「当事者の声」を聴けない為政者たち
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第73回

3月 25日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆おうかがいに無視

「保育園落ちた。日本死ね」との匿名ブログの発言は国会で取り上げられ、結果的に待機児童の問題を浮き彫りにし、政府からは「具体的な対策」を引き出すことになった。当初、安倍晋三首相は匿名ブログの内容には「確認しようがない」と否定的な反応であったが、問題の広がりに、その根深さを実感したのだろう。

当初の政府対応には、「取るに足らない」という庶民へのスタンスが透けて見える。それは、私も一人の「就労移行支援事業所」という福祉職員として現行の制度や問題点を指摘し、よりよい制度設計をお話ししたいと、「議員さん」に申し入れても、ほとんどがうまくかわされるか、無視されるという対応に直面したことから、よく分かる。

これは以前、記者だった時代は考えられない対応である。記者の自分は、電話やメールで疑問を本人や秘書に伝え、取材の必要を迫り、直接会うことができた。しかし「福祉職員」という立場では、議員の対応は記者時代とは程遠く、無視を決め込んだような人もいる。申し出に対してありがたいことに私の自宅住所に後援会入会の案内を送ってくれた例もあった。

◆1人の望み

私の申し出は都道府県の認可を受けて運営する上で、配備しなければいけない人材である「サービス管理責任者」資格についてであった。責任者の要件を満たすには、福祉事業に一定の期間従事した経験がある上で各都道府県主催の「サービス管理責任者研修」を受講する必要がある。

私の事業所ももちろん、条件を満たすために所管の埼玉県主催の研修を申し込んだところ、埼玉県は「定員がいっぱいで、他の自治体で受けてほしい」と言う。それでは東京都と思い、申し込んだところ、ここでも同じ対応。研修を受けなければ有資格者を失い、事業が存続できなくなる死活問題となる。研修を受けようと秋田、北海道、奈良と問い合わせや申し込みをしても同様で、結局、私の事業所の職員は佐賀県で研修を受けることになった。

日々、精神疾患者と向き合う仕事は、ハードである。また運営面では、法令上の定員やスタッフ数も決められた中では大きな収益も望めない。その中で職員が佐賀まで研修に行かなければならないことは、やはり不自然である。制度設計上の問題を建設的な現場からの視点をお伝えしようと、先生方におうかがいを立てたのである。

◆心を入れ替えよう

私が声をかけた国会議員、東京都議会議員、埼玉県会議員やそのほかの地方議会議員のうち、直接面談で話を聴いてくれたのが、東京都議会議員の1人のみ。そのベテラン議員は「やはり現場の声はありがたい。今回の指摘を受けて改善できることを東京都が率先してやっていきたい」と言われたのが救いではあるが、「それは、あなただから出来た」と福祉の現場から言われることがある。やはり実際には福祉の現場で改善への要望や思いを持ちつつも、先生までたどり着けない声はどれだけあるのだろうと、思う。そして、今回の指摘に対しても今後の東京都の政策を見極めたい。

「就労移行支援」もまだまだ成熟していない制度だから、現場の声を吸い上げるフェーズであるはずが、為政者の反応は鈍い。結局、待機児童の問題でも、私のおうかがいでも、当事者の声を聴くという姿勢の問題。その制度化としての公聴会がその役割を果たしていないのは「さくら」「やらせ」問題の発覚から明らかである。為政者もメディアも当事者の声からの吸い上げの仕組みのない中で、「聴く」という行為そのものを心入れ替えて考えるべきであろう。

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