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女性の就業増で人口減少のインパクトを補える時代は終わった(2)【連載企画:人口動態と労働市場(全5回)】
『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第46回

8月 20日 2021年 経済

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山本謙三(やまもと・けんぞう)

o オフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。

「人口動態と労働市場」の2回目として、女性就業者の現状と先行きをみてみたい。

1990年代半ば以降の労働市場の特徴は、女性就業者の大幅増加にあった。95年から2020年の25年間に、男性の就業者は134万人減った。対照的に、女性の就業者は354万人増えた。就業者全体に占める女性の比率は、20年時点で44%まで上がっている。

 ◆意識、人口動態、産業構造の変化

女性就業率の上昇には、いくつかの要因を指摘できる。

第一は、社会の意識改革が進み、女性の社会進出が進んだことだ。以前は、高校、短大、大学の卒業後、短期間就職したのちに結婚して家庭に入る女性が多かった。しかし、男女雇用均等化法の施行(1986年)などを経て、社会の意識が変わった。大学の女子学生比率は上昇し、企業の新卒採用も女子が男子の一部を代替するようになった。

第二は、人口動態の変化が女性の就業を後押ししたことだ。90年代半ば以降、生産年齢人口(15~64歳)は約1300万人減った。これだけ若年・中堅層の数が減れば、労働供給の減少は避けられない。一方、高齢化が進み、医療、介護の分野を中心に労働需要は高まった。需給ギャップの拡大が、女性の就業増加につながった。

 第三は、産業構造の転換が女性に対する求人を増やしたことだ。製造業では、機械化の進展やグローバルサプライチェーンの形成を背景に、雇用が減少した。一方、看護・介護の分野は、雇用が大幅に増加した。女性の就業増加は、製造業からサービス部門への構造変化を反映している。

 ◆M字カーブは消滅へ

参考1は、男女の労働力人口比率を年齢階層別に並べたものである。労働力人口とは、「就業者」と「完全失業者」の合計をいう。大づかみにいえば、実際に働いている人と働こうとしている人の数だ。

(参考1)男女別労働力人口比率(1995年、2020年)

(出典)総務省統計局「労働力調査」を基に筆者作成

女性の労働力人口比率を結んだ線は、従来「M字カーブ」と呼ばれてきた。以前は、結婚、出産期に当たる20歳代後半から30歳代後半にかけて、職場を離れる女性が多かった。この結果、曲線の中央部がへこみ、アルファベットの大文字Mに似た形状にあった。

 しかし、90年代半ば以降、若年、中堅女性の労働参加が進んだ。未婚率が高まったことに加えて、結婚や出産を迎えても職場に残る女性が増えた。曲線Mのへこみは年々浅くなり、もはや「M字」とは呼べない状態にある。

◆女性の労働力人口比率の上昇だけでは、もはや就業者の減少を補えない

では、先行きはどうか。ここでは、労働力人口比率に一定の仮定を置いて、労働力人口の変化を機械的に計算してみたい。

ターゲットは2045年とする。日本では45年ごろまで高齢者が増え、労働需給はひっ迫を続けると予想されるからだ。また、45年であれば、参考1の「1995年から2020年までの25年間」と同一年数となり、比較しやすい。

基本ケースとして、労働力人口比率が2020年以降変わらないと仮定し、これに45年の年齢階層別人口(推計)を乗じて、男女の労働力人口がどう変化するかを計算してみる。結果は、男性784万人の減少、女性684万人の減少となった。実に、労働力人口全体の20%以上が失われる計算だ。

この減少分を女性の労働参加増(労働力人口比率の向上)でどれほど補えるかを確認するのが、試算の目的だ。試算結果は、参考2のとおりである。

(参考2)2020年から45年にかけての労働力人口の増減試算

(出典)国立社会保障・人口問題研究所「人口の将来推計(平成29年推計)」、総務省統計局「労働力調査」を基に、筆者作成

設例1は、M字カーブが完全に消滅し、20歳代後半から60歳代前半の水準がフラット化するケースである。労働力人口比率には、20年時点で最も高い水準である85.9%(20歳代後半女性)を当てる。一方、25歳未満および65歳以上の年齢層は、20年時点の比率がそのまま維持されると仮定する。結果は、461万人の減少となった。

設例2は、20歳代後半から60歳代前半の労働力人口比率がすべて90%まで上昇するケースである。また、60歳代後半以降は20年時点の男性並みを仮定する。結果は、36万人の減少となった。

設例3は、20歳代後半以降の水準をすべて20年時点の男性並みとするケースである。若年・中堅の女性の労働力人口比率は、設例2に比べ5%前後上昇する。結果は、51万人の増加となった。

 (注)基本ケース→設例1、設例1→設例2を比べると、20歳代後半から60歳代前半にかけて、労働力人口比率の上昇はともに5%程度にもかかわらず、就業者数の変化幅は後者がはるかに大きい。これは、60歳代後半以上の仮定を、前者は20年時点の女性の労働力人口比率、後者は同男性としたことによる。

◆労働市場はこれまでとまったく違う局面に

試算が示唆するのは、労働市場は今後これまでとまったく違う局面に入るということだ。

従来は、女性の労働参加が人口減少に伴う男性の労働力人口の減少を補ってきた。しかし、今後、女性の労働参加増(労働力人口比率の向上)は、女性自身の労働力減少分を補うのが精いっぱいだ。男性労働力の減少分を補うことは、到底不可能とみえる。

実質経済成長率の観点からみれば、日本はこれまで、労働生産性の低下を女性、高齢者の就業増で補ってきた。しかし、これからは、その逆、すなわち就業者の減少を、労働生産性の向上で補う姿を目指さなければならない。

人口減少との闘いは、これまでは助走期間にすぎなかった。本当の闘いは、これから始まる。

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