の声明ではありません」とあります。社説は、朝日新聞の考えを示すもの、ですよね。論説委員室(論説主幹)は、社長直属と聞いています。日々のニュースを判断する編集局とは一線を画し、経営者の管轄が及ぶ「社論」を世の中に発信する部署のはずです。読者は、これが朝日新聞の考え、と受け取るでしょう。

オフィシャルパートナーは続ける、というウェブサイトの説明は読みました。これが「社の声明」でしょうか? 釈明、立場の説明、ですね。これが「五輪開催について朝日新聞の声明」ですか? では、社説とは、朝日新聞にとって何なのでしょうか? 私は、編集局を超えた朝日新聞丸ごとの見解を示すものと理解していましたが、間違いでしょうか?

◆広報室長に改めて6点を質す

昨日いただいた回答に「更問」をさせていただきましたが、受け取っていただけたでしょうか? 不明な点、理解が及ばない点があるので、重ねて質問させてください。御社のポータルサイトに、以下のように記載されています。

「2016年1月に大会組織委員会とオフィシャルパートナー契約を結んだことをお伝えした際、「オフィシャルパートナーとしての活動と言論機関としての報道は一線を画します」とお約束しました。朝日新聞が五輪に関わる事象を時々刻々、公正な視点で報じていくことに変わりありません。社説などの言論は常に是々非々の立場を貫いています。今後も引き続き紙面や朝日新聞デジタルで、多角的な視点からの議論や提言に努めます」

質問です。

①「オフシャルパートナーとしての活動と言論機関としての報道は一線を画す」とありますが、「一線を画す」とはどういうことを意味するか、具体的に説明してください。

東京五輪の協賛企業として五輪関連の営業行為で収益を得る「事業活動」と、東京五輪開催の意義を疑う言論活動は。場合によっては「利害相反」さえ起こりかねない問題を内包しています。朝日新聞は、どのような措置を講じて「一線を画している」のでしょうか。

②朝日新聞は、オフィシャルパートナーになった理由を「オリンピック憲章にうたわれている『スポーツを通じ、若者を教育することにより、平和でより良い世界の構築に貢献する』との理念に共感したからです。」としています。ところが、5月26日の社説は「憲章が空文化しているのは明らかではないか」と指摘しています。社内に、いろいろな意見があっていいと思いますが、朝日新聞社としては、どう考えているのですか?

論説委員室は社長の直轄です。社の主張は「憲章は空文化している」ということなのか。それは、社の一部分である「論説」の意見でしかなく、経営(取締役会)は、別の見方をしている、であるがゆえに「一線を画している」ということなのでしょうか。ということであれば、朝日新聞は「ダブルスタンダード」、東京五輪については二重基準で、経営と言論を使い分けている、ということでしょうか?

③2016年に、オフィシャルパートナーになった時は、今のような混乱が起こるとは考えていなかったでしょう。広告や事業という収益部門の事情からスポンサーになったのでしょうが、契約は 2020年12月までですよね。朝日新聞は、五輪がコロナで1年延長が決まった後になって、スポンサー契約を更新(延長?)されたのですか?

その際、社説が主張するような状況は、予想できたと思います。「こんな状況でスポンサーは契約を更新するのか?」と話題になりました。なぜ、その時に 「延長・更新」という判断をされたのですか?

スポンサーになっていることが、言論機関の仕事と相反することになりかねない。賢明な経営者や編集幹部はわかっていたと思いますが、社内でどんな議論をされたのでしょうか?

④5月26日付の「回答」で、スポンサー契約は「守秘義務があるので公開できない」とありました。朝日新聞は、株式会社ですが、報道機関であり、社会に開かれた「公共財」でもあると思います。スポンサー契約にどんな条項が盛り込まれているか、読者は「知る権利」があります。秘密協定でもあるまいし、報道機関の活動や表現に関わる「約束事」「遵守(じゅんしゅ)事項」がどうなっているのか。「隠す」のではなく、読者に「開示する」のが、朝日新聞に責任ではないでしょうか?

⑤朝日新聞は「パブリックエディター」を設け、読者や世の中の声を紙面に反映する制度もあります。パブリックエディターは、今回の社説と「東京2020オフシャルパートナーとして」という声明文の関係をどう考え、経営や論説に説明を求めるのか、その点も知りたいと思います。

「二重基準」を示す二つの文書をどう考えるのか、パブリックエディターに問いたいと思います。よろしく。

以上、昨日の「更問」と合わせ、「6つの疑問」に回答をお願いします。今月中に、回答は可能でしょうか?

◆回答が来たのは1週間後(6月2日)

【回答】まとめてお答えさせていただきます。

  コーポレートサイトに掲載しましたのは、東京 2020 オフィシャルパートナー としての朝日新聞社としての見解で、五輪開催についての声明ではありません。社説は論説委員の合議でまとめています。報道機関である朝日新聞の言論のひとつです。

 パブリックエディターには、読者代表の立場から報道を点検し、本社編集部門に意見や要望を伝える役割を担っていただいています。個別の案件についてのパブリックエディターの見解を社外へ公表することはいたしておりません。

回答は以上となります。ご理解のほど何とぞよろしくお願い申し上げます。

………………………

「ご理解のほど何とぞよろしく」と言いながら、理解してもらおうとする誠実な思いが感じられない回答だった。守り一辺倒、だから聞いていることに、何も答えない。菅首相の答弁を批判できないな、と思った。

入社した時の研修では「社説は社長直属の論説主幹が朝日新聞の主張を書く社論だ」と教えられた。いつから「朝日新聞の言論のひとつ」になったのだろう。

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