「福祉」と「経済」の流れる時間の違いを考える
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第70回

3月 04日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆「悪い」のではなく

2月25日に東京都の独立行政法人主催で開催された障がい者の就労支援に関するセミナーでのこと。就労支援の支援者や受け入れ側の事業者との意見交換で、受け入れ側となる某中堅生命保険会社の人事担当者による発言の端々が気になった。

「(精神障がい者の)欠席率が高く定着率が悪い」「作業効率が悪く、能率上げる対応が必要」「コミュニケーションの問題が多い」など。障がい者雇用をする企業の率直な言葉なのだが、これをどう捉えるかで、その人の障がい者に対する視線が決まってくるような気がする。

これを当然と思うか、もしくは不快と思うか――。

就労移行の支援をする私の立場では、「この視点では健全な障がい者雇用はできない」し、障がい者の心理を圧迫することにつながると思うから、「不快」、である。言っている意味は同じなのだが、「定着率が悪い」「効率悪い」のではなく、「定着が安定しない」「効率が一定以上上がらない」であり、「コミュケーション問題」ではなく「コミュニケーションに関する課題」なのである。

この二つの言い方は視点の違いである。雇用した障がい者を問題のある従業員とみるのか、課題を克服しながらともに働く仲間と見るのかの違いとも言える。

◆時間を支配する人

仲間意識があれば「悪い」という表現は出てこない。一般的な従業員ができないことを「問題」とせずに、「課題」として、それを認めるか、解決の道筋を探るはずである。先ほどの某保険会社の担当者には、その意識がなかった。むしろ、厄介者のような印象さえ漂わせた。悲しいことだが、私はこれを日本の企業者の認識の平均値だと受け止めている。

企業の価値基準は生産能率や作業効率の良し悪しで判断しており、利益追求する宿命上、それは自然なこと。一般の従業員でさえそのスピードに振り回され、振り落とされている昨今に、精神、知的の両障がい者が性質上、企業の宿命と相いれない存在であることをまずは認めなければならない。性質の違いを簡単に言えば、「時間の流れ」である。ゆったりとした「福祉」の時間の流れに対する、スピード目まぐるしい「経済」の時間の流れは大きな違いがある。

障がい者との相談に「福祉」で乗れば、その相談時間は当事者本位で長い時間を割くのが基本だが、経済の場合は仕事の流れが優先で職務上位者が時間を支配する。その時間も短く、急かされるスピード感がある。

障がい者が気持ちよく働くには、「福祉」の時間の流れで、時間を支配する責任者が障がい者に対応し、安心させる必要があるのだが、やはり効率とは相いれない。

◆手を差し伸べる人

障がい者雇用を定着させるには、「経済」と「福祉」の橋渡し役が必要なのだが、どちらの「時間」の流れを採用するのかが悩ましい。企業に「福祉」時間を採用するのはよほどの工夫と発想の転換が必要である。

冒頭のセミナーでの発言に、「不快」な気分になる中、救われる事例が、とある事業所から紹介された。それは食品スーパーに就労した障がい者のケースで、従業員として「普通のこと」ができなかった、その障がい者に理解を示し、「橋渡し役」として手を差し伸べたのは、外国人労働者だったという。「日本語が十分に話せない障がい」の環境にいるからこそ、外国人労働者は弱者の立場を理解したのだろう。お互いに感じ合う弱者同士の助け合い、である。

「経済」の時間に支配されながら、ハンディを克服する一つのアイディアとして、この接点の可能性は面白い。障がい者手帳の取得数の増加や難民というキーワードから眺めれば、新たな福祉社会像も見えてきそうだ。

「ジャーナリスティックなやさしい未来」での過去の関連記事は以下です。

身近な自死と25000人を考える
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ケアメディアの確立を目指して
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