п»ї 「消滅可能性都市」の虚実全国の問題を地方の問題と取り違えるな 『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第75回 | ニュース屋台村

「消滅可能性都市」の虚実
全国の問題を地方の問題と取り違えるな
『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第75回

6月 12日 2024年 経済

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山本謙三(やまもと・けんぞう)

oオフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。

今年4月、民間の有識者による人口戦略会議が「令和6年・地方自治体『消滅可能性都市』分析レポート」を公表した。3か月前に公表した「人口ビジョン2100」に続くレポートで、2014年に日本創成会議が行った試算のアップデート版である。

試算結果では、1729自治体中744が消滅可能性都市に該当するという。

10年前は1799自治体中896がこれに当たるとされ、この試算をきっかけに、多額の財政資金が地方に投入された。いわゆる「地方創生」である。

 ◆いずれは全国ほぼすべてが「消滅可能性都市」に

「消滅可能性都市」は、出産適齢期に当たる20~39歳の女性人口が30年後(今回の試算では2050年)までに5割以上減少する自治体をいう。

だが、「消滅可能性都市」の議論はミスリーディングだ。2050年の姿は、人口減少の中途段階の一断面に過ぎない。日本の人口減少は、地方圏に始まり、大都市圏へと広がる。試算も2050年を超えてさらに先へと延ばせば、いずれは全国ほぼすべての自治体が消滅可能性都市になるはずだ。

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によれば、20~39歳女性の人口は2110年までに2020年対比6割以上減少する(参考1参照)。たとえ大都市圏の自治体であっても、同人口の減少は免れない。それが、合計特殊出生率(2023年1.20)が人口置換水準(2.07)を下回ることの意味である。

(参考1)20~39歳人口の2020年対比減少率の推移

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(2022年推計)」をもとに筆者作成

  課題は、あくまで日本全体の人口減少をどう食い止めるかだ。その意味で、人口戦略会議の「人口ビジョン2100」は的を射た議論である。一方、消滅可能性都市の試算を、前回のように地方の問題と位置づけ、地方起点で施策を組むのは、コトの本質を見誤らせる危険性が高い。

◆なぜ消滅可能性都市は減ったのか

興味深いのは、今回の試算で消滅可能性都市が150あまり減ったことだ。外国からの大量の人口流入が、20~39歳女性人口の減少スピードを緩和させたものとみられる。

拙稿第73回(「『東京一極集中論』は今や的を外している―国外からの人口流入で全国28都道府県が『流入超』に」) で指摘したように、外国からの人口流入は、2022年以降、一段と加速しており、「東京一極集中論」もいまや怪しい。

「東京一極集中論」は、国内の人口流出入だけに着目した議論だが、社会移動には、国内だけでなく国外からの流出入もある。外国からの流出入も加味すると、2023年中の人口移動は、全国28都道府県が流入超となった。うち21道府県は、国内の人口移動だけでは流出超ながらも、国外からの流入超がその数を上回り、全体として人口流入超となったものだ。

外国からの人口流入は、いまや全国津々浦々に及び、国内労働市場に地殻変動をもたらしている。今後の日本経済は、外国からの人口移動を抜きに語ることはできない。

(参考2)人口流出入超の都道府県別内訳(2023年中、国外からの流入超を含む)

総務省「住民基本台帳 人口移動報告」をもとに筆者作成

◆検証が必要な地方創生施策

10年前、国は地方創生を開始するに当たり、各自治体に資金を配り、それぞれの「人口ビジョン」と「総合戦略」を策定するよう求めた。多くの自治体は、国が当時掲げていた「2030~40年頃に出生率を2.07まで回復させ、60年ごろに人口1億人を確保する」との目標を前提に、人口ビジョンを策定した。その中心は、子育て支援の充実による子育て世代の呼び込み策や地方移住支援など、国内他地域への流出抑制策と国内他地域からの流入促進策だった。

しかし、現実は全く異なる動きとなった。出生率は低下が続き、国内の人口流出入の傾向にもほとんど変化が見られなかった。他方、国外からの人口流入の加速によって、大都市圏も地方圏も人口の減少スピードが幾分緩やかになった。

過去10年にわたる地方創生施策とは、一体何だったのか。そろそろ真の検証が必要だろう。

◆カギを握るのは競争力のある産業の有無

日本では、生産年齢人口(15〜64歳)の減少が加速する一方、2040年代半ばまで高齢層の人口が緩やかに増え続ける。少ない数の若年・中堅層で日本の人口を支える構図が一段と鮮明になる。働く年齢層中心の外国人の流入は、こうした国内の人口のアンバランスを緩和する上で重要な役割を果たす。

だが、課題は山積している。

第1に、地域のコミュニティーがどこまで外国からの人口流入を受け入れられるかである。2060〜70年頃までには、日本の人口の約1割が外国人になるとの試算もある。円滑にこれを進めていくには、一段の態勢整備と理解が必要となる。

第2に、いまは、目先の人手不足を埋めるために外国人の受け入れを積極化している企業が多いが、人口が減少する社会にあっては、企業自身が将来に向けて競争力を高めていけるかどうかが問われる。日本人にも外国人にも安定した就労機会を提供できなければ、企業も地域も生き残れない。

究極的には、国内の出生率の低下を食いとめることと、外国からの流入を着実に進めること、の2点に凝縮される。日本社会全体として、これらにどう取り組んでいくのか。地方圏、大都市圏といった切り口でない取り組みが求められる。

※『山本謙三の金融経済イニシアティブ』過去の関連記事は以下の通り

第73回「『東京一極集中』論はいまや的を外している―国外からの人口流入で28都道府県が『流入超過』に」(2024年2月6日付)

https://www.newsyataimura.com/yamamoto-64/#more-14535

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