п»ї 安保大改定+防衛増税 ならば解散して民意問え 『山田厚史の地球は丸くない』第226回 | ニュース屋台村

安保大改定+防衛増税 ならば解散して民意問え
『山田厚史の地球は丸くない』第226回

11月 25日 2022年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「法人税」の文字が消えた。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の最終報告書から、原案に増税の候補として挙げられていた「法人税」が落とされた。自民党や経済界から「名指しの増税」に異論が噴き出し、首相官邸の意向を踏まえて修正されたという。圧力がかかれば表現を緩める。その程度の「都合よく使える有識者」の集まりだったことが分かってしまった。

国力と防衛力を総合的に考えてもらう。そのために見識ある人を集める、というのが有識者会議の趣旨。研究者、官僚、マスメディア、金融などの分野で功成り名を遂げた10人の知恵が提言としてまとめられる、という建前だった。

安保政策を転換する、防衛予算を増やす、そのために増税をする。嫌がられることを直言できるのは「有識者」だから。賢者だから厳しいことも言える、という権威付けがあった。

ところがどうだ。法人税を増税項目の一つとして例示したことが反発を受け、最終日の取りまとめで外してしまった。増税は、「幅広い税目による負担」という抽象的な表現にとどまった。

◆兵器購入目的の大衆課税に庶民は納得するか

日経新聞によると、「首相官邸が税制改正を協議中の与党に配慮して指示したとの見方がある」という。報告書がまとまる4日前に、日経は「提案原案」として「防衛費増 法人税など財源」という特報を一面トップに載せた。

法人税は原案に「成長と分配の好循環の実現にむけて多くの企業が国内投資や賃上げに取り組む中、企業の努力に水をさすことのないように議論を深めていくべきだ」と盛り込まれたことを報じた。この表現は法人増税が企業経営に負担にならないよう配慮を求めるもので、むしろ産業におもんぱかる書きぶりである。

財務省が検討しているのは、東日本大震災の「復興増税」のような方式だ。期間定め、所得税・法人税・住民税などの基幹税に薄く税率を上乗せし総額10.5兆円を調達した。念頭にあるのは法人税だけではない。有識者会議では所得税増税の声も上がった。にもかかわらず、原案が「法人税」だけ名指ししたのは、所得税や住民税など大衆課税を後景に隠すためではないか。法人税は利益が出ている企業だけが負担する。大企業の負担が大きい法人税を例示することで大衆課税の印象を和らげた。しかし、防衛費にはまとまった財源が必要になる。所得税・住民税の負担増がいずれ現実化するだろう。兵器を買うため、大衆課税に庶民は納得するだろうか。

◆日本の軍事増強は中国の軍事膨張を誘う

沖縄タイムスは社説(11月24日)で「消費税は3年前に上がった。賃金は上がらない中、物価は高騰し、介護保険や医療など社会保険料の負担も増えている。国民生活に直結する増税を提起するなら、衆院を解散して選挙で有権者の判断を仰ぐべきだ」と主張した。

有識者会議の事務局である内閣官房副長官補室は財務省の出先同然であることは前回(第225回)、書いた。担当の木原誠二官房副長官も藤井健志副長官補も財務官僚出身。財務省は防衛費の膨張に慎重だが、今の政治状況では、膨張を抑えることは難しい、と判断。次善の策として、「財源に国債を充てない」を突破されてはならない一線としている。

自民党内には「防衛国債」の主張があり、国債乱発で防衛費増額を果たそうと動く。これを封じるのが当面の課題だ。

まず歳出の切り込みを行い、足らない分を増税で賄う。この方針は有識者会議の報告書にしっかり書き込まれたが、そこで浮上したのが「防衛増税」である。沖縄タイムスの社説が指摘したように「防衛費を増税で賄うというなら解散して民意を問う」ことは当然である。

単なる予算の膨張ではない。米国から購入する射程の長いミサイルは攻撃兵器だ。日本が国是としてきた「専守防衛」を踏み越える。敵と見なすのは中国。敵地深くミサイルを打ち込める攻撃力を手にすることで「威嚇(いかく)による抑止効果」を狙う。いつでも攻撃できるぞ、という日本の軍事増強は、必然的に中国の軍事膨張を誘うことになるだろう。

◆有権者に賛否を問うのが筋道

成長力が弱まった日本が、中国との軍拡競争に耐えられるだろうか。歯を食いしばって努力すれば、圧迫されるのは医療・介護、子育て、教育、社会保障など暮らしまわりの行政サービスだ。増税で得た資金は、人々の生活の支えや人づくりにまず向けてほしい。

東日本大震災の時、多くの人から資金が寄付や支援金が被災地に注がれた。財政を通じて応援することに異論はなかった。困難な財政事情であるならば、身を切る覚悟で人々は復興増税に応じた。軍拡に同じ手法が使えるだろうか。

読売新聞が世論調査で防衛費増額に賛成した人(71%)に、その財源を問うたところ、「国債」が43%、「他の予算削減」30%、「増税」20%だった。増税してでも防衛費を増やしたい、というのは全体の14%に過ぎない。

増税で集めたカネがミサイル購入費として米国に流れる。社会保障など暮らしへの支援ならカネは国内で循環する。

年末に向け、日本の安全保障政策は大転換し、米国と共に中国を標的とした軍事強化へと動き出す。そのために増税する、ならば有権者に賛否を問うのが筋道だろう。

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