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国民の命を危うくする同盟―米の対中戦争で日本は最前線
『山田厚史の地球は丸くない』第229回

1月 13日 2023年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

ワシントンで13日(日本時間14日未明)開かれる日米首脳会談に先立ち、両国の外相・防衛相による日米安全保障協議委員会(2プラス2会合)が開かれた。これまで積み上げられたこととはいえ、日本の国民の命を危険にさらす「方針転換」が決まった。中国を「最大の戦略的挑戦」つまり「安全保障上の敵国」と規定し、日米が一体となって軍事的に対処することを約束したのである。

◆世界規模の対立構造打ち出す

11日発表された共同声明には、次のように書かれている。

・中国による現在進行中の取り組みは、地域及び世界に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起するとの懸念を表明。地域の安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力することを決意した

やさしく言うと(中国は地域の安全を脅かす厄介な存在になってきたから、日米は政治・経済・軍事などあらゆる面で協力して対抗する)

・日本は国家の防衛を強固なものとし、地域の平和と安定に貢献するため防衛力を抜本的に強化する決意を改めて表明した

同(日本は自国と周辺地域のために軍事力をものすごく強化しますと決意表明した)

・日本は戦略見直しのプロセスを通じ、ミサイルの脅威に対抗するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する決意を表明。米国は日本の決意を歓迎

同(日本は、これまで掲げてきた「専守防衛」を下ろし、ミサイルに対抗するためには「どんなことでもします」と決意表明したので、米国は「それはいいことだ」と喜んだ)

共同声明は、国民を驚かさないよう抽象的に書かれている。外交文書とはそんなものだが、文面に埋め込まれている基本姿勢は「日本は米国の意向に沿って、対中軍事最前線に立つ」ということだ。そのために次のような約束をした。

①中国を敵と見なして軍事力を倍増する

②日本は「守り」だけで「攻撃はしない」という「専守防衛」の方針をなし崩し的に破棄する

③日本は先制攻撃になりかねない「敵基地攻撃能力」を持つ中距離ミサイル網を配備すると表明し、米国は歓迎した

防衛費を倍増すれば、日本は米国、中国に次ぐ世界第3の軍事大国になる。世界の1位と3位が手を組んで2位を封じるという世界規模の対立構造が打ち出された。中国は脅威に感じ、反発するだろう。

◆台湾有事で駆り出される自衛隊

日米首脳の念頭にあるのは「台湾海峡を巡る有事」だ。中国が武力侵攻した時、日米は共同して対処する、という約束が交わされたのが共同声明の肝である。

有力シンクタンクである米戦略国際問題研究所(CSIS)が中国の台湾侵攻を想定した報告書を9日に公開した。24通りの「想定(シュミレーション)」を検討したところ、大半のケースで「米軍と日本の自衛隊の支援を受けた台湾が中国軍を撃退する」という結果が出た。だが「日米の勝利!」と簡単には喜べない結果だった。報告書は「高い代償を伴う」と指摘する。最大3週間に及ぶ戦闘で、在日米軍や自衛隊を含め数万人の死傷者が出る、と予測している。

米国にとって台湾正面は中国を抑え込む重要拠点だ。中国が侵攻したら「対処する」とバイデン大統領は公言している。米軍が動けば、米中激突となる。

ウクライナでは、バイデン大統領は「軍事介入しない」として、ロシアとの戦いはウクライナに任せ、武器や情報を供与する「後方支援」に回った。米国の青年の血が流れる事態を避けた、ということでもある。

台湾有事は「米中激突も辞さず」の構えだ。共同声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促した」とあるように、日米ともに「平和的解決」が大事だとしている。それでも「必要であれば対処するために協力することを決意した」とあるように、中国の出方次第では「軍事的対処」があることを示唆している。

だが、台湾海峡で万人単位の米兵の血が流れることが米国民に受け入れられるだろうか。米政府にとって悩ましいことだろう。そこで駆り出されるのが自衛隊という構図が、共同声明から透けて見える。

日本にとって台湾有事は「近隣の重大事」ではあるが「他人事」でもある。

日本は、中国の唯一の政権は北京政府であることを1972年に国交を回復した時から認めている。

「一つの中国」という外交方針で、台湾は中国の一部、という見解だ。仮に大陸が台湾を併合しても、それは「中国の内政問題」とされている。

さりとて台湾は、事実上の「国家」であり、それを武力で併合することは認め難い。国際紛争である。しかし、日本は「国際紛争を武力で解決することはしない」と憲法で決めている。

近隣の重大事である「台湾有事」に、日本が武力介入することは、憲法の平和主義が妨げている。しかも、日本が参戦すれば万人単位の血が流れる。

戦後、日本は平和憲法の下で、戦争で殺したり殺されたりした人は一人もいない国家として80年近くやってきた。台湾有事に参戦すれば、その構造は一気に瓦解する。

◆米には「超ありがたい日本の大転換」

日本政府は、昨年暮れ、「5年で防衛費43兆円」「敵基地攻撃能力を保持する」「アメリカから攻撃用ミサイル『トマホーク』を導入する」など、防衛戦略の大転換を決めた。だが、この「大転換」は、ワシントン発の「米軍の戦略転換」から始まった。

米上院歳出委員会の公聴会で2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は「向こう6年間に中国が台湾の武力侵攻する可能性が高い」と発言した。同司令官は、米国はロシアとの「中距離核禁止条約」に縛られ、中距離ミサイルを配備できなかった。そのため、台湾正面で中国との軍事バランスは著しく不利な状況にある。中国が武力侵攻した場合、抑えられない、という趣旨の証言を行った。「ミサイル予算をよろしく」という軍人の主張である。

「米中対立」へと時代は動き、米国は中東から北東アジアへと軍事の重点を変えつつあった。この年の9月には、アフガニスタンから撤退し、「ライバルは中国」が鮮明になる。そこで打ち出されたのが「在日米軍基地に攻撃用ミサイルを配備する」という構想だ。だが、中国に照準を定めるミサイルを日本に持ち込むには日本政府との事前協議が必要だ。政府に「ウン」と言わせるのは簡単だが、基地周辺の住民が反対する恐れがある。

陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の前例がある。北朝鮮のミサイルを撃ち落とすという名目で秋田と山口に配備が決まったが、住民運動によって実現しなかった。

「防御目的の施設でも難しい。攻撃用兵器の受け入れは更に難しいのでは」と、米軍の対中ミサイル網は水面下の懸案事項になっていた。それが2020年の状況である。

それがウクライナ戦争で一変した。なんと米軍でなく日本が「自主的に防衛方針を大転換」して防衛予算を倍増し、「専守防衛」を有名無実化する「敵基地攻撃能力」を持ち、アメリカから攻撃用ミサイルを大量に買って「中国の脅威に共同で対処」ということになった。

この「コペルニクス的方針大転換」を「米国は歓迎」。当たり前である。米国がやりたかったが、カネはかかるし、日本国民の反対が心配だった。それを日本が43兆円という大盤振る舞いでやってくれるという。「歓迎」どころか「超ありがたい話」だろう。

面目躍如で岸田首相は日米首脳会談に臨む。日本国民は多額の税金だけではない。場合によっては、万人規模の命を差し出す危ない橋を渡ることになる。

ことの本質が伝えられないまま、何事もないかのように重大事が進む今の政治状況は異常ではないか。

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